第一話
片腕有角の仙人

 
* 初出: キャラ☆メル Febri Vol.01 (2010年7月24日発売)

最終更新日2011年8月28日、今回の華扇さん追加、華扇の項に華仙姑処女と何仙姑を追加
* 更新履歴: 2011年8月17日、ザッカンを新規ページとしてまとめ直し
         2010年7月27日、TOPページにてザッカンとして更新

 

★ 今回の華扇さん
 
 初登場回。
 霊夢や魔理沙とは既に面識があったようだが、
 名前は覚えられておらず、ただ説教臭い仙人という人物像のみであった。
 水消えて――と、茨木童子を連想させる和歌が第一声。
 過去を振り返る修行とやらで長寿延命を得ていると言う。
 二つ名や魔理沙達は仙人と言うが、本人はただの行者と紹介するのみ。
 小鳥を使役して情報を得ていた。
 右腕は包帯を巻いているが実体を持たない。
 茨木童子の様に失った腕を求めるのか、神社に奉納された腕に興味を示し、
 それをきっかけに霊夢達をしばしば訪ねるようになる。

 

* 奉納物
 
 魔理沙のセリフにある通り、これまではお酒であった例が何度かある。
 東方萃夢想・紫ストーリー霊夢戦、東方香霖堂・第21話、
 東方三月精OSP・第2話など。
 今回はなぜか唐突に、「河童の腕」 と記された箱が発見された。

 

* 霧雨魔理沙
 
 「大胆小心な人間」
 宴会の幹事や妖怪退治、泥棒行為など
 大胆不敵、傍若無人な振る舞いが際立つ魔理沙だが、
 研究に精を出す、魔法の森を住処とする、人妖との交遊関係などから
 小心に結びつく心理を垣間見る事も難しくはない、のかもしれない。
 
 茨歌仙では話題をもたらす役であり、聞き役・解説役、といったところか。
 妖々夢マニュアルなどで丹の研究をした経験もあるが、
 不老長寿への憧れまたは興味があると見られ、
 茨木華扇を人間サイドのコンサルタント役に引き入れる。

 

* 博麗霊夢
 
 「自由奔放な人間」
 何に対してもニュートラルで宙に浮く、境界の巫女。
 風神録以来の信仰欲を、本作ではなお素直に発露する姿が見とめられる。
 時に我欲、執着の結晶にも見え、茨木華扇のお叱りを受けることとなる。

 

* 河童の腕
 
 河童の腕は伸縮自在である。
 但し、その腕は左右通して一本であるため、
 一方を伸ばせば他方が縮んでしまう。
 河童はしばしば馬を引き込もうとしたり尻をなでようとしたりした伝承で
 よく腕を斬られたり捥がれたり引き抜かれたりする。
 腕を返してもらう代わりにと、以降の悪戯を自粛したり侘証文を残したり
 魚や膳椀といった利益をもたらしたり薬や接骨術を教えたりする。
 このネタに沿ったのが、東方風神録で河城にとりが使用したスペル、
 河童「のびーるアーム」である。本話でも言及あり。
 今回は、おもちゃのマジックハンド。
 
 また、「河童の腕」は、各地の寺院などに伝えられてもおり、
 妖怪類のミイラとされるものの一種である。
 曹源寺(東京都台東区)の 「水虎の手」 などが知られる。
 
   参考
   「妖怪ウォーカー」 村上健司著、角川書店

 

* 茨木華扇 (茨華仙)
 
 「片腕有角の仙人」
 包帯が巻かれた右腕は実体を持たないことが本話からうかがえる。
 一方、角を有する描写は2011年7月時点で皆無だが、
 有角とされる以上は、頭部のシニヨンキャップに隠れていると見て良いだろう。
 周囲からは仙人と言われるが、本人が仙人を自称するケースは少なく、
 周囲に仙人と思わせる言動を意識的に行なっている節がある。
 角を隠していることや旧地獄と地上の交流を断ちたがっていること、
 茨木の元ネタから、何らかの事情を有する鬼と思われる。
 
 茨木華扇が本名、茨華仙は別名(号)。
 
 怨霊の消滅、瞬間移動、龍や大鵬を含む種々の動物の使役ができる。
 能力(○○する程度の能力)は不明。
 
 茨木は茨木童子 (いばらきどうじ) より。
 茨木童子は御伽草子「酒呑童子」中の鬼の名で酒呑童子の配下。
 謡曲 「茨木」では、 羅生門にて渡辺綱に片腕を切り落されるが、
 その伯母に化けて奪い返す。
 
 華扇や華仙は、花扇や花仙からだろうか。
 (茨歌仙のタイトルが先行とする考えもありだが、扇の説明がいずれにせよ必要)
 花扇 (けせんはなおうぎ) は7種の草花を束ね檀紙で包み、
 水引で扇形に装飾したもの。
 花仙は花中神仙の略で、植物・海棠の異称。
 関連は不明。
 また、京極夏彦の 「塗仏の宴」 に
 占い師・華仙姑処女 (かせんこおとめ) が登場する。
 この元ネタは中国伝承の八人の仙人・八仙の紅一点、何仙姑 (かせんこ) である。
 女性の仙人を仙姑と言うため、性別にこだわらずに仙人を言えば姑を使わずともよく、
 華扇の命名がいずれかにちなむ可能性もあるが、関連は不明。
 
 服の模様やコサージュは茨 (薔薇) だが、単行本第1巻によれば
 あずまあや氏のデザインであるようだ。
 ZUN氏のデザイン指定は、角隠しのシニヨンキャップ、隻腕隠しの包帯、
 萃香や勇儀にも見られる枷、仙人ということでの中華風衣装、
 といったところであったろうと推測される。
 
   参考
   「広辞苑 第五版」(茨木童子、花扇、花仙)
   「一迅社WEB」> 東方茨歌仙
   「日本妖怪大事典」 村上健司編著、角川書店 (茨木童子)
   「塗仏の宴 宴の支度」 京極夏彦著、講談社文庫
   「塗仏の宴 宴の始末」 京極夏彦著、講談社文庫
   「Wikipedia」(何仙姑

 

* 水消えて波は旧苔の髪を洗う
 
 平安時代の漢詩人、都良香 (みやこのよしか) の漢詩より。
 「和漢朗詠集」 の 「早春」 に、「気霽風梳新柳髪。氷消波洗旧苔鬚。」 がある。
 
  気霽 () れては風 新柳の髪を梳 (くしけづ) り、
  氷消えては波 旧苔 (きゅうたい) の鬚を洗う。
 
  (天気がおだやかに晴れて、風は萌え出た柳の枝を、
   髪をくしけずるように靡かせる。
   池の氷が消えて、波は古びた苔を、髭を洗うように打ち寄せる。)
 
 「十訓抄」 には、都良香が羅生門を通り過ぎる際に
 「気霽風梳新柳髪」 と吟じたところ、
 羅生門の鬼が 「氷消波洗旧苔鬚」 の句を次いで詠んだと語られる。
 この鬼、「後、渡辺綱がために腕をきられ、からきめ見たるもこの鬼神にや」 と
 十訓抄に表されている。
 
 渡辺綱が鬼の腕を斬り落とすのは 「平家物語」 の 「剣の巻」 に登場の鬼だが、
 一条戻り橋での出来事である。
 一方、謡曲 「羅生門」 では渡辺綱は羅生門の鬼の腕を斬り落とす。
 これらに取材し、明治に謡曲 「羅生門」 の続きとして作られた謡曲 「茨木」 では
 茨木童子が渡辺綱により羅生門で腕を斬り落とされ、
 その腕を綱の伯母に化けて取り返しに来る鬼とされている。
 
 茨木童子=羅生門の鬼とし、羅生門の鬼が吟じたとされる句を
 華扇が登場第一声として回顧とともに吟じたのだろう。
 回顧の切欠は、里の入口の何やら立派と言うか大仰な門を見た事。
 
 詩の方は、吟じ手が少女なので、鬚を髪に変更したものか。
 水消えては氷消えての誤植と思われるが、
 本話が元ネタの早春ではなく水無月だったという解釈も可能か。
 旧苔 (きゅうたい) のルビは 「きゅうこけ」 と誤っている。
 
   参考
   「千人万首」>> 資料編・和歌に影響を与えた漢詩文
   「物語要素事典」> 門
   「日本妖怪大事典」 村上健司編著、角川書店 (茨木童子)

 

* 寿命を延ばす修行
 
 この世に生を受けてからこれまでの全ての出来事を
 くり返しくり返し思い出す、過去を再体験することが寿命を延ばす、とのこと。
 
 内丹術の理念を応用したものだろうか。
 不老不死の薬などの創出を目指す外丹に対し、
 身体内の気を養い心身を変容させるのが内丹である。
 内丹術は、道教の身体技法を基に、身体内の根源的な生命力である 「気」 を養い、
 生から死への摩耗過程から気を内丹として再生し、気としての身心を
 根源の状態に復帰させようとする修行体系である。
 純粋なる根源は天地と同等の永遠性を備える。
 本来純粋な気は欲望などで損耗するが、
 利己の心身から自己へと立ち戻ることが肝要である。
 
   参考
   「Wikipedia」(内丹術

 

 

→東方備望録TOPへ