第二話
意図的に捨てられた技術と地獄

 
* 初出: キャラ☆メル Febri Vol.02 (2010年9月25日発売)

最終更新日2011年12月11日、今回の華扇さんに 「隠形」 を追加
  更新履歴: 2011年8月28日、今回の華扇さん追加
         2011年8月17日、ザッカンを新規ページとしてまとめ直し
         2010年9月26日、TOPページにてザッカンとして更新

 

★ 今回の華扇さん
 
 神社に忽然と現れ、早苗を驚かせる。
 実体の無いはずの右腕で怨霊を掴み、変質させ砕く。
 「地獄、いや、今は旧地獄」と言い直したり、
 幻想郷と旧地獄の繋がりを積極的に断とうとしたりと
 地獄の関係者であることを伺わせ、また、地獄には何か不都合がある様子。
 地霊殿メンバーか萃香にでも遭遇すれば何か判明するかもしれないが、
 お燐は結局神社に住み込んではいないのだろうか。
 
 なお、瞬間移動は妹紅(東方文花帖・サンジェルマン)やレイセン(東方儚月抄)、
 輝夜(東方永夜抄・EXストーリー)、そして霊夢(東方萃夢想など)が披露しており、
 東方では意外とよくある。
 また、伝承の仙人もまた、姿を隠したり現したりすることが自在という術を持つ。
 いわゆる隠形の術であるが、鬼の語源は 「隠 (おに)」、
 すなわち姿が見えない意からとされ、隠形術と鬼は相性が良いと言えそうである。
 
    参考
    「列仙伝・神仙伝」 劉向・葛洪著、沢田瑞穂訳、平凡社ライブラリー
    「広辞苑 第五版」 (隠形、鬼)

 

* 東風谷早苗
 
 「皮相浅薄な人間」
 皮相浅薄 (ひそうせんぱく
   「表面的で底が浅いこと。知識、思慮、学問などが非常に浅いこと」
 巨大ロボや今回の常温核融合など、偏っているきらいはあるが、
 知識面では非常に浅いとは言えない早苗。
 ここでは、思慮が浅いことであろう。
 神奈子様のいうとおり。諏訪子様のいうとおり。(東方星蓮船)
 
 あるいは、非想天則との語呂合わせ、ということもあるだろうか?
 非想天則は知識どころか頭からっぽである。
 
 本編では、神奈子&諏訪子の信仰獲得戦略案を受けてのお使いや
 ぶらりと遊びに来たりして、外の知識に基づいた解説や蘊蓄を放つ役。
 
   参考
   「四字熟語データバンク」(皮相浅薄)

 

* 核融合炉
 
 東方地霊殿にて作られた、霊烏路空をメインに据えての核融合炉。
 東方非想天則では地下の核融合炉と直上の温泉&間欠泉を
 まるごと一つの施設としての間欠泉センターが登場している。
 本話の内容によれば、距離と地下の妖怪たちが炉心へのアクセスに対して
 大きな障壁 (コスト) となって不安定で不完全なシステムを保ちきれないようだ。
 本話で 「地獄の釜」 と表現されるのが、
 お空の能力で復活した火焔地獄跡 (灼熱地獄跡) である。
 この地下深くの地獄の釜への距離、
 お空の能力や個人の不安定性&不完全性により
 核融合炉に改善または新案が求められるに至った。
 
 「地獄の釜」 に呼応したのか、
 「旧地獄の蓋を閉める」 という表現も本話で登場する。
 「地獄の釜の蓋もあく」の慣用句を意識したものだろうか。
 「正月と盆との16日は閻魔にお参りする日で、鬼さえもこの日は罪人を呵責しない」
 の意だが、旧地獄の封印が解かれて幻想郷と干渉していることを
 旧地獄の封印の蓋が開いたと表現しているといったところか。
 
   参考
   「広辞苑 第五版」(地獄の釜の蓋もあく)

 

* 地獄谷
 
 「間欠泉センター」 と紹介されるが、華扇は 「地獄谷」 と呼ぶ。
 旧地獄の怨霊が湧くことも踏まえた上で 「文字通り」 と評したり
 地獄を旧地獄と言い直すあたり、以前の地獄、特に鬼達と関わりが疑える。
 
 本物の温泉であれば、火山性ガスとしての硫黄ガスで危険なケースもあるが、
 この地獄谷には何故それが湧いているかは不明。
 灼熱地獄 → 地下水を加熱 → 定期的な水蒸気爆発の間欠泉+温泉
 という仕組みであれば火山性ガスも発生しないが、
 灼熱地獄が本当にマントルと直結でもしているのか、
 間欠泉で地層をぶち抜いて、普通に温泉も湧いているのだろうか。
 後者の場合、地底の核融合炉を停止しても温泉は止まらない…。
 地上と地底の一つの大きな関係は無くなるので、華扇の目論見通り、
 地底は隔絶されるし怨霊も湧いて来なくなるが。
 あるいは、後の話に語られる、地獄の罪人の欲から金属が生じる様に
 幻想的な原理で硫黄も発生しているのだろうか。
 
 地獄谷や地獄谷温泉と呼ばれるところは全国複数箇所に見られる。
 火山性ガスや温泉の蒸気熱などで草木が生えない様子、あるいは
 極めて高温の温泉が湧出する源泉地帯、間欠泉などの様子から
 地獄の様相に例えられて地獄谷と呼ばれる。
 間欠泉も伴う地獄谷と言えば、長野県下高井郡の地獄谷温泉がある。
 
   参考
   「Wikipedia」(地獄地獄谷温泉

 

* 常温核融合
 
 通常は極度の高温と高圧が必要な水素原子の核融合反応が、
 室温程度の温度環境で起きるとされる現象が常温核融合である。
 1989年にマルチン・フライスマンとスタン・ポンスにより
 この現象が確認されたと発表された。
 重水にパラジウムとプラチナの電極を入れて電流を流したところ、
 電解熱以上の発熱が得られ、トリチウム・中性子・ガンマ線を検出したとされる。
 世界中で多数行なわれた追試の多くでは同現象は再現されず、
 追試に成功したとする報告も、その条件での再現性は得られなかったと言われる。
 米国エネルギー省の見解は、現象が起きたという根拠は無い、というもの。
 一方で、過剰熱の発生の可能性も指摘されている。
 
 パラジウムは原子番号46の白金族元素であり、
 触媒・電気接点・歯科材料に使用される。
 また、自分の体積の935倍もの水素を吸蔵する性質が著しく、
 水素吸蔵合金として利用される。
 高価なのが難点。
 今回は水の電気分解で発生した水素をパラジウムが吸着し、
 吸着されすぎた水素同士がやがて融合する現象を目指す。
 
 神奈子の実験では桶に張られた水中にパラジウム合金の御柱が立てられ、
 パラジウム合金に2本の電極をつないで通電していたが、
 そこは神秘的な力によるものか、電気が流れたようだ。
 実際は、水ではなく電解質を含んだ重水に、
 パラジウム(陰極)とプラチナ(陽極)の電極を差し込んで通電しなければならない。
 
 一方、常温核融合については、早苗の紹介にあるような、
 その研究自体が政治的に封殺されているという主張がある。
 公的な研究費助成が得られず、論文も投稿がリジェクトされて出版できないという。
 ノーベル賞受賞者は論文出版の自由裁量権が認められているが、
 ジュリアン・シュウィンガーが常温核融合に関する論文の投稿を
 米国物理学協会に拒絶されたという話がある。
 
 タイトルの通り意図的に捨てられた技術かは不明だが、
 本話では意図的に捨てられた地獄 (旧地獄) とマッチさせている。
 両者とも幻想郷 (地上) に新たに関わってきているが、
 地獄の方との接触は積極的に除きたい華扇であった。
 
   参考
   「広辞苑 第五版」(パラジウム)
   「Wikipedia」(常温核融合パラジウム水素吸蔵合金
   「未来を築く常温核融合」> p.4 ※注:PDFファイル

 

* 金山彦命
 
 かなやまびこのみこと
 記紀神話に見られる神。
 古事記では金山比古神、日本書紀では金山彦と表される。
 鉱山、金属やそれに関する技工を守護する神とされる。
 
 東方儚月抄では綿月依姫が召喚し、金属を操る能力を披露した。
 その際は銀のナイフを塵にし、再生した。
 今回はパラジウム合金の御柱を鋳造。

 

* 八坂神奈子
 
 「独立不撓の神様」
 独立不撓 (どくりつふとう
   「他人に頼ることなく、自分の力だけでやり抜くこと」
 早苗との対比であろう。
 神奈子様のいうとおり。
 また、独立不倒と置き換えると御柱っぽいところも
 この四字熟語が神奈子に採用されたポイントだろうか。
 
 信仰心の獲得、シェア拡大のために
 風神録以来あの手この手で戦略展開を行なっている。
 
 乾を創造する能力により天を操作可能と考えられる。
 本話でピカーっと輝き電気を発生させたのは
 その能力から雷の電気を利用したものと思われる。
 
   参考
   「四字熟語データバンク」(独立不撓)

 

* 地獄の使者
 
 華扇の独白に見えるキーワード。
 天人や仙人が長寿を獲得するのは
 死神の 「お迎え」 を撃退しているため。
 一般的には死神やあの世からのお迎えということで地獄の使者。
 芥川龍之介の 「二人小町」 の、黄泉の使いを追い返して
 死の運命を回避した話も意識しているかもしれないが。
 華扇は旧地獄からの何らかの使者を追い返しているのではなく、
 死神を追い返していることを言っているものと考えられる。

 

* 核熱魔人
 
 霊夢が実験で出現することを期待していた架空の生物。
 お空のスペルで 「核熱」 の単語はあるが、
 「核熱造神ヒソウテンソク」(東方非想天則のサウンドトラック)
 の方が元ネタだろうか?

 

 

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