第三話
罪人の金鉱床

 
* 初出: キャラ☆メル Febri Vol.03 (2010年11月25日発売)

最終更新日2011年8月28日、ザッカンを新規ページとしてまとめ直し
  
更新履歴: 2010年11月28日、TOPページにザッカンとして更新

 

★ 今回の華扇さん
 
 今回も怨霊を右腕で掴み、晶質化させ砕く。
 今回の発言を追うと、自身の正体を
 善人か聖人の振りをした大悪党であると述べている様に思える。
 鬼は嘘を吐かないとは萃香も主張し、
 酒呑童子も鬼に横道(正道から外れたこと)無しと言ったとされるが、
 そのような鬼の性質から外れるからこその大悪党という自己評価だろうか。
 死神、といってもお迎え役ではない小町だが、との邂逅も描かれる。
 華扇は仙人としてよりも別の角度から死神など地獄サイドから問題視されている模様。
 なお、前回の対処もむなしく、地獄谷へ足を運び続ける霊夢&魔理沙に対しては、
 今回の騒動でようやく説得に成功したようだ。

 

* 人牛倶忘
 
 茨華仙の屋敷に掛かる掛け軸。
 ○を一筆で記し、人牛倶忘の文字が添えられる。
 
 十牛図の第8図における、人牛倶忘 (にんぎゅうぐぼう) である。
 十牛図は禅の悟りに至る道筋を、牛を主題とした十枚の絵で表したものである。
 十枚の図の大半には人や牛が、少なくとも背景が描かれるが、
 「人牛倶忘」 には何も描かれない。
 牛 (悟りの見立て) を探し、見出し、手懐け、共に家へと帰り、
 そして牛のことを忘れる。
 やがてすべてが忘れさられ、無に帰一する段階を 「人牛倶忘」 が示す。
 悟りを得た修行者も特別な存在ではなく本来の自然な姿に気づく。
 
 また、京極夏彦の 「鉄鼠の檻」 においては、
 凡てがなくなった「無」、仏教で善く云う、凡ては無であるという所謂「絶対無」、
 絶対空の「円相」、と言及される。
 一方、絶対空を表す円相と言えば、
 明石散人が 「謎ジパング」 において円窓、丸が宇宙を表すと言及したが、
 こちらも禅僧・仙崖の宇宙図を引用し、○△□と宇宙を結びつけている。
 ○△□は萃香の鬼の鎖に見られる装飾で、
 「謎ジパング」 中の記述が元ネタと思われるが、
 それと関連する 「丸」 が華扇に仕込まれるのは興味深い点と言える。
 華扇の屋敷に複数の丸窓が見られるのも同じコンセプトだろうか。
 永遠亭の丸窓など中国風の要素ということもあるが。
 
   参考
   「Wikipedia」(十牛図
   「鉄鼠の檻」 京極夏彦著、講談社文庫
   「謎ジパング」 明石散人著、講談社文庫

 

* 小野塚小町
 
 「拓落失路の死神」
 拓落失路 (たくらくしつろ) は 「出世の道を失い、落ちぶれて失意の底に沈むこと。」
 サボタージュの死神は出世の見込み無し、か。
 
 船頭としての仕事はサボる一方で、
 今回は仙人(?)の監視など行なっている。
 監視以外にも死神の立場であればより重要な仕事があるはずだが、
 小町は 「お迎えなら担当の死神がやってくれる」 と華扇に言っている。
 通常の仙人であれば、まず人間としての寿命が尽きる頃にやってくる死神を追っ払い、
 その後も継続的に訪れるお迎えを断固拒否し続けなければならない。
 死神は仙人や人間のお迎えの仕事もあり、東方求聞史紀では
 死神を指して地獄からの刺客と表現されるが、
 船頭である小町とは役割の違う死神がお迎え担当と思われる。
 
 天人もまた同様の立場であり、東方緋想天においても
 小町と天子の間で似たような会話があった。
 東方緋想天でも幽霊を斬った天子に注意しており、
 割り当てられた以外の死神の仕事は背負い込んでしまう性質なのかもしれない。
 「お迎え体験版」 なる技もあったし。
 
 小野塚小町の元ネタの一人、小野小町は六歌仙や三十六歌仙に数えられる
 言わずと知れた 「歌仙」 であるため、仙人と死神の関係だけでなく
 東方茨歌仙のタイトルの観点からも重要な役割を担ってゆくだろうか。
 
   参考
   「広辞苑 第五版」(拓落失路)

 

* 泥棒を一匹見たら三十匹は居ると思え
 
 ゴキブリを一匹見たら…の改変だが、
 何匹いると思うべきかは様々なようだ。

 

* 温泉型金鉱床
 
 鉱床の多くは鉱液とよばれる水溶液から鉱物が沈澱して出来ており、
 火山活動に関連しての温泉などの熱水も鉱液に含まれる。
 火山や温泉に密接な鉱床は、鉱床が発見された頃には既に
 火山や温泉が浸食作用で失われているので関連付けが難しかったのだが、
 近年になって金属の生成を伴う火山や温泉が
 日本各地で発見されるようになっている。
 代表例として挙げられるのが恐山の金鉱床である。
 
 幻想郷の地獄谷は怨霊も湧くし火山性ガスもあるらしいので、
 地獄谷には恐山のイメージを当てることができるだろうか。
 
 また、恐山の金鉱床の例の他、北海道の地熱地帯にも、
 亜鉛、鉛、カドミウム、ヒ素、アンチモン、水銀などの高濃度異常が見られるようだ。
 水銀、砒素、アンチモン、鉛が本話で言及された金以外の元素であるので
 実例に基づいたものが挙げられていると言える。
 
   参考
   「Wikipedia」(恐山
   「産総研」>> 実験鉱床研究室
   「産総研・地質調査総合センター・太田充恒のページ」>>足元の化学・第6回

 

* 欲望から各種金属
 
 土中に生じる金属の発生源は怨霊の欲望という幻想メカニズム。
 五行思想で言えば相生関係の 「土生金」 と
 五情の中で 「怨」 が土行に当たることとからこじつけられなくもない。
 
 生きたいという欲望からは水銀が生じる。
 水銀と長寿延命の関係は錬丹術が元であろう。
 中国古代の神仙思想から発展した道教における長生術で、
 水銀化合物を主原料とする丹薬を不老長寿の霊薬として服用した。
 不老不死を望んだ古代中国の皇帝が水銀中毒で命を落としたり
 寿命を縮めたと言われる。
 また、丹薬の服用により長寿延命を実現しようという方法は外丹と分類されるが、
 もう一方の内丹は身体と意識と気によって体内に丹を煉るという方法である。
 内丹については第一話でも触れた。
 
 東方における水銀については、
 東方紅魔郷のマーキュリポイズンや東方文花帖の水銀の海も参考にされたい。
 魔法使いが水銀を使用するという魔理沙の発言は、
 パチュリーのマーキュリポイズンも指しているかもしれない。
 
 人を殺したいという欲望からは砒素が生じる。
 砒素化合物は水銀化合物と並んで、中世欧州において
 政治闘争やお家騒動にかかわる毒殺手段として最もポピュラーな物質であった。
 毒薬としての知名度の高さと、水銀は上記の様に不老不死の幻想があるため
 砒素の由来をこのように設定したのだろう。
 
   参考
   「Wikipedia」(五行思想錬丹術
   「毒のはなし」 D.バチヴァロワ、G.ネデルチェフ著、東京図書

 

 

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