8話
狐の奸計

 
* 従来通りならば 「第八話」 の表記だが、雑誌掲載版に準じて 「8話」 としています。

* 初出: キャラ☆メル Febri Vol.08 (2011年9月24日発売)

最終更新日2011年12月11日、ザッカンを新規ページとしてまとめ直し
  
更新履歴: 2011年9月26日、TOPページにザッカンとして更新

 

★ 今回の華扇さん
 
 博麗神社に押し寄せた人波の肩に管狐を発見し、捕獲を試みた。
 最初はテレポートの様にスッと移動してみたが、それを察知した管狐は姿を消してしまった。
 数日後に再度管狐を発見した華扇は、実体を持たない、包帯に包まれたその右腕を
 まずさり気なく服に隠した。すると、肘部の包帯が解かれ、その距離分を稼ぐかたちで
 右腕の前腕部が管狐に向けて飛び、気取られる事無く管狐の捕獲に成功した。
 
 テレポートの方は、華扇に描かれた線から判断したものだが、
 以前にも神社にパッと出現したことがあったことから、両者をテレポートとしてみた。
 
 後者は、漫画 「ジョジョの奇妙な冒険」 のイメージで言えば、
 スティッキーフィンガーズやストーンフリーといったところである。
 飛んでいる右腕にトーンが付けられ、また、包帯ごと向こう側が透けて見えることから
 不可視化とか霊界トランスとか、何らかの特殊条件下にあるものと推測される。

 

* 狐の奸計
 
 「奸計」 (かんけい) とは 「わるだくみ」 の意。
 日本において狐は人をだますとされ、ずるいものの象徴である。
 
    参考
    「広辞苑 第五版」 (奸計、狐)

 

* 漫りに酒を沽うを愁うる莫れ 嚢中自ら銭有り
  (みだりにさけをかうをうれうるなかれ のうちゅうみずからぜにあり
 
 「唐詩選 巻六」 における 賀知章の詩、「題袁氏別業」(袁氏の別業に題す) より。
   主人不相識 (しゅじんあいしらず
   偶坐爲林泉 (ぐうざするはりんせんのためなり
   莫謾愁沽酒 (まんにさけをかうをうれうるなかれ
   囊中自有錢 (のうちゅうおのずからぜにあり
 意味合いとしては以下の様になるようだ。
   ここの主人とは面識がない。
   たまたま、対座しているのは庭園を見たいから。
   酒を買わなきゃなどど心配しないでほしい。
   財布の中にお金はあるのだから。
 
 「莫謾愁沽酒 囊中自有錢」 の部分が該当する。
 本話の狐は、「謾 (まん) に」 を 「漫 (みだ) りに」 と変えている。
 (「自 (おの) ずから」 を 「自 (みずか) ら」 ともしているが。)
 謾を 「みだりに」 とする漢文解説サイトも見られたが (おそらく 「漫」 からか)、
 謾の字義は 「だます、あなどる、おこたる」 である。
 元の漢詩は、「酒を買うことを心配するとかあなどってくれなくとも、
 ちゃんと金は持っているから」 といった解釈となる。
 謾の 「だます」 の意を、狐は意図的に回避しているのだろうか。
 元の漢詩と異なる点も意図的な読み替えと解釈可能と思われる。
 あるいは、単にミス。
 タダ酒を追及された後で、自分の金子ではなく出所不明の銭の在処を教えているのだから
 元の漢詩に忠実でなくともおかしくはないが。
 対価としての片付けはしたし。
 
    参考
    「Web漢文大系」 > 唐詩選 > 巻六 五言絶句 > 題袁氏別業(賀知章)
    「詩詞世界」 > 唐宋抒情詩選 > 題袁氏別業
    「広辞苑 第五版」 (謾)

 

* 寺の下の霊廟
 
 東方神霊廟に登場の大祀廟のこと。
 神子達は復活後、仙界をつくり引越しているが、大祀廟は置いていったようだ。

 

* 河童バザー
 
 今年は骨董市とのこと。
 「非想天則」 を広告塔とした未来水妖バザーが開かれたのは
 おそらくは二年前のことであろう。

 

* ゴッドハンド
 
 ゴッドハンドは、ここでは旧石器捏造事件の藤村新一のこと。
 発掘において驚異的な石器発見率からゴッドハンドと呼ばれたが、
 予め遺跡に石器を仕込んでいる様子が発覚したことから
 やがて業績のほとんどが捏造であったと露見した。
 
    参考
    「Wikipedia」 (藤村新一)

 

* 永楽通宝
 
 永楽銭とも呼ばれる、室町後期から江戸初期にかけて流通した銭貨。
 なぜか博麗神社の裏庭の桜の下に埋まっていた。
 
    参考
    「Wikipedia」 (永楽通宝)

 

* 轍の中のたまり水などすぐに干上がってしまいます
 
 落ちている銭などをちまちま集めてもすぐに底を突く。
 安定してお金を稼ぐ方策が必要と狐は説く。
 「轍の中のたまり水」 の例えは、「轍鮒の急」 からか。
 轍鮒の急は、差し迫った危険・困窮の例えで、
 「荘子」 の外物篇に見られる以下の話に由来する。
 轍の水たまりにいる鮒が水を恵んでくれと求めたのに対し、
 揚子江の水を堰き止めて来ようと応じたところ、
 わずかな水で命をつなげるのにそんな悠長なことを言われては困ると
 鮒が怒ったという故事である。
 本話の狐はまたもこれを逆転させて用いたのだろうか。
 
    参考
    「故事・ことわざ・四字熟語辞典」 > て

 

* 管狐
 
 管狐については本編中に解説があるため割愛。
 
 本編中には、管狐は大食かつグルメとある上に、
 雌雄一対で竹筒に入れなければならないという記述がある。
 これらは 「甲子夜話」 に由来すると思われる。
 
 「食物等至つてむづかしく、上食を与へざれば用をなし難く、
  その上へ喰ふこと少なからずと云ふ。右は総て牝牡を筒に入れ与ふる故、
  出し用ふれば漸々子を生じて数増り、食養に窘 (こま) るとなり。
  因て利の為に姦計に役使して、終にはその行者身を亡すに逮 (およ) ぶとなり。」
 (「奇談異聞辞典」 より)
 
    参考
    「奇談異聞辞典」 柴田宵曲編、ちくま学芸文庫

 

 

 

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