メサイア

弦楽器の名器として有名なストラディヴァリウスの中でも、
特に最上とされる三大ストラディヴァリウスがある。
ドルフィン(Dolphin;1714年)、アラード(Alard;1715年)、メサイア(Messiah;1716年)
現在、ドルフィンは日本音楽財団からヴァイオリニスト・諏訪内晶子に貸与されており、
アラードは個人コレクターの所有、メサイアはアシュモリアン美術館に所蔵されている。
 
三大ストラディヴァリウスの中で更に、
メサイアは1716年作製当初の状態に近いまま保存されていると言われ、
その価値は計り知れない。
 
下にいろいろ長々書きますが、
・メサイアは作製されてから現在まで「未使用」である非常に貴重なストラディヴァリウス
・贋作(ストラディヴァリウスを真似て作られたもの)であるという説が発表されたが、
 現在でも論争に決着はついていない。
ポイントはこれだけです。
メサイアは、難易度Hard の「ストラディヴァリウス」の上位にふさわしいもので、
正確には「疑」の段階の偽者ですが、「スードストラディヴァリウス」に見立てても
まぁ、いいかな、って思います。
 
 
1716 Antonio Stradivari により作製される
1737 Stradivari 没。メサイアは彼の作業場に残された。
1775 Cozio di Salabue 伯爵が購入。彼にちなんで "Salabue"と命名される
1827 ヴァイオリンディーラーでありコレクターである Luigi Tarisio が購入。
1854 Tarisio の死後、そのコレクションごと Jean Baptiste Vuillaume が購入。
 
その後、Vuillaume の娘婿の言葉
「このヴァイオリンは、ユダヤ人のメサイア(救世主)に似たものだ。
 なぜなら、誰もがその訪れを待望しているが、彼は決して姿を見せないのだ。」
にちなみ、"Le Messiah" すなわち "Messiah Stradivarius" と呼ばれるようになった。
 
Vuillaume ののち、メサイアは遺言に従って、
演奏を禁じられ、かつ、イギリス・オックスフォードのアシュモリアン美術館に遺譲された。
そのまま今日まで、メサイアへのアクセスは遮断されている。
演奏家の手に渡ることなく今日まで在ることから
「一度も(正式な)演奏がされていない」=作製当初(作りたて)の状態に近い
という解釈のもと、至高のストラディヴァリウスとみなされている。
 
 
しかしながら、1998年、
メトロポリタン美術館で楽器管理を担う Stewart Pollens により
メサイアが贋作であるとするレポート(論文?)が発表されたことで、
団体・業界・学会は大揺れに揺れ、論争が巻き起こった。
 
Pollens は、ヴァイオリン展示会のカタログに使うための
メサイアの写真撮影を行う機会があり(彼の、楽器の高精密撮影技術は世界的に有名だった)
常々、アンティークヴァイオリンの点検作業などで真贋に疑問を持っていた彼は
苦心してメサイアについて信憑性の証拠を集めることにした。
そして、起源、技術、文献、年輪年代学(ヴァイオリンに使われた木材の年代を特定する)から
食い違いを見出し、発表したのである。
 
ポイントは、メサイアの最後の所有者、Jean Baptiste Vuillaume。
彼はヴァイオリンのディーラーでもあったが、
ヴァイオリン製作者でもあった。
その腕は天才と謳われるほどで、また詳細な研究も行っており、
Stradivari の技術、ストラディヴァリウスの構造、
しかも表面ばかりでなく、ニス・木材の型・年代・厚み・アーチ・内部構造などを研究し
最終的には鑑定家にも見分けがつかないほどの
ストラディヴァリウスやグァルネリの「完璧な」レプリカを作製したと言われている。
 
Pollens はこの着眼から、
メサイアの構造を詳細に調べ、いくつかの点で Stradivari の作品とは異なるような
問題点を見出したと言われる。
その論拠は一見 説得力がある様に見えたが、
彼自身が撮影した写真をもとにした点、実物のメサイアへのアクセスは過疎である点から
議論は決着を見ず、現在もなお公式には結論が出ていない。
また、年輪年代学的な検査については、Pollens から専門家の教授に依頼が為され、
それもまた論拠の一つとなっていたが、
しばらくのちにその教授自らにより調査結果が引っ込められている。
 
 
pseudo 「偽りの、にせの、見せ掛けの」
形容詞以外に、名詞で「いかさま師」の意味にもなる。
Pseudo Stradivarius.
「贋作師のストラディヴァリウス」
メサイアが真作であろうと Vuillaume の贋作であろうと、
Vuillaume がメサイアを手にしていたことには変わりはなく、
真実がどちらであっても、こう訳せば万事OK(そうか?)
 

 
参考サイト(全部英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Messiah_Stradivarius
http://en.wikipedia.org/wiki/Vuillaume
http://www.forbes.com/2001/01/10/0110connguide.html