東方緋想天 〜 Scarlet Weather Rhapsody.

 東方プロジェクト第10.5弾。
 とうほうひそうてん 〜 スカーレット・ウェザー・ラプソディ
 
 ・非想天
   「非想非非想天の略」
 ・非想非非想天
   「無色界の第4天で三界諸天中の最高。ここに生まれる者は
    粗い想念の煩悩がないから非想というが、微細なものが
    残っているから非非想という。
    仏教以外のインド宗教では解脱の境地。
    仏教では迷いの境地。
    有頂天。非想天。非有想非無想天。」
 ・有頂天
   「【仏教】色界の第4天の色究竟天。形ある世界の最も上に位置する。
    【仏教】無色界の第4処。非想非非想天。世界の最も上に位置する。
    ・有頂天にのぼりつめるように、物事に熱中して我を忘れること。
     また、得意の絶頂。」
 ・scarlet
   「緋色。緋色の。」
 ・weather
   「天気、気候、天候。浮き沈み。風雨。」
 ・rhapsody
   「【音楽】ラプソディ、狂詩曲。
    (過度に)高揚した話し方(表現)。
    (古代ギリシャの)ラプソディー(吟遊詩人によって歌われた叙事詩)」
 ・狂詩曲
   「器楽曲の一形式。19世紀に流行した民族的色彩をもつ性格小品の
    一種で、きわめて自由な形式を持つ。ラプソディー。」
 
 仏教用語の非想天をもじって緋想天
 万物がもつ気質、緋色の気を吸い上げ天に集め、
 天の気質すなわち天気として顕現した各人妖の天候が
 それぞれの環境に変調を来たす異常気象の夏。
 また、緋色の雲は天に色濃く集まると大地震に連絡する。
 緋色の天を巡っての狂詩曲。
 
 天界の天人は日がな音楽を楽しむ。
 楽器のは、はるか昔には呪具でもあり、
 琴は地震や天変地異にまつわることも関連するであろう (後述)。
 緋色の雲と地震と天人のラプソディ。
 
 緋色の雲と地震の関係は、
 日本や中国の史書に、しばしば地震の前触れとして記述される
 「赤気せっき)」 に基づくと思われる。
 赤色の雲気。
 日本では、日本書紀に描写される他、藤原定家の漢文日記、明月記などにも
 現れ、天変地異や乱世の前触れと恐れられていたようである。
 特に、吾妻鏡では赤気の出現の後日に大地震が発生し、
 大地震の前触れであったとされている。
 その他、大地震の前兆あるいは大地震のさなかに
 異常に赤い空などの描写が近代の作品にも及ぶ。
 
 赤気については朝焼けなどの光の加減と霞や黄砂、噴煙と
 関連付けられることがあるが、日本のような
 中低緯度地域でも観測できる条件のオーロラ (低緯度オーロラ) のことである
 とされることもある。
 カーテン状に光り輝く従来型のオーロラとは少し性質を異にし、
 酸素の発する暗赤色の光を基調として、北の空であまり動きを見せずに広がっている。
 そして、本作では、緋色の雲を集めた主犯、
 比那名居天子の天候は極光オーロラ) である。
 (ついでに、北の空に広がる低緯度オーロラの様に、
  今回緋色の雲がかかった妖怪の山が
  幻想郷において北に位置していると個人的にうれしい)
 
 これらに、同じく地震の前触れとされる、
 赤色が特徴的なリュウグウノツカイを盛り込んだわけだ。
 天界と非想非非想天、極の天に広がるオーロラと赤気をつなげ、
 緋想天に捩る事で緋色と直結するリンク。
 
 【参考】
 「広辞苑 第五版」
 「SPACE ALC
 「地震史料にみる”空の赤気と白気立つ”現象について」(歴史地震、18号、p.16)
 「三浦三崎ひとめぐり」>歴史に見る三浦氏 >吾妻鏡 >1241年 >2月



琴柱

 パッケージに描かれる紋所。ことじ
 音叉のような、人という字のような、天という字のような紋様。
 
 ・琴柱
  「箏や和琴の胴の上に各弦に1個ずつ立てて弦を支え、その張りを
   強くし、また、これを移動して音の高低を調節するのに用いる
   「人」の字形の具。頭部の溝に弦を受ける。和琴とそれ以外の箏とでは
   材質・形状が異なる。」
 
 琴柱と共に白い縦線が幾筋か走り、併せて琴を想起させる。
 琴は古くから日本に存在しており、呪術用の楽器としても知られていた。
 
 「古事記」 にて、葦原色許男命(大国主命)が
 須佐之男命のもとから逃げる際に、次の様な記述がある。
 
 ・即取持其大神之生大刀與生弓矢、
  及其天詔琴而、逃出之時、
  其天詔琴拂樹而、地動鳴。

 (須佐之男命の活力のみなぎる大刀と弓矢と、
  玉飾りのある琴を持って逃げ出したところ、
  その琴が木に触れて、大地がどっと鳴った

 
 天の詔琴は地震を起こす呪力があると考えられる描写である。
 
 また、秘琴を巡る物語である 「うつほ物語」 では次の様な描写がある。
 
 ・俊蔭、せた風を賜はりて、いささか掻き鳴らして大曲一つを弾くに、
  おとどの上の瓦砕けて花のごとく散る。いま一つ仕うまつるに、
  六月中の十日のほどに、雪、衾のごとく凝りて降る。

 (俊蔭が、せた風をいただいて、少し掻き鳴らして、大曲を一曲弾くと、
  御殿の屋根の瓦が砕けて花のように散る。さらに一曲弾くと、
  六月の中旬の頃なのに、雪が綿入りの掛け布団のように固まって降る。

 
 ・賜りて、何心なく掻き鳴らすに、天地揺すりて響く。
 (その琴をいただいて、何気なく掻き鳴らすと、天地が振動して音をたてる。
 
 ・琴を、少しねたう仕うまつるに、
  雲の上より響き、地の下より響み、風・雲動きて、
  月・星騒ぐ。礫のやうなる氷降り、雷鳴り閃く。
  雪、衾のごと凝りて降るすなはち消えぬ。
(中略)
  天人、下りて舞ふ。
 (琴の曲を、少し控え目にお弾きする。すると、それだけでも、
  その音は、雲の上から響き、地の下から鳴り響き、風が吹き、雲が流れて、
  月と星が激しく動きだす。礫のような氷が降り、雷が鳴り閃く。
  雪は、綿入りの掛け布団のように固まってふるとすぐに消えた。
(中略)
  すると、天人が、天から下りて来て舞う。
 
 1つ目は秘琴のひとつの 「せた風」 を琴の名手・俊蔭が弾いた時の様子。
 2つ目は同じく秘琴の 「南風」 を俊蔭の孫・仲忠が弾いた折、
 最後は二人の琴の名手、仲忠と涼が互いに琴を弾いた際の奇瑞である。
 「うつほ物語」 の秘琴の呪力は、地震に留まらず天変地異を呼び、
 さらには天界から天人まで引き寄せる。
 物語終盤でも、類似の天変地位が琴の演奏により惹起される。
 
 音楽と関わり深い天人と、天人の関わる千変万化の天候。
 緋想天の要素として、琴の有する楽器としての性質と呪具としての性質、
 あるいは、古事記やうつほ物語に現れる天変地異は重要であろう。
 
 【参考】
 「広辞苑 第五版」
 「Wikipedia」 (
 「近代デジタルライブラリー」 (古事記)
 「古事記」 梅原猛著、学研M文庫
 「ビギナーズ・クラシックス うつほ物語」 室城秀之編、角川ソフィア文庫



 

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