「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第一話 『賢者の計画』

 
あらすじ

  境界を操る妖怪・八雲紫は満月を映す水面を裂いて現れ、
  静かに己の計画の成功を想い描く。
  一方、永遠亭の月人達は新たな月の勢力への警戒心を抱きつつあった。
  ―― 『第二次月面戦争』
  幻想郷の面々も多数巻き込み、大いなる騒動の幕が開く。


誌上情報

  表紙 霊夢と魔理沙
  表紙アオリ 「衝撃の新連載… スタート!」
  企画 「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」連載スタート記念!
      同人サークル「上海幻樂団」ZUN氏製作 弾幕シューティングゲーム
      東方Project 美麗弾幕華特報・第二弾
      ・「東方儚月抄」3誌合同連載へのいきごみ 原作ZUN氏インタビュー
      ・「上海アリス幻樂団」音楽CD集
      ・上海アリス幻樂団「東方Project」最新作 東方風神録 〜Mountain of Faith.
      ・上海アリス幻樂団×一迅社が贈る新説幻想奇譚 3誌同時連載スタート!!
  本編 新連載センターカラー
  扉絵アオリ 超大型企画! 東方Project初の本格ストーリーコミック始動!!
  柱アオリ 静かなる水面より出でしは――?
        異変に備え、力を強める霊夢。そして紫の思惑は―?


タイムライン

  (遠くない過去)
    月の都 … 新勢力の台頭。新勢力、旗を地上に投げ返す。
    永遠亭 … 鈴仙、月世界の情報を得る。
    魔法の森 … 永琳、旗を確認。
  (昼)
    博麗神社 … 紫の稽古と魔理沙の来訪。
    博麗神社 … 霊夢と魔理沙、縁側でお茶。
  (夜:満月)
    霧の湖 … 紫の出現。紫、式 (前鬼・後鬼) を打つ。
    迷いの竹林 … 鈴仙とてゐ、例月祭。
    永遠亭内 … 永琳と輝夜、状況分析。
    博麗神社 … 霊夢、修行中。妖怪兎が現れる。後鬼、偵察終了。
    霧の湖 … 紫、式を回収。藍の登場と報告。紫、退場。
 
  補足
 
   永遠亭のシーンを博麗神社のシーンで挟んでおり、
   同日中の出来事であることを窺わせる。
   紫が霊夢に発破をかけたその成果を知ろうとするには、
   当日自分が居なくなってから霊夢がどうしているかを探るのが適している。
   これらのことから、第一話は第二次月面戦争前の
   ある一日の出来事を扱っていると考えられる。
  
   この場合、冒頭の湖のシーンを除けば一連の経時的推移となる。
   これは冒頭のシーンだけがコマ外を黒ベタとしており、
   その黒ベタがフェードアウトして以降はコマ外ベタは無いことからも示唆される。
  
   また、藍の報告シーンでは他のメンツの様子も周辺環境情報とともに知れる。
   日々の生活を共にする藍と紫の間柄では藍の報告機会に不足は無く、
   したがって湖のシーンでの藍の報告は
   その日紫と別行動を始めてからの行動報告と推測される。
   その背景描写からは、妖怪の山に天狗を訪ねたのが日中、
   白玉楼に赴いたのが夜、ということが見て取れる。
   吸血鬼の活動時間帯から、紅魔館訪問も同じく夜であろう。
   (レミリアは日中も活動するから一概には言えないが、一般的な想像で)。
   鬼については手掛かりに乏しいが、
   年中酔っている萃香がすっかり出来上がり潰れかけているところから
   十五夜の月見に全力投球だったのではないかと推測される。すなわち、夜。


セリフ解説

 ・神酒を手に 晴れを越え 雨を越え 嵐を越え そして賢者を捜しなさい
 
  式神に偵察を命じる謎のコマンド。
  神酒の海、晴れの海、雨の海、嵐の大洋、賢者の海と
  いずれも月の海の名。(海と言っても、水は無い。黒く見える平地)
  サブタイトルとこのセリフが2つのページに連続して 「賢者」 の単語を残す。
  賢者とは一体?と読者に思わせつつ、結局は紫の元に式神も読者も辿り着く。
  偵察と帰還のコマンドだろうか。
  昼の神社 (神酒) は既にチェック済み、
  永遠亭外 (晴れ)・永遠亭内 (雨)・夜の神社 (嵐) を偵察後
  紫 (賢者) の元にリターン、と見れば、少なくとも漫画のシーン数とは符合する。
  また、賢者の海は月の裏側の海、他は月の表側である。
  月の都は月の裏側にあることから、
  これから向かう先としての第二次月面戦争を暗示するか。

 
 ・天石門別命 (あまのいわとわけのみこと
 
  古事記に描かれる門神。(日本書紀には見られない)
  名前の通り、門を司る神であり、ひいては境界を司る神でもある。
  「天石門別神」 「天石戸別神」 「櫛石窓神 (くしいわまどのかみ)」
  「豊石窓神 (とよいわまどのかみ)」 などと呼ばれる。
  天孫降臨の際に思金神や天手力男神などとともに随伴した神の一人。
 
  この神の力を借り、霊夢は自身の直下に大穴を出現させた。
  その穴も境界の妖怪の足元寸前で開口を停止してしまったが、
  これは境界の神の力が境界の妖怪に劣るというわけではない。
  霊夢が神を使役しているのではなく、
  神の力を借りて (神を降ろして?) 霊夢が技を発動しているので
  霊夢の技量や信仰の方こそが問われる。
  不意打ちだったがそれでも魔理沙は脱出できているので
  応用を利かせるか更なるレベルアップが無ければ有効性は乏しい。

 
 ・この穴は――弱い幻覚
 
  境界を操る妖怪にかかれば、「ピタッ」 と停止してしまう程度の技。
  また、効果範囲に魔理沙を不意打ちで巻き込んだにもかかわらず
  難無くかわされてしまっている事も加味されているだろうか。

 
 ・一つ搗いてはダイコクさま〜 二つ搗いてはダイコクさま〜
 
  妖怪兎達の餅搗き歌。
  一つ積んでは父の為 二つ積んでは母の為
  賽の河原の石積み歌を連想させるのは気のせいか。
  生前に出来なかった功徳のためと歌う賽の河原の幼子達と
  輝夜達が犯した罪を償うための永遠亭の例月祭。

 
 ・ダイコクさま・大国様 (だいこくさま)・大国主命 (おおくにぬしのみこと
 
  大国主命は、記紀神話の神。国津神のトップ。
  「大己貴神 (おおなむちのかみ)」 「大物主神 (おおものぬしのかみ)」
  「葦原醜男神 (あしはらしこおのかみ)」 「八千矛神 (やちほこのかみ)」 など
  多くの異称を持つことでも知られる。
  多くの女神と結婚し、その子供の数は180人を数えるという。
  (古事記には180柱、日本書紀には181柱とある)
  国土の開発や発展に大きく寄与したが、天孫降臨に際し国を譲り隠退し、
  後に出雲大社の祭神となる。
  大地の象徴、豊穣の神。
 
  因幡の素兎のエピソードでも知られ、
  東方文花帖におけるてゐのスペル、借符 「大穴牟遅様の薬」 の
  「大穴牟遅神 (おおなむちのかみ)」 でもある。
  因幡の素兎の救いの主。憧れのイケメン。
 
  「大国」 はダイコクとも読めることから 「大黒天」 と集合し、
  福の神、縁結びの神としても民間では信仰される。


 ・例月祭 (れいげつさい

  永遠亭において、毎月、満月の日に行なわれる祭。
  薬草の入ったお餅を搗き、それを丸めた物、
  それに限らず他にも丸い物を捧げ物とする。
  メインは団子か餅である。
 
  月からの逃亡者である輝夜・永琳・鈴仙が罪を償う為の行事とされ、
  「貴き方の怒りを鎮めるため」 「月に御座す高貴で永遠の御方のため」 に
  兎達が餅を搗き、団子を作って供える。
 
  ・餅… 「もち米を蒸し、臼で搗いて種々の形に作った食べ物」
  ・団子… 「穀物の粉を水でこね小さくまるめて蒸しまたはゆでたもの」
  (広辞苑より)
 
  月では兎が不死の薬を搗いているという中国の伝説 「玉兎搗薬」、
  日本人が月の模様に見る 「兎の餅搗き」、
  これらにちなんで、満月の下、地上の妖怪兎が餅を搗く。
  また、中秋の名月など月見の伝統がある。
  月見において中国では月餅を作ってお供えする。
  これが日本に伝わり、日本では月見団子を供える。
  これらにちなんで、団子状に丸めた餅をお供えする。
 
   「丸い物を集め、それをお供えすること。
    これが今の貴方が積める善行よ。」

  (東方花映塚における四季映姫の対鈴仙勝ちゼリフ)
 
  ・例月…「いつもの月。つきづき。毎月」

 
 ・今月も 何事も起こらなかったようね
 
  竹取物語も東方永夜抄も、月からの来訪者があるのは満月の夜である。
  使者や罪人が来る他、月から地上に何らかの影響が及ぼされるのも
  満月の夜だけが警戒されるのであろう。
  月の光が全て地上に降り注ぐのが満月の頃であり、
  月の力が優勢であるとか満月光線が地上の穢れを一時的に浄化するとか
  そんな理由があるのかもしれない。
  ともあれ、月でどんな騒動があろうと、それが飛び火してきたり
  恐れている使者が降臨するのは満月の夜に限られ、
  すなわち警戒心を抱くのは月に一回であるため 「今月も」 という表現となる。
  同時に、例月祭も併せて、少なくとも永遠亭の暦は太陰暦か。

 
 ・影が段々と質量を持つようになっている
 
  異変の兆候。詳細不明。
  物が移動する時にはたいてい影も移動する。
  質量がある物を動かして速度を持たせるにはエネルギーが必要である。
  影に質量があれば、影が動く時に発生する運動エネルギーは
  その影を生み出している物を動かした者が賄わなければならない。
  つまり、この異常な月光の下では、物を動かすのに通常よりも力が必要で、
  動き回るのにも普段よりもエネルギーが必要であるということになる。
  ただし、静止時には何の影響も感じられない。
  実際にこのような効果がある現象なのかどうかも不明。
  少なくともこの時点では気付く者などそうはいないような微々たる変化である模様。

 
 ・月の都の人は表の月を弄れなかったはず
 
  詳細不明。そのメカニズムは永琳にも不思議。
  物理的に位相がずれているので触れる事ができない、
  あるいは、精神的に接触を拒んでしまう (穢れ?)。
  地上人との月面戦争を考えると、
  相手の兵器に攻撃面も防御面も効果が得られないとすれば
  太刀打ち出来ないということも頷けるかもしれない。
  地上人の謎の技術の所為で…
  …とするには 「表の月を弄る」 とはニュアンスが異なるか。

 
 ・確実に来るでしょう 月の都の使者と罪人が
 
  詳細不明。今後の展開待ち。
  多少スパンにゆとりを持てば
  戦争 (騒動) と 使者&罪人を関連付けられる。(以下、かなりの妄想)
  1.千年以上前
    罪人=輝夜、使者=永琳(達)、騒動=幻想月面戦争騒動
    (輝夜・永琳の一連の不祥事で月世界がごたごたし、紫がそれに乗じたとか?)
  2.永夜異変
    罪人=鈴仙、使者=不明、騒動=月世界VS地上人の月面戦争
    (永琳の密室の術+幻想郷の結界で、使者は幻想郷に辿り着けない)
  3.第二次月面戦争
    罪人=?、使者=?、騒動=第二次月面戦争
    (これからのおはなし)


 ・前鬼・後鬼 (ぜんきごき
 
  修験道の開祖、役小角 (えんのおづぬ) が使役したとされる護法。
  生駒山の夫婦の鬼を調伏したものとされる。
  密教系・修験系に使役される護法と陰陽師が使役する式神は
  呪術者に使役される使い魔のような関係で非常に似通っている。
 
  本編では八雲紫の式神であり、前鬼・後鬼という鬼神を
  二羽の鴉に憑依させて使役している。
  また、「東方妖々夢」 においては八雲藍が
  式神 「前鬼後鬼の守護」 というスペルを使用する。
 
  カラスのその色は夜や闇を連想させる黒色であるが、同時に
  太陽神アポロンの使いとするギリシア神話や、
  太陽を背負う、あるいは太陽を射たところカラスが落ちてきた
  などの中国神話 (金烏、火烏)、あるいは日本のヤタガラス
  という具合にカラスは太陽を表現する。
  黒色は焼き焦がされた色であり
  太陽に近づきすぎたため身を焼かれ黒焦げになったという伝承、
  あるいは、太陽黒点の隠喩から、カラスと太陽は密接である。
  金烏玉兎 (きんうぎょくと) は太陽と月を指す。
  作中に烏と兎が登場する事から、ここでの烏も月と対極の側であり、
  烏を使いに駆る紫は (紫が太陽神関連とかではなく)
  月と対峙する存在として描かれているものと思われる。
 
  上記の解説は荒俣宏著 「帝都物語」 を参考にした。
  荒俣宏はZUN氏の好きな作家の一人であり、
  「帝都物語」 中でも夜の密使としてカラスの式神が描かれる。
  敵対する加藤保憲の動向を探るため陰陽師が放ったもの。

 
 ・給料
 
  前鬼・後鬼が第一にすべき事は、直接的な昇給表現に変えてもらうか、
  前鬼・後鬼の互いの給料を直接知る事である。
  さもなくば、上手い言葉で踊らされるばかりで確実に誤魔化される。
  紫ならば前鬼・後鬼が互いに意思疎通できないと見越してのことかもしれないが。

 
 ・天狗の頭領と話をすることができませんでした
 
  ある集団の上に立つ者に会う際に、スキマから直接面会したりはしない模様。
  阿求邸を紫が訪れた際も、ちゃんと使用人を通し、
  主の許可を得て屋敷内に上がっている。
  といっても、こちらの方が特例で、
  「東方求聞史紀」 にある報告や 「東方萃夢想」 での振る舞いが普通、
  とも思えてしまう。

 
 ・宇宙人が動き始めないと私たちも動けない
 ・神様を従えた巫女さえ動けば 敵に勝ち目はない
 
  詳細不明。今後の展開待ち。

 

 

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