「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第三話 『紅いロケット』

 
あらすじ

  満月に照らされる紅魔館。
  先月の満月の日の珍客、八雲藍の話が思い起こされる。
  ―― 『せっかく私が先に行って月を侵略して紫を驚かす計画』。
  先月レミリアが打ち立てたその計画は、資料不足により進捗が芳しくなかった。
  主人の命を受け、咲夜は幻想郷の珍品道具屋に立ち入った。


誌上情報

  表紙 霊夢、咲夜、レミリア
  表紙アオリ 大反響で表紙に再降臨!
  あらすじ 前回のあらすじ、施設(神社、紅魔館、永遠亭)紹介、人物相関図アリ
  扉絵アオリ 月夜に少女(?)が思いを馳せるのは
          幻想郷の未来かそれとも今晩のおかずか――。
  柱アオリ 場所は変わって紅魔館。
        紅魔館の一味は紫を出し抜けるか――?


タイムライン

  (先月)
    紅魔館 … 藍の訪問と月面戦争の提案。
  (今月、夜〜深夜)
    紅魔館 … レミィ、満月の下のティータイム。傍に控える咲夜。
    紅魔館図書館 … パチェ、進捗状況解説。レミィ、咲夜に資料入手を命令。
    香霖堂 … 咲夜の来訪。霖之助、雑誌 Newton を提供。
    紅魔館図書館 … パチェ、資料を基に作業に取り掛かる。咲夜、退室。
 
 
  補足
 
   「先月」 とされる藍の訪問は第一話の協力要請にリンクする。
   本話は第一話の翌月であり、第一話は例月祭の執り行われた満月、
   本話も満月とあるため、ちょうど三十日後と推測される。


セリフ解説

 ・ありがとさん
 
  咲夜の第一声 「お茶が入りました」 を受けての
  レミリアの第一声。
  坂田利夫のギャグで有名。(違う)
 
  ちなみに、花映塚・咲夜EDの第一声の場合は、
  「お茶が入りました」 「ん。 それにしても (以下略)

 
 ・きょ 今日は何を混ぜたのかしら
 
  「いつもの咲夜だったら、珍しければ毒だろうと何でもありなのに」
  (花映塚・咲夜ED より)
 
  花映塚の後であれば、混入物も多少は体に良い物志向になっているはずである。
  (それが一時的な思考でなかったならば)

 
 ・モンターニュブルーをヒントに
 
  モンターニュブルーはフレバリーティーの一種。
  フレバリーティー (flavory tea) とは、
  ブレンドされた中国の茶葉やセイロンの茶葉による紅茶本来の香りに加えて、
  ミックスされた花びらやフルーツ小片、ナチュラルフレーバーの
  豊かな香りが楽しめるお茶である。
  モンターニュブルー (Montagne Bleue) は
  フランス語で 「青い山」 を意味するが、
  茶や葉が他種に比べ特別青いというわけではない。
  咲夜は名前のみヒントにした模様。
 
    参考  「紅茶専門店 San Moat」>フレバリーティー >モンターニュブルー

 
 ・(角砂糖)
 
  1カップの紅茶に角砂糖を2個投入するレミリア。
  「苦いのは嫌だって」 (花映塚・咲夜ED より)
 
  味を感じる味蕾は加齢と共にその数を減じるため、
  大人より子供の方が味覚が鋭く敏感である。
  特に危険信号でもある酸味や苦味は不快、嫌悪に直結するが、
  繰り返し刺激で慣れ、堪能できる様になる。
 
  レミリアは幼生固定のため子供並に味覚が鋭いと予想される。
  500年も生きてきて苦味に馴化していないのは、我儘お嬢様のアレで。
 
    参考  「三豊市少年育成センター」>止心無心 >幼児期に身に付けさせたい野菜のうまさ

 
 ・(藍の話、紫の計画)
 
  −基本理念
    停滞してしまった幻想郷の妖怪の生活向上
  −何故今更か
    第一次月面戦争時よりも数が増えた妖怪達が協力し合えば、今度は負けない
  −手筈
    紫が今年の冬に、湖から月に飛び込めるようにする
    紫様が結界を見張っている間、レミリアには月の都に忍び込んで欲しい
  −作戦目的
    月の都には幻想郷にはない珍しい物や技術があり、それを盗み出して妖怪に活かしたい
  −何故レミリアか
    レミリアのような強力な妖怪なら、簡単にめぼしい物を見つけてくれると思って
 
  第一次月面戦争、藍が言うには 「不慮の事故」、
  レミリアの聞いた話では 「月の民にコテンパンにされて逃げ帰った」。
  作戦手順に藍が示した様に、第一次月面戦争時も紫が結界を見張っていたとすれば
  厳密には負けたんではないんですよ、という意図か。
  が、藍は 「紫様も今から数百年前に1度 (中略) 月に行った」 とも言っている。
  ちなみに、東方求聞史紀では幻想月面戦争騒動は千年以上前とされていた。
 
  冬に、というのは
  単に土地柄、冬場は晴れが多いのか、
  シナリオ上の頃合いが冬ぐらいにあたるのか、
  北半球では冬至近くの満月が最も高度が高くなるため湖に映りやすいとか
  そういった理由のいずれか、または複合か。
 
  珍しい物や技術を生活向上に活かしたいという目標を
  レミリアは妖怪の山の河童や天狗への対抗意識程度かと切り捨てる。
  藍の解説によれば河童や天狗は外の世界のシステムや技術を真似ただけで
  その外の世界も精神面に豊かさが感じられないものである。
  その点、月の都は生産性と精神面の豊かさが両立出来る、
  望ましいモノであるようだ。
 
  「強力な妖怪」 「簡単に成し遂げてくれる」 といったような文句は
  レミリアに好感触だったようだが、レミリアは独自にロケット計画を立ち上げる。
  (永夜抄ED、香霖堂、文花帖で見られた様な、かつて計画されたものの改案か)

 
 ・御意
 
  レミリアの突発的な命令に対し、たっぷり4コマの間
  (3人の引きで余韻、寄りでレミリアの期待のまなざし、
   寄りで「きょとん」に近い表情で見つめる咲夜、背景黒ベタで咲夜のため息)
  を経た後、半ページの空白の中に 「御意」 のフキダシだけが書かれる。
  表現意図不明。
  それも時代劇めいた返事で。
  意味は 「仰せの通りに」。


 ・(パッ)
 
  真夜中の香霖堂に正面から入店した咲夜。
  雑然とした店内をそろそろと歩きながら
  店内に掛けられた彼女の一声に呼応するかのように
  瞬時に照明が灯り、店内は一瞬にして明るさを得た。
  香霖堂では電気を使った照明器具を活用しているかのような描写である。

 
 ・人間が月に行ったことは捏造だと思う人
 
  外の世界ではそんな人が出るくらいにアポロ計画が忘れられている、と
  アポロ捏造説を引き合い程度に出している。
 
  アポロ計画陰謀論について詳しくはWikipediaの記事を参照。
  古臭く拙い陰謀論。日本では近年になってバラエティ番組で紹介された。

 
 ・Newton
 
  ニュートンプレス社が発行している科学雑誌。
  1981年より教育社が、1997年よりニュートンプレス社が毎月刊行している。
  台湾版、韓国版、北京版、イタリア版と海外にも広がっており、
  現役バリバリである。
 
  サターンXロケットは、アポロ4、6、8〜17号の月ロケットとして使用された。
  打ち上げ年は1967〜1972年である。
  また、アポロ18号用に予定されていたサターンXロケットが
  アポロ計画の打ち切りに伴い、1973年のスカイラブ計画に利用された。
  計13基の打ち上げに失敗例は無い。
 
  サターンXロケットと Newton との間に8年開きがあるが、
  本話に登場のサターンXロケットが紹介された Newton は実在しない可能性も?
  とにもかくにも、古い話題なので、その近辺の雑誌ごと幻想化している模様。
 
  2007年10月8日、11日の拍手メッセージにて摸捫窩様より
  当該表紙のNewtonは実在しない(可能性が極めて高い)という調査情報を頂きました。
  誠にありがとうございます。m(_ _)m
 
    参考  「Wikipedia」(アポロ計画サターンXロケットニュートン (雑誌)

 
 ・サターンXロケット
 
  NASAが開発・運用した大型ロケット、サターンロケットの後期型である。
  月ロケットとして知られる。
  1967〜1973年にかけて13基が打ち上げられ、2基は展示されている。
  三段式ロケットで、本話で語られる様に多種類のエンジンを搭載している。
  第一段はF-1ロケットエンジンを5基、第二段はJ-2ロケットエンジンを5基、
  第三段はJ-2ロケットエンジン1基を持つ。
 
  サターンロケットは当初、C1、C2、C3、C4、C5と発展予定だったが、
  期間とコスト圧縮の関係もあり、実際はサターンT、サターンIB、サターンXとなった。
  サターンTはC1にあたり、サターンIBはC2以降で予定されていたJ-2を第二段に持つ。
  当初計画のC5がサターンXに当たる。
  サターンXのXはローマ数字の5、すなわち 「サターンファイブロケット」 である。
  そんな背景を知る由も無い霖之助とパチュリーは 「ブイ」 と発音している。
 
    参考  「Wikipedia」(サターンXロケットサターンロケット
         「Wikipedia(英)」(Saturn X

 
 ・3段で構成される筒を見つければそれだけでほぼ完成に持っていける
 
  このセリフのみならず、3段構成に繰り返し焦点を当てている。
  調和の3。
  東方における 「3」 については、
  左の簡易メモ; 「東方ラスボス」 で拙い考察をしていたりします。

 
 ・月侵略にとっては小さな一歩だけど 私にとっては大きな一歩だわ
 
  初めて月面に降り立った人間、アポロ11号のニール・アームストロングの言葉、
   That's one small step for [a] man, one giant leap for mankind.
  (これは一人の人間には小さな一歩だが、人類にとって大きな飛躍だ)
  のもじり。
  主語の大小関係が逆転しているが、
  あるいは、パチェにとっては大小関係も準拠しているのだろうか。
  フキダシ中に 『 』 を伴ってセリフが発せられており、
  パチェが元ネタを意識しての発言の可能性もある。
 
    参考  「Wikipedia」(アポロ11号

 
 ・(すっ)
 
  本を参照しつつ、座ったままのような姿勢で浮き上がるパチェ。
  空気に乗って移動する、本を開いている、図書館の共通点から紅魔郷が想起される。
  紅魔館内の地下にあるとされる大図書館内に巨大で高い木製の筒が置かれているのは
  紅魔郷の頃に比べて充分過ぎる差異であるが。
  紅魔郷で図書館と言えば、やはり今回も咲夜の能力で図書館の空間を
  今度は縦長に弄っているのだろうか。
  まぁ、作業スペースは問題無いとして、館外への搬出は如何にして…?

 

 

 

                                  →back