「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第四話 『旧友の雨月』

 
あらすじ

  雨に包まれる幻想郷。今夜は中秋の名月である。
  白玉楼では妖夢が団子を捏ね、幽々子がそれをお腹に収める。
  紫の真意を理解しながら静観していた幽々子は
  雨上がりに頃合いを感じ、そろそろ行動を開始しようかと呟く。
  行き詰まったロケット、修行する巫女、旧知の友の計画……幽々子の行動は、決まっていた。


誌上情報

  表紙アオリ 超絶人気で贈る、幻想郷全土を巻き込む物語!
  あらすじ  前回のあらすじ、施設(白玉楼)紹介、人物相関図アリ
  扉絵アオリ 天高く馬…ならぬ幽霊肥ゆる秋?
  柱アオリ 場所は変わって白玉楼。白玉を作ってることとは関係ない。
        花鳥風月を友とすれば、わかるかも?


タイムライン

  (先々月)
    白玉楼 … 藍の訪問と吸血鬼監視の依頼。
  (今月、月の出前)
    白玉楼炊事場 … 妖夢、団子作り。
  (夜)
    白玉楼縁側 … 幽々子と妖夢、月見。
    紅魔館図書館 … レミィとパチェ、ティータイム。
    神社上空 … 咲夜、情報を集めに神社へと飛ぶ。
    白玉楼茶の間 … 幽々子と妖夢、晩酌。
 
 
  補足
 
   本話は中秋の名月であり、旧暦の8月15日と判明した。
   藍の白玉楼訪問は二ヶ月前とあり、これにより、第一話が旧暦6月の満月の日と分かる。
   第二話はその翌日、第三話は旧暦7月の満月の日である。


セリフ解説

 ・お供え物の準備
 
  中秋のお月見は、古代中国の習慣に由来する。
  月を愛でる習慣は中国、日本で古くからあったと言われるが、
  中国の月見の祭事が平安時代頃には日本に伝わり、貴族達が観月の宴を楽しんだとされる。
  日本の庶民に月見の習慣が広まったのは江戸時代頃と言われる。
 
  仲秋は、月の高度や秋の気候から月は鮮やかに見え、気温も観月に適する時期である。
  秋は収穫の時期でもあり、収穫の感謝と喜びを神に捧げる習慣であったとも言われる。
  祭壇を作り、ススキを飾り、団子・里芋・枝豆・栗などを盛り、御酒を供える。
  十五夜 (旧暦8月15日) の月を芋名月、
  十三夜 (旧暦9月13日) の月を豆名月または栗名月とも言う。
 
    参考 「Wikipedia」 (月見
        「エクスプロア上海」 (中秋節と月餅

 
 ・中秋の名月
 
  秋 (旧暦の7月から9月) のちょうど中頃である旧暦8月の異称が仲秋である。
  中秋とは、秋のまさに真ん中である旧暦の8月15日を指す。
 
    参考 「Wikipedia」 (月見

 
 ・10年のうち9年は雨が降って見られないと言われるほどなの
 
  秋雨前線の停滞、あるいは台風の到来などで
  一般的に天候が悪く、望みの望月に巡り合える確率は低い。
  「つまり、実際はほとんど見られないのも名月たる所以…
 
  一般には 『江戸時代の書物には 「中秋の名月、十年に九年は見えず」 という記述がある』
  と実しやかに言われていますが、原典を見出すことができませんでした…。

 
 ・雨月
 
  「雨夜の月。また、名月が雨のために全く見られないのをいう。雨の月」
  (広辞苑 より)
  詳細な解説は作中の通り。
  音楽CDでテーマにもなった 「リアルとバーチャル」 も思い起こされる。
 
  また、能に 「雨月」 という作品がある。
  住吉参詣途次の西行法師が宿を借りようと寄った家では
  老夫婦が、翁は村時雨の音を聞きたいから屋根を葺こう、
  姥は月を見たいから葺かずにおこうと折り合いが付いていない最中であった。
  翁は西行に、下の句 「賎が軒端を葺きぞわづらふ」 にうまく上の句を付けたら
  宿を貸すと言い、西行は 「月は漏れ雨はたまれととにかくに」 と付けた。
  夫婦は、「月をも思い雨をさえ厭わぬ人である」 と喜んで西行を招きいれた。
  後に住吉明神の奇瑞をみる。
 
  江戸時代の代表的な読本、上田秋成の 「雨月物語」 にも西行法師が登場する。
  
    参考 「広辞苑」 (雨月)
        「Wikipedia」 (雨月物語
        「たんとの部屋」>曲名index >雨月

 
 ・地上から月まで行ける力は私たち夜の種族だけでは見つからないと思うのです
  この地に住む神々の力を拝借することも想定しないといけない
 
  魔女・吸血鬼をはじめ妖怪連中は陰に属する者達。
  月 (太陰) に向かうベクトル自体には有利だが、
  地上を脱するには地上属性の力が自分達の力とは別に必要という意味合いだろうか。
  太陰の影響圏と地上の影響圏。
  地上の力の範囲から脱する、または地上の力を振りほどく、
  そんな領域間の移動には一方の属性の力のみでは困難があるとかそのような解釈か。
  月から地上への移動は、満月の夜ならば
  満月光線で地上は月の影響下になるため月の者の領域間移動に障害は無いが、
  地上から月への移動は上記の様に困難で、月の上位性も確立できるか。

 
 ・吸血鬼たちの監視をしていただきたい
 
  藍が幽々子達にもちかけてきた依頼。
  第一話にて、紫への報告が纏めて行われていた点、
  レミリア達が独力で月へ行こうと考えたことを 「やはり」 と言っている点、
  レミリアの返事を受けての幽々子達への依頼といった点から、
  もともと紫の計画段階からレミリアの行動は想定され確実視されていたのであろう。
 
  月侵略のため、磐石を期した戦力の一端に吸血鬼たちを考えていたが、
  吸血鬼たちは紫の話を蹴り、自ら月へ行こうと言っている。
  現状ではそんなロケットなぞ実現しないが、万一実現しても
  強力な月人達に吸血鬼はあしらわれることは目に見えている。
  そうなれば月の都は警戒心を高め、紫の月侵攻の妨げとなってしまう。
  従って、吸血鬼たちを月へ行かせるわけにはいかず、監視が必要となる。
  ということのようだ。

 
 ・興味ないわ
 
  依頼に対する幽々子のリアクション。
 
  藍のもたらした依頼は穴だらけである。
  「吸血鬼たちだけじゃ月に行くことなんてできっこないんでしょ?
  実現確率を考えれば監視行動の重要度は極めて低い。
  他者に依頼を持ちかけるレベルではなく、
  前提を踏まえれば、監視よりも何らかの阻止活動の方が
  目的達成が容易かつ短期間で問題を解決出来るというものである。
  そもそも他の者ではなく幽々子達である必要性が不明であり、
  妖夢が本編で指摘する様に、境界の力や式神を操る紫の方が
  むしろ監視行動に最適なくらいである。
  そんな不完全な依頼を何故紫が持ち掛けたのか。
 
  「妖夢はなんにも理解していないのね
  妖夢も依頼には腑に落ちないところがあるが、よく分からない。
  藍も 「紫の作戦はわかっていなかったみたい」 であり、
  幽々子に依頼の穴を指摘されると返答に窮した。
  「幽々子様は月面戦争を見たことがあるのですぐに理解するはずと
   紫様は仰ってましたが
」。
  一方、幽々子は 「理解したから興味がないの」 だそうだ。
 
  (藍の 「そ そうですか……」 は 「そうですが」 の誤植と思われる。)

 
 ・依頼
 
  上記のことから、依頼の文言はダミーであると考えられる。
  紫が穴だらけの依頼を構築するはずがなく、その真意は別にあると推測できる。
  幽々子は紫の真意を 「すぐに理解」 したため、
  直接もたらされた方の依頼自体には 「理解したから興味がない」 のである。
  それはダミーなのだから。
  ただし、依頼内容すべてを破棄するものではなく、
  真の依頼を組み上げるのに必要な部品 (吸血鬼とその動向) は
  話の中にちりばめられている。
  伝えるべき内容とともに、話自体のリアリティのため
  丸きりすべてが嘘ではないのだ。
 
  紫が何故回りくどく間接的な依頼を寄越したのか、
  幽々子は 「地上に月の民(スパイ)がいる」 ため 「念を入れ」 たもの
  と判断している。
  万が一依頼内容が洩れても永遠亭の連中が
  紫や幻想郷の面々が動いているのはたいしたことではない、と
  判断されるためのフェイルセイフ。

 
 ・そろそろ私たちも動いたほうがいいのかもしれないわね
 
  紫の依頼から二ヵ月後の中秋の名月。
  雲間から露わとなった満月の姿に幽々子は頃合いを感じた。
  その呟きを受け、妖夢はこれまでこっそり監視を実行していた事と
  その監視の成果判明した吸血鬼の動向の詳細を幽々子に告げた。
  幽々子の表情はかなりの驚きを窺わせた。
 
  幽々子が重い腰を上げて行動を決意したその後は、
  紅魔館勢の様子を見て現状を確認し、
  ロケット完成に向けての知恵をようやく貸すことになったはずである。
  ところが、妖夢が観察をすでに行ってきていた事から
  この行動予定がいきなり一段階進んでしまう。
 
  幽々子の驚愕の理由の一つはこの妖夢の行動と考えられる。
  「なんにも理解していないのね」 と思わせて
  実は紫の計画を理解していたのか、いつの間にか妖夢の思考も
  目覚しく成長していたのか、という驚き。
  しかし、話を聞くにつれて単に依頼の言葉通りに行動していただけと分かり
  「本当にわかっていないのね」 とつながる見方である。
 
  一方、もう一つの見方も考えられる。
  前述の様に、紫の回りくどい依頼は情報漏洩に備えた安全策と幽々子は捉えていた。
  しかし、実はもうひとつ紫の計算が隠されていた。
  依頼の真意を幽々子は見抜くだろうが、その安全策を考慮して
  幽々子は真の依頼内容を藍や妖夢に明かすことはないであろう。
  すると、真実を知らない生真面目な妖夢は密かにかつ実直に依頼をこなす。
  それすら紫が見越していた可能性がある。
  幽々子がそろそろ動こうかしらと呟くと、
  真面目な活動成果が主人に報告され、いきなり予定が一段階進捗する。
  紫はそこまで見越していたのか、と感じる一方、
  いきなり行動予定が加速することは紫にせかされているようでもあり(紫の策略であれば尚更)、
  幽々子が頃合いギリギリまでのんびり構えることすら見透かされていたのだという
  旧友の流石の知謀に改めて驚きだったのであろう。
  ということも幽々子の驚愕の理由の別の一つと考えられる。

 
 ・完成させちゃうんですか……
 
  紫は霊夢に神様の力を借りる修行をけしかけた。
  幽々子は妖夢を介してある神様の名を伝える。
  霊夢が新たにその神様の力を借りる修行を開始すれば
  しばらく後にはその神様の力を自在に行使することができるようになるであろう。
  その力こそが月ロケットの推進力となり得る。
 
  (以下、憶測多量)
  紫が絡んでいる以上、巫女の修行も計画の一環である。
  第一話では 「神様を従えた巫女さえ動けば敵に勝ち目はない」 と
  戦闘が真意のような紫の発言があるが、藍に向かっての発言であるため
  解釈に注意が必要であるかもしれない。
  戦果の期待もあるかもしれないが、戦闘を中心としたぶつかり合いは
  計画の表面を偽装し真意を隠すイメージかもしれない。
  月ロケットの完成と幻想郷の強力な人妖が月に乗り込むのがまず欠かせない、
  今回の計画の柱であることが本話より予想出来る。
  永遠亭連中は鈴仙という月との連絡路があるため、
  計画が洩れることは十分に警戒しなければならない。
  そのためダミーの依頼を弄して吸血鬼たちを焚きつけ、
  亡霊たちを勧誘し、巫女の力を十分に高める。
  鬼や天狗も絡むかもしれないが、幻想郷の面々が結集しロケットは完成、
  強力なメンバーの多くが月へ乗り込むことになるだろう。
  月にしてみれば突発的な侵入者であり、
  更には新勢力の台頭でギスギスしたり混乱したりしている上に
  八意永琳逆襲説もあって地上からの侵入者となればまさに一触即発である。
  戦闘状態または大混乱に陥ることは必至である。
  地上からの侵入者の痕跡、八意永琳逆襲説は
  永琳の存在を仄めかす手掛かりを紫が月に残したと考えることも可能であるし、
  地上の物に何故か干渉できなかった月人が旗を抜けたことにも
  紫の境界の力の関与を想像することも可能である。
  後者の場合は新勢力と紫のつながりも想定されるだろうか。
  月の動向は永遠亭サイドに伝わりやすいため、
  八意永琳逆襲説など耳にすれば、静かに暮らしたい永琳達は動かざるをえないだろう。
  月への接触が為され、月と永琳の関与が
  月から使者団が地上へ降り立つような流れとなれば
  月の都の戦力が一時的に減少するため願ったりである。
  「宇宙人が動き始めないと私たちも動けない」 という言葉の真意はそこにあるか。
  月戦力が出来るだけ抑えられた上で、
  紅いロケットが月に突入、大混乱が巻き起こる。
  そんな中、紫が単身スキマを介して月の都に侵入し
  目的物の入手または何らかの目的を達するのであろう。
  それさえ奪えば月世界が全面降伏するような何かだろうか。
  そうでないと月侵入ロケットの遺恨から、月側が幻想郷に侵攻するようになってしまうので
  解決&一件落着は必須である。
 
  そんな紫シナリオかな〜、という予想。
  はてさて、上手くゆきますかどうか?(予想がね)

 

 

 

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