「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第五話 『住吉計画』

 
あらすじ

  すっかり秋模様の幻想郷。
  秋の味覚を楽しむ魔理沙と何だかしかめ面の霊夢。
  修行を始めて三ヶ月以上も経ったが、未だ何も起きないため鬱憤を募らせていた。
  そこへ情報収集に来た咲夜と情報提供に来た妖夢が話に加わり、情勢は大きく動き出す。


誌上情報

  表紙アオリ 幻想郷浪漫奇譚!
  あらすじ   前回のあらすじ、永夜異変紹介、人物相関図アリ
  扉絵アオリ 賽銭箱に座られちゃ神社も商売上がったり!
  柱アオリ  東方マンガ秋味。
         次回、計画始動!


タイムライン

  (数日前)
    紅魔館図書館 … 咲夜とパチェ、ティータイム。
            これまでの伝達情報が不十分であったと判明。
  (本話当日・昼)
    博麗神社 … 霊夢と魔理沙、会話。咲夜来訪。続いて、妖夢来訪。
          咲夜の「探し物」が見つかる。
  (時刻不明。夜か)
    紅魔館図書館 … 咲夜とパチェ、会話。計画が更に前進。
 
 
  補足
 
   本話は霊夢が修行を始めてから三ヶ月以上が経過したある日である。
   霊夢の修行は紫の稽古と同じ日に開始されており、これが第一話であった。
   第一話は旧暦6月の満月の日 (2007年の暦では7月30日、旧暦6月17日) と
   前話から推測されるため、本話は旧暦9月17日以降となろう。
   但し、
   儚月抄でこれまでにひと月ふた月と語られる際には満月の日について
   言われることが多く、そのため太陽暦よりも月齢に相関しやすい旧暦を
   便宜上あてはめてきたが、どこまで幻想郷の実際にあてはまっているかは
   確定には到らない。
 
   本話ではまた、風神録の出来事が解決済みであることが明らかとなった。
   風神録の舞台が山であり、山と麓の季節の差を推量とともに考慮すれば
   本話のおおよそ半月程度前〜直前あたりが風神録本編という具合だろうか。


セリフ解説

 ・「何も起きていないって 神社乗っ取られそうになったりいろいろあったじゃん」
  「あれは別の話よ」
 
  東方風神録。
  時期についての推測は上記のような感じ。
 
  紫に焚きつけられ、加えて、実際何か良くない予感から修行を始めた霊夢。
  神様の力を借りる修行が対神様 (神奈子達) 戦のためであるはずはないと言う。
  「神様の力を借りても 神様に敵うわけがない」 ため、修行の目的とは異なることと
  「あの神様たちの登場は紫のシナリオには入っていないだろう」 ため。
  神奈子達の引越しは偶然の因子が強すぎるし。
 
  とは言え、神奈子達の登場はシナリオに入っていなくとも
  神奈子達を新たに組込んだ修正シナリオ修正を紫が練り始めていないとも限らないが。

 

 ・鳥の巣箱みたいな分社
 
  風神録エンディング要素。
  神奈子&諏訪子専用旅の扉。
  詳細は風神録エンディング参照。
 
  神奈子だけかと思いきや、
  諏訪子の名も魔理沙のセリフに含まれるし、
  分社の上にはカエルがいるし。

 

 ・何も起きないからイライラしてるのよ
 
  いつか何か (良くない事) が起きるに違いないと
  彼女にしては非常に珍しく修行に勤しんできたわけだが、
  その依り所はいつもの勘である。
  ひょっとしたら霊夢は紫を信用しているか、あるいは、
  発言が本気か戯言か区別がつくのかもしれないが。
  三ヶ月以上も何かが起こる気配も無く、
  いつ何が起こるのか、そもそも本当に起こるのか、と
  信念が揺らぎ始めや不安が生じ始める頃合いだろうか。

 

 ・「せっかくの収穫の秋だ 退屈しのぎに豊穣の神でも喚んでみたらどうだ?」
  「なんであんな奴を 収穫の秋に豊穣を祈ってどうするのよ」
 
  穣子のイメージも共に描かれる。
  穣子も 「収穫前に呼ばれないと、豊作は約束できないのだが」 と
  常々思っている事が風神録のキャラ設定に書かれている。
 
  「退屈しのぎ」 「あんな奴」 呼ばわりなのは
  やはり1面ボスであるためか。仕方ない。

 

 ・「じゃあ チロルの秋だから――」
  「甘い物の神様でも喚ぶつもりなのかしら?」
 
  咲夜登場。
  セリフ内容と霊夢の向きから、
  上の魔理沙のセリフ辺りから聞こえていたようだ。
 
  「チロルの秋」 は岸田國士の戯曲 (1924年)。恋のアプローチ。
  「甘い物」 は10円商品の代名詞ともなったチロルチョコ。
  どちらもヨーロッパ中部のアルプス山脈東部地域、チロルにちなむ。
 
    参考 「Wikipedia」 (岸田國士チロルチョコチロル

 

 ・だいぶ形はそれっぽくなってきましたね
 
  数日前、ロケットを前にしての台詞。
  大中小3個の木製の筒が、それぞれの重心には特にこだわらずに
  ずれて積み重なっている。
  各段に窓があり、窓の少ない紅魔館と同じ特徴は見受けられない。
  最下段には煙突や出入り口があり、リビング、寝室、キッチンなど
  諸設備が見られる。(間仕切りの有無は不明)
  更に、冷暖房や水道も完備されているらしい。
  パチェは器用だな。(便利な属性魔法)
 
  照明設備、無重力対策、気密性、陽光対策などは特に語られない。
  また、三段ロケットは普通ならば下段から順に切り離して行くが、
  このロケットは切り捨てる事を前提とした最下段をしていないことから
  三段構成で月を目指す点以外は現実の月ロケットと共通性がない。
  推進原理どころか周辺の物理環境ごと、現実を忘れておいた方がよさそうである。

 

 ・三段の筒
 
  咲夜が命じられた探し物。
  ロケットの推進力。
 
  目の前に三段の筒があり、別に探さずとも良いのでは?と言う咲夜に対し、
  それは魔力の容れ物でしかないことを説明する。
  「地上の呪縛から解き放つ魔力」、すなわち天空への推進力。
  その魔力を指して 「三段の筒」 を探せと命じていたようだ。
  正確な表現のために言葉を補えば、「三段の筒状の魔力」。
 
  推進力となる 「三段の筒」 を探せと命じられた咲夜は
  一ヶ月以上幻想郷中を飛び回り、(妖夢に知られたし、永遠亭も訪ねた)
  中秋の名月の夜など雨の中神社まで飛んだりしていたが、
  当初から探すべき物の情報に誤りがあったというオチ。
  そんな重大情報を、レモンスライス3枚を見せながら語る魔女。
  知識人が情報のアウトプットに長けているとは限らない。

 

 ・そのときを待っていたわ!
 
  妖夢登場。
  霊夢のリアクションに 「?」 なことから、
  咲夜の話の途中あたりから様子を窺っていたと思われる。
 
  ひと月前に聞いた幽々子の情報を
  少し得意気に披露しようとする妖夢だったが、
  前フリから上手く持っていこうとしても一言一言弄られる
  微笑ましい (?) 場面。
 
  捜索対象が三段の筒という物理的な観点から
  三段の筒状の魔力という非物理的な観点に移行するのを
  見計らっている間に、雨月からひと月以上も経過してしまったのだろうか。
  何にせよ、頃合いを 「待っていた」 ようだ。

 

 ・ロケットは宇宙を飛ぶ船なのです
 
  宇宙船とか宇宙戦艦とか。

 

 ・「つまり 推進力を探すのなら 航海に関する物を探さないといけません」
  「じゃあ さっそく航海に関する物を探さないといけないわね」
 
  幽々子の情報を披露した妖夢。
  それは推進力の 「ヒント」 だったのだが、
  さっそく咲夜は航海に関する 「物」 に注意がいってしまっており、
  妖夢はちょっと困り顔。
  ここで魔理沙が何気なく話を霊夢に振り、
  これが更にヒントとなり霊夢は三段の筒を見つけるに至る。
  事が首尾良く運び、妖夢にっこり。

 

 ・三柱併せて住吉さん
 
  上筒男命、中筒男命、底筒男命。住吉三神。
  記紀神話に現れる神で、
  イザナギの禊において、綿津見三神と共に生じた海の神様。
 
  主として航海の神様とされ、
  航海安全、和歌、農業、漁業などに関する信仰をもつ。
  神功皇后の新羅遠征に力を貸した事から軍神ともされる。
  日本全国約2000社の住吉神社の主祭神であり、
  総本社の住吉大社、下関の住吉神社、最も古い博多の住吉神社の
  三社が日本三大住吉とされる。
 
  また、住吉三神を祀る事で著名な住吉大社は文学作品に登場し、
  和歌の神としての信仰も有名になった。
  「伊勢物語」 では和歌を返したことが描かれるほか、
  西行が登場する能 「雨月」 にも現れる。
 
  妖夢の報告から幽々子が逸早く住吉三神に思い至ったのは
  西行の 「雨月」 を絡めた巧妙なリンクと考えられる。
 
    参考 「Wikipedia」 (住吉三神住吉大社
        「神道事典」弘文堂 (住吉信仰)
        「住吉大社

 

 ・今 住吉さんを喚ぶ修行をしているはずですわ
 
  修行中の霊夢のイメージが挿入されている。
  拝殿前で修行する霊夢と賽銭箱上で欠伸をする魔理沙。
  第二話のひとコマを再現したような図だが、
  このことから咲夜とパチェの会話は夜の出来事と推察される。

 

 ・『住吉月面侵略計画 (プロジェクトスミヨシ)』
 
  「私たちの宇宙計画は住吉さんを名乗れば必ず成功する!
  との意気込みを受けて即座にプロジェクト名を付けるパチェ。
  興奮のためか、プロジェクトリーダーのレミリア
  (明確に決められたわけでは無いが) を差し置いてしまう。
 
  住吉三神は先に触れた様に航海の神であり、また、
  軍神とされることもある。

 

 ・(カラス)
 
  ロケット頂上に密かに居り、クローズアップされた後
  紅魔館外へと飛び去るカラス。
  もちろん紫の式神であろう。
 
  クローズアップされたコマは黒ベタ背景に
  白い円がカラスの顔の横に描かれている。
  外が満月の夜である可能性もあるが、
  単に図書館の丸窓から入る外の光とか
  単にクローズアップ時の漫画的エフェクトとも思える。

 

 

 

 

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