「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第八話 『賢者の封書』

 
あらすじ

  綿月姉妹のペットとなったレイセンは、
  依姫の指揮する戦闘要員の兎たちの中に配属された。
  綿月姉妹は永琳の手紙に則って地上からの来訪者に対する警戒を強めていた。
  一方、現在、紅魔館の月ロケットは完成し、神社で飛行中の段取りが話し合われている頃、
  紅魔館図書館にはロケットを見上げる侵入者、鈴仙と永琳の姿があった。


誌上情報

  あらすじ  これまでのあらすじ、月世界と永遠亭の人物相関図アリ
  扉アオリ まあ、桃でも食べてお待ちください?
  柱アオリ これぞ、必翔祈願のお札。


タイムライン(補足込み)

  (月の都)
   日時不確定ながら、小説版第三話で見られた要素、
   地上からのカラス飛来やレイセンの戦闘面での見込みから考えれば
   地上からカラスが迷い込んじゃうかもねというようなセリフおよび
   レイセンが依姫隊に面通しされたばかりという点から
   時間は随分と遡っていると推察される。
   前話の当日〜数日後くらいが妥当なところであろうか。
   前話では月の裏側である月の都が昼であり、ひょっとしたら新月頃と予想されたが、
   本話では月の表側である静かの海が夜であり、やはり新月頃と予想される。
   両者に時間的な隔たりは小さいと思われるため、この合致は考慮に入れたい。
 
  (幻想郷)
   一方でこちらは別時間。
   ロケットも完成し実際の段取りの話題に移っていることから
   紫が月にカラスを飛ばしたよりも後のことになる。
   レミリアが就寝中であるとされることから、とある日の日中であるが、
   日時は不確定。
   神社で末吉を引いたパチュリーが、そろそろ運が向いてくる予定と
   言っており、年は明けていないようだが具体的には不明。
   秋か冬か。(ふきだし外の書き文字なので根拠もやや薄弱だが)


セリフ解説

 ・(戦闘要員の兎)
 
  レイセンを加える前は7人 (匹)
  ひたすら談笑する3人、桃を味わう2人、居眠り1人、読書1人。
 
  玉川紗己子ボイスで 「諸君――!」 とか言いそう。
  (それはアニメ・攻殻機動隊のタチコマ)

 

 ・(兎たちの装備)
 
  鈴仙やレイセンと同様に衣装はブレザー。
  耳はへろへろと直立し、鈴仙型。
  シンプルなヘルメットをかぶっている。
  シュタールヘルムなどの鉄兜のイメージか。
  耳を外に出すための孔が2つ頂部にあり、(かぶるのに難儀しそう)
  後頭部にはリボンがあしらわれている。
  武器は銃剣を所持。
  三十年式銃剣で遠近両用。

 


 ・前に地上に行ったときはさ―――
 
  兎達の会話の一端。
  昔は永琳を探すために地上に降りていた使者である。

 

 ・大丈夫 今日からレイセンの役はこの娘が務めることになったのよ
 
  詳細不明。
  新加入のレイセンの紹介だが、彼女が務める 「レイセンの役」 は明らかでない。
  直前には、「さあ あの兎に稽古をつけてもらいなさい」 と
  依姫が一匹の兎を指しつつレイセンに言う。
  その兎は、七匹の兎の中で一対一の組から外れていた一匹だが、
  指された兎は 「え… でも……」 と返答に困る。
  そこに依姫が 「大丈夫 今日から――」 と発言する。
  その役を務める以上は下っ端、あぶれ役、それが 「レイセンの役」 で、
  本日から指されたその兎ではなく逃亡兎に変更になった、かのような様子である。
  本当の所は不明。まぁ、特に重要そうなくだりではないのだが。

 

 ・過ぎ去った日のこと
 
  鈴仙の逃亡、あるいは地上人との月面戦争で失われた仲間。

 

 ・静かの海
 
  夜空に浮かぶ地球。
  地球を映す海面。
  海を見つめて砂浜に立つ豊姫。
 
  アポロ11号月面着陸、すなわち人類が踏みしめた最初の地が
  静かの海である。
  Sea of Tranquility.
  静寂、平穏の海。
 
  月の都とは正反対の場所にあり、つまり地上にもっとも近い海である。
  静かの海は月の表側にあり、月の都は月の裏側にある。
  地上からは月は常に一方の半球だけを地球に向けているため
  他方の半球を地上から見る事はできない。
  したがって、月の表側、月の裏側といった表現が為される。
  一方、月人にはその観点はない。
  月の都は結界に守られ、
  外界に見せている、いわゆる表側とは結界内は異なる様相である。
  結界内部、月の裏面、真実の姿は穢れのない海と豊かな都の星。
  結界外部、月の外面、見かけの姿は荒涼とした生命の無い星。
  結界は月の都から静かの海まで月全体を覆う規模なので、
  いわば表と裏の二重世界。2つの様相の 「星」 が月世界なのである。

 

 ・なんとなく 海は懐かしいだけよ
 ・それは……綿月の家系ですからね
 
  海神・綿津見神にちなむ。
  前話参照。

 

 ・八意様の手紙
 
  サブタイトルと同義。
  SSB 第一話、CLR 第1話の頃に書かれたものだが、
  月の都を侵略しようとする謀略、
  地上から侵攻のあること、
  それが今すぐというわけではなく、
  しばらく後であることが記されていたようだ。
  その対策としては姉妹協力することよりも
  それぞれの能力を活かした立ち回りが最適とされていたようだ。
  しかしながら、それらの解釈に至るまで
  手紙に初めて目を通してからその内容の理解に
  姉妹は議論を必要としていた。解釈に齟齬がある可能性も懸念される。

 

 ・先の戦いで戦闘要員の兎たちも減ってしまいましたから
 
  儚月抄で未だ触れられていない永琳による使者抹殺ではなく、
  鈴仙逃亡などがあった頃以降の地上人との戦闘を指していると思われる。
  鈴仙の様にみんな地上に逃げたわけではなさそうなので、
  戦意喪失で脱退したか重傷を負う等で除隊されたか、戦死したか…。

 

 ・あの石が地上に落ちていったように
 
  豊姫が海面についと投げた小石は
  ちょうど海面に輝く地球の像の中心部に向かった。
  そこに紫のスキマよろしく亜空間が開き、
  小石をナイスキャッチでその口腔に納めた。
 
  豊姫が投げた石がちょうど地上に転送された事から
  豊姫の海と山を繋ぐ能力が行使された可能性が高い。
  ただ、CLR 第三話で紹介された様に
  非常に低確率ながらこのような異界に至るゲートは
  自然に開く可能性がある。
  今回の小石が自然な確率ではないにせよ、
  地上から月への逆のルートも同様で発生確率自体はゼロではなく、
  比喩としての話で鳥などが迷い込む可能性も豊姫に指摘されている。

 

 ・私は貴方が動くか このへんに地上から何者かが現れるまで
 ・やることないのよね
 
  あっけらかん。
 
  小石のシーンの直前の依姫との会話を受けてのもの。
  綿月姉妹は地上と月を繋ぐ使者であると同時に
  前話であったような月を守る使命も帯びているだろうか。
  後者は責任ある役職の者としての当然の役割かもしれないが、
  いずれにしても不穏な空気の月世界において
  対策を手にしているのは永琳の手紙を読みそれを信じる
  二人の姉妹だけである。
  手紙の内容に沿って、依姫は警戒を怠らず、
  彼女の兎達には戦闘訓練を行わせている。
  「でも お姉さまは……
  →海を見つめ佇んだり桃を食べるばかり
 
  いちおう、姉妹協調して同じ動きをしないことや
  海に対する監視の妥当性は上にも紹介した通り、
  これらは豊姫自身がそれとなく口にしている。
  ただし、実質的にやることがないのも事実である。
  最終的には問い詰められればそうぶっちゃけるしかない。
 
  しかし、豊姫がたびたび静かの海に臨んでいたお蔭で
  CLR 第三話、このやりとりの後日だが、
  紫の式神の侵入を逸早く察知し、
  すんでの所で月の都の結界突破を阻むことが出来たのである。
  永琳の手紙のお蔭か偶然かは不明だが、
  どちらにしても豊姫の幸運属性によるところが大きいか。

 

 ・地上に残るナビゲータが必要らしいのよ
 
  パチュリーは管制官として地上に残り、ロケットには乗らない。
  通信もデータリンクもロケットのリアルタイム計測手段も無いが、
  一体どのような魔法でナビゲートするか、詳細は不明。

 

 ・導きの専門家 (天狗
 
  そんなものは天狗に任せれば良いと霊夢の言。
  「導きの専門家」 の語にルビとして 「天狗」 と振られている。
  天孫降臨を先導した猿田彦が鼻高天狗のルーツとされることもあり、
  この表現や射命丸文のサルタヒコ系スペルに用いられているのであろう。
 
  霊夢は、餅は餅屋というニュアンスの他、
  ロケット打ち上げや上昇中のプロシジャを覚えるのが面倒なので
  パチュリーが同乗して適宜指示して欲しい気持ちもある。

 

 ・うちのお神籤に末吉なんてあったっけ?
 
  パチュリーが末吉を引いたのは前述した。
  そのパチュリーの言に対する霊夢の疑問。
  「大吉とハズレくらいしか見たことがないけど
  真相は魔理沙。
  「私がまぜておいたぜ 末吉とか大ハズレとか
  どうやらくじ運は悪くなさそうである。
 
  ちなみに、博麗神社のおみくじに末吉が無いのは
  妖々夢マニュアルのキャラクター紹介、霊夢の項にきちんと記されている。

 

 ・ルビ
 
  手順書でなんとかなるかと思われたが、
  イコール魔術書であるため普通読めない。
  (霊夢によれば、読めないのではなく、読めるが読まない (読む気が無い))
  ロケットに同乗する咲夜が指示出来る様に
  手順書にルビを振ろうかな、と思わず溜め息のパチュリー。
  魔術言語に日本語を施すとかだろうが、非常に見難くなると予想される。
  実際にそうするかは不明だが。
 
  ルビとは振り仮名を言う。
  振り仮名用の活字に由来する。
  5号活字に対し、振り仮名として使った7号活字の大きさが
  イギリスの欧文活字の大きさを指すルビー (約5.5ポイント) と
  ほぼ同大であったから、日本独特なのに外来語。
 
    参考  「広辞苑 第五版」 (ルビ、ルビー)

 

 ・誰の入れ知恵かしら?
 
  ロケットを見てほぼ完璧と唸る永琳。
  住吉三神の加護ならば月に至るに申し分ないと踏んだ。
  誰の入れ知恵か…それが永琳の探す黒幕か…。
 
  吸血鬼にそこまでの知識はない。
  パチュリーの知識や蔵書にしても、
  外の成功例を真似てロケットという概念や筒状の外面を
  模倣するのが関の山である事はこれまでの開発履歴から自明。
  それら試作ロケットが成果を上げられなかったことから
  その他紅魔館勢にもその知識がないと知れる。
  それが三段ロケット、住吉三神と、理想形に数段飛ばしで近づけば
  そこに誰かの入れ知恵があったことは明らかである。
 
  読者は紫の手引きであることを知っているが、
  永琳や幻想郷の面々にも漠然とした予感がある (だろう) 以外は確証が無い。
 
  三段ロケットについては、より最新の外の資料を得ようと香霖堂から仕入れた。
  これはレミリアの無理難題に咲夜が自発的に発想したルートである。
  幻想郷に居る霖之助らは、入ってきたからには幻想になったと疑う余地も無いが、
  読者はニュートンが現役誌であることを知っており、
  これも紫がこっそり幻想郷に落としておいたのではと疑える。
 
  住吉三神については、妖夢が霊夢達にもたらした情報である。
  霊夢達がここで絡むのは、幻想郷中に知れ渡った月ロケット計画が
  なんだか面白そうだから、で済み、この線から真犯人は辿れない。
  妖夢から辿れば住吉三神の情報源、幽々子に至るが、
  こちらもいつもの通りのらりくらりとかわされるに違いない。
  そもそも紫から怪しげな依頼があったこと自体は確かだが、
  これはきっぱりと断っており、その点は妖夢も証言するだろう。
 
  霊夢が住吉三神を降ろせるだけの修行を重ねていた点も注目されるが、
  霊夢が月ロケットに協力する動機は上述の様に 「面白そうだから」。
  紫が突発的に稽古を仕掛けた事が端緒だが、
  月ロケットの話題や風神録の騒動を間に挟んで
  霊夢本人の関連付けも弱まってそうな気もする。
  (  紫関連←修行 月ロケット  ⇒  紫関連 修行→月ロケット  )
 
  吸血鬼達がこの時期に月に行こうと言い出した点を洗うのが近道かもしれない。
  紫の依頼を拒絶し、逆に対抗意識を燃やしたためだが、
  これがシンプルであり、他にも紫の影がちらつくことも踏まえれば
  確証は無くとも目星は付けられる。
  とは言え、月ロケット開発と時を同じくして
  幻想郷中で月の話題、噂が頻発してきたことで
  当時に遡った当事者達の証言を永琳達が得ようとしても
  情報ノイズに埋もれてしまって紫の計画 (それもダミー) どころか
  紫の影すら捕捉できない可能性もある。

 

 ・今のうちに工作 (こわ) しておきます?
 ・そうね 工作 (なお) しておきましょう
 
  どちらにせよ工作。何か弄る。
 
  永琳はレトロスペクティブに犯人特定を目指すのではなく
  プロスペクティブに手を回すか。
  謎の布を一枚、ロケットの頂部に貼付し、
  これで万が一の心配もなく月に至れる完璧なロケットとなった。
  霊夢達を無事月へと至らせ、ある程度は黒幕の思い通りに事を運ぶ。
  黒幕の手足となっている彼女ら (その自覚は無い) を
  例えば黒幕の目的達成直前だとかで霊夢達の働きを封じるなどし、
  手段を失った黒幕が自ら舞台に上がらざるを得ない状況を作り出す。
  これが慎重で戦略に長ける用意周到な黒幕を見出す
  効率的なやり方であるとかそんな感じで。
 
  そのためにはどこか一手、黒幕の裏をかかねばならない。
  永琳は逃亡兎が黒幕の想定外の要素と考え、
  手紙を託して月側に防衛体勢を整えさせている。
  これが上手く働けば、折角月へと至った黒幕の戦力が封じられる。
  それに対して黒幕がシナリオを変えて動く必要も出てくるというものである。
 
  しかしながら、紫は紫で
  逃亡兎も神社での式神の監視から情報を得ており、
  それを利用せんと打った永琳の動きも永遠亭の式神の監視から
  把握している節がある。
  宇宙人には気取られぬ様に動いて来たが、
  宇宙人達に動いてもらわないとうまくない、という様な発言も
  その式神情報を得た時に放っており、
  永琳の動きもシナリオ内であるとも考えられる。
  そうなれば月での防衛策や月ロケットの完成も想定内。
 
  逃亡兎が黒幕の仕業なら永琳にはお手上げとCLR 第二話であったが、
  逃亡兎の登場が黒幕に逸早く察知されていても同義。

 

 ・図書館の主が帰ってくるか
 ・この家の主が目を覚ます (夜になる) 前に退散しましょう
 
  「この家の主が目を覚ます」 に対するルビが 「夜になる」。
  レミリアは就寝中。
  パチュリーと咲夜は外出中。
  美鈴はあって無きが如し。(ぉ
 
  儚月抄公式サイトの秋★枝氏コメントによれば
  ZUN氏に聞いてみたところでは門番はシエスタしていたとか
  そんなところ、というような回答があったのだそうな。
  求聞史紀にもそのような目撃情報がある。
 
  仮に門番が職務をこなしていたとしても、
  約30分の館外見回りも兼任しているため、やはりザル。
  それに加えて波長を操る鈴仙なら一人でサニー&ルナだし
  永琳も空間を壮大に弄れるし。

 

 

 

 

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