「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第十一話 『青い宙を行く』

 
あらすじ

  飛翔を続けるロケット。窓の外は数日経っても変わらぬ青空。
  順調な旅行をする霊夢達一行。そして、遂に月へと辿り着く。
  一方、地上では永琳達が紅魔館図書館に足を運んでいた。


誌上情報

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  あらすじ等  あらすじならびに人物相関図アリ。
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  柱アオリ   見れば見るほど摩訶不思議。
           ロケット大破!さあ、どうする?


タイムライン

  (上空)
   飛翔五日目。三日月の夜から4日後。月は半月と思われる。
   ロケットの最下層ならびに中層を順次切り離した。
   調理に使う油を誤って投棄してしまったのも
   咲夜が窓を開けたのもこの日。
 
  (紅魔館図書館)
   ちょうど満月の夜に辿り着けるように調整された日程、
   出発日が三日月だったことから、単純に見て片道12日。
   この日はその半分過ぎということから、
   飛翔から6、7日後だろうか。
   途中で半月が描かれる事から、こちらが優先されるだろうか。
   この場合、上述の上空描写と同日であり、
   行程は半分は過ぎて、とは
   大雑把な表現か距離的な話か、三段ロケットの三つのフェイズを指すか。
 
  (上空)
   飛翔十二日目。三日月から数えて満月の日。
   ロケットは遂に月に至った。
   ロケットは頭から月の海に突っ込み、
   着水の衝撃でバラバラに砕け散った。


セリフ解説

 ・(青い宙を行く) [包括的に]
 
 →月旅行メカニズム
  現実的に月へ行くならば最低 36万km の距離、
  宇宙空間をロケットで進む。
  一方、幻想的には、雲をいくつか越える程度の上昇で
  空に浮かんでいる月に到達できる。
  距離は絶対的ではなく、見る人により変化する。
 
  術式として、外の世界の技術を模しているロケットだが、
  設計・作成者であるパチュリーや操縦者である霊夢の認識・想像は
  幻想世界の月航路を思い描いている。
  「空に映っている月を追いかけるようにできている
  「後は住吉さん任せ
  そうである以上は、月航路自体や航路上でロケットを取り巻く環境は
  「現実の」 宇宙とは異なるものとなる。
 
  作中では矢を取り出した永琳がパチュリーを脅している。
  「ロケットが月に辿り着けなくなってもいいの?
  空間を壮大に弄ったことのある永琳なので
  情報を出さないならばロケットをどうにかするわ、という脅しにも思えるが、
  そうであるならば、月の羽衣が看破されたことで脅しをやめたりしない。
  月の羽衣について、パチュリーも 「絶対」 の 「保証」 としており、
  永琳もそれを認めてかあっさりと矢を引いていることから
  永琳の空間操作等でロケットをどうこうすることはできないのであろう。
  (可能であるならば、「絶対の保証」 を否定し、脅しを続けることができる)
  では、永琳は何をもって脅していたか。
  それはパチュリーを矢でプスリと刺して命を落とさせること。
  ロケット作成者の認識・理念が消失すれば、
  住吉さんで運動している以外の基盤は外の技術を模した三段ロケットである。
  幻想成分が著しく損なわれ、相対的に現実成分が増し、
  ロケットは現実と幻想の狭間で航路を見失う可能性がある。
  ロケットは月に辿り着けなくなる。
  間接的な表現を取っているが、内容としては単純な脅しで、
  実はかなりダークサイドの永琳発動中。
  そして、洞察力と最善の回答により危機を回避したパチュリー。
  賢者同士のやりとり。
 
 →幻想宇宙
  どこまで飛んでも青空。
  多少色が薄くなった感じを受けたのは
  大気圧の知識が作用したものか。
  魔理沙の 「現実的な」 宇宙観が
  多少ながら作用したのかもしれない。
  パチュリーも圧力で窓が開かないようにと配慮していたが、
  気圧の低下も高空とは言え大したことなく、
  窓を開けば空気が吹き込んでくる程度。
  寒暖差も著しくなく、重力にも変化を感じない。
  そんなこんなのうちに月に辿り着く。
  満月近辺には月の都に入り込める穴が空くと言う。

 

 ・今 淹れますね
 
  配膳台が一体型のお子様用椅子、要するにベビーチェアに
  ちょこんと座る500年以上生きている吸血鬼レミリアと、
  チープそうなやかんを持つ西洋メイド咲夜。
  シュール。

 

 ・宇宙ネズミの死骸でも出たか?
 
  アニメ・特撮などいくつかの作品で、
  地球外産のネズミ、または怪獣、クリーチャーが登場する。
  元ネタがあるとしても特定不能か。
  単に宇宙だけにネズミなのか。
 
  旧ソ連の、ライカ犬などで知られるスプートニク計画では、
  犬とともにネズミなどを積んで宇宙へ打ち上げたケースもある。
  2007年9月にも、アレチネズミ10匹を乗せた宇宙船が
  カザフスタンから打ち上げられた。
  関連は不明。
 
  参考
  「Wikipedia」 (スプートニク計画
  「AFPBBニュース」 (ネズミを乗せた宇宙船打ち上げ) 2007年09月16日

 

 ・ミニ八卦炉
 
  「魔理沙の宝物
  東方香霖堂 「霖雨の火炉」 にて紹介された。
  東方永夜抄の魔砲 「ファイナルマスタースパーク」 解説や
  東方文花帖 (書籍) にも現れる。
  八卦炉の元ネタは 「西遊記」。
  通常は太上老君が錬丹に用いる炉で、刃でも術でも傷付かないとされたが、
  孫悟空はこの炎にも耐え八卦炉による処刑から脱出した。
 
  「煙草から放火まで 幅広く活用できる 魔法の火炉
  何故かマッチ程度の紹介しかされていない…
  レミリア 「遅かったわね
  マッチ程度なら、それは遅い。
 
  参考
  「西遊記覚書」>あらすじ (第弐回)

 

 ・ロケットの空気が漏れてるんじゃないのか?
 
  宇宙空間でなくとも、高空では地上より気圧が低い。
  地上で打ち上げられたロケットの気密がしっかりと保たれていれば、
  飛行機がそうであるように、ロケット内の気圧は一定のはずである。
  気密が完全でなければ、外の高空よりも高圧となるロケット内から
  空気は次第に漏れ出て、ロケット内の気圧は1気圧よりも低下してしまう。
 
  気圧が下がれば、水の場合は沸点降下と融点上昇が起こる。
  この状況で沸点が下がっている (咲夜の感覚的に) ことから
  空気が漏れての室内気圧の低下が疑われる。
 
  沸点が下がるということは、水は100℃を下回る温度で沸騰するということ。
  つまり、お湯の最高温度が低くなる。
  一般に、固体の溶解度は、温度が上がれば溶解度も上がる。
  紅茶の場合、茶葉より種々の成分がお湯の中へと溶解、拡散してゆく。
  溶解度と温度の関係から、茶葉に注ぐお湯の温度が変化すれば
  抽出される成分の溶解度も変化し、風味も微妙に変化する。

 

 ・(ゴッ)
 
  窓を開けると勢いよく吹き込む風。
  高空ならば地上よりも気圧は低く、
  一方のロケット内は気圧が地上とほぼ同じであるため、
  通常、空気は高圧側から低圧側へと流れる。
  後は温度差とかロケットの運動による風の流れとかあるが、
  いずれにしても空気が吹き込むということは
  気圧差が大したことないということであろう。
  流入する空気についても、寒い (または熱い@熱圏) という描写もないし、
  重力も地上と変わらない、ということで、
  距離的に上空であることとちょっと気圧が低いこと以外は
  温度も重力も地上と変化ない位なのであろう。
  空気の流入は、移動するロケットで起る風の流れが
  たまたまそういう具合だったためであろうか。(ロケットの形はいびつだし)
  「現実」 の高空とは異なるが、それが 「幻想」 の高空。
  魔理沙の知識は前者であり、ここでは 「都市伝説」 みたいなものに過ぎない。

 

 ・上筒男命から『退屈だからそろそろ代われ』って
 
  という理由で、一日の内に最下層と中層が切り離されることに。
  住吉三神の三男坊、強し。

 

 ・その月は外の人間が辿り着いた月とは異なる場所かも知れませんが
 
  結界の内外の差を異なる場所とした表現か。

 

 ・(矢)
 
  リボンの結ばれた、黒塗りの矢。
  ゲーム本編の永琳グラフィックでも、同様のリボン矢が確認できる。
  これを取り出し、永琳はパチュリーの背に突きつけた。
 
  弦月など、月と弓矢は密接であるから、そこからか。
  あるいは、アルテミスの携える弓矢からか。
  オリオン殺しの矢が、プロジェクトスミヨシを脅す構図に使われたとか。
  プロジェクトスミヨシは既にオリオン座と縁が結ばれている。
  一方、日本神話において思兼神に着目すると、
  思兼神の親である高木神が他の神に授けたり自ら放ったりした弓矢(または矢)として
  天のはじ弓、天のかく矢が知られる。
  神殺しの矢であり、こちらも呪的な殺傷力は充分である。
  また、かく矢と輝夜のシャレも考えられる。
 
  参考
  「Wikipedia」 (アルテミス
  「古事記」 梅原猛著、学研M文庫

 

 ・ここのところ次から次へと新情報が入ってきたんだから
  しかも何もかも都合よく手に入るし なぜか霊夢も準備済みだったし
 
  三段ロケット、霊夢、月の羽衣、そして雑誌ニュートンが描かれる。
  やはり現役雑誌であるニュートンの幻想入りも紫の意図によるものと見てよいか。

 

 ・(大笑い永琳)
 
  黒幕に踊らされている紅魔館勢から
  脅してでも情報を得ようとした永琳だったが、
  パチュリーの洞察や状況分析は的確であり、
  申し分のないやり取りであった。
  永琳から見ればたかだか百歳の小娘だが、
  本話で、永琳のパチュリーに対する評価は随分改められたことであろう。

 

 ・最後の仕上げよ! 何かが起こるわ!
 
  訳)私に出来るのはここまでよ! 着陸は成り行きで!
 
  満月よりも上の位置まで来たロケット。
  月面の上空と言った方がよいか。
  そこで霊夢のセリフが発せられ、
  それを合図にしたかのように、
  ロケットはがくんと不審な挙動を示し、ぐるっと回転。
  混乱の機内をよそに、ロケットはまっしぐらに月の海の海面へ
  その先端部から勢いよく突っ込んだ。
  木端微塵。

 

 ・(海)
 
  寒暖差や風や地球との潮汐力、ロケットの衝撃などで
  波や潮の流れは確実にあろうかと思われるが、
  さて、流れ水がよろしくないレミリアの運命や如何に!?

 

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