「東方儚月抄 〜Silent Sinner in Blue.」
第十二話 『豊かの海』

 
あらすじ

  墜落し大破した、霊夢達の知恵と努力の結晶である月ロケット。
  帰る手段は月の海の藻屑と消え、途方に暮れたそがれる霊夢と魔理沙。
  一方、吸血鬼のお嬢様は流水も日光もなんのその、くるくると散歩を楽しんでいた。
  人間達が気を取り直しはじめ、吸血鬼が退屈を感じ始めた頃、
  依姫と月の兎たちが先手を打って来た!


誌上情報

  表紙    霊夢と魔理沙、月へ到着!! 単行本上巻大好評巻頭カラー!!
  背表紙   単行本上巻大好評巻頭カラー!!
  見開き   ロケット大破!! ゆっくりしてる場合じゃないですよ!!
         単行本上巻 大好評発売中!
  柱アオリ  先月号は休載して、ごめんなさい。
         紅い悪魔は本気モード!?


タイムライン

   (月面)
   月齢ならぬ地球齢が 「満月の日」 に一致しないが、
   物語上おそらくはロケット墜落と同一の日であろう。
   海にロケット墜落後、沿岸に漂着した霊夢達。
   依姫一派に遭遇する。


セリフ解説

 ・海坊主とかクラーケンとかが出るだけでしょ
 
  幻想郷にも海があれば大分違うんだがな…という魔理沙に対し、
  妖怪の出現する海を想像する霊夢。
  まぁ、魔理沙もそういう光景を思い描いて
  退屈しなさそうという意味で発言しているのかもしれないが。
 
  海坊主は日本各地の沿岸部で言われる海の妖怪。
  海上でそれを見ることは不吉であるとか、
  船を沈没させる、人を海中に引き込むなどと言われる。
  真っ黒い入道のようなモノで、
  目があったりなかったり、
  髪の毛があるとか、口を開けて笑ったとか様々である。
 
  クラーケンは北欧伝承の海の怪物。
  巨大なイカまたはタコといった頭足類として描かれることが多い。
  島と間違えて上陸するとそのまま海に沈んでしまう、
  船を捕らえ沈めてしまう、乗員を一人残らず喰ってしまうなどと言われる。

  参考
  「日本妖怪大事典」 (海坊主) 村上健司編著、水木しげる画、角川書店刊
  「Wikipedia」 (クラーケン

 

 ・お嬢様
 
  霊夢達とは対照的に、活発に豊かの海周辺の桃の森を観光中。
  弱点の流水はどういうわけか回避できた模様で、
  何事もなく動き回る。
  (運命視で先に脱出し飛翔したか、咲夜の時間停止フォローがあった、
   といったところか)

 

 ・桃
 
  儚月抄 SSB 第七話 の解説に記した。
  仙果であり、長寿を示す。
  春の早い時期から花咲くため、生命力の象徴。

 

 ・月の海には生き物は棲んでいない
 ・生命の海は穢れの海なのです
 
  儚月抄 CLR 第三話 参照。

 

 ・豊かの海
 
  月の海の一つ。
  静かの海に隣接している。
  アポロ計画で人類が初めて月に足跡を残したのが静かの海であり、
  本話より以前に綿月姉妹が足を運んでいたのも静かの海である。
  霊夢達の月ロケットは
  当初は静かの海に墜落し、その後、豊かの海に漂着したものか、
  あるいは最初から豊かの海に落ちたのかは判然としない。

 

 ・物騒だな その長物 (ものほしざお
 
  依姫が霊夢に向けて長刀を突き付けた際の、魔理沙の牽制。
 
  物干し竿の、長い棒の形状に例えて
  野球選手・藤村富美男の長尺バットや
  戦国時代の剣客・佐々木小次郎の長刀の通称が 「物干し竿」 であった。
  ここでは佐々木小次郎の約1メートルもの野太刀
  「備前長船長光」 の通称、物干し竿に掛けていると思われる。
  長いばかりで斬るには向かない。
  また、直前の掛け合いから、釣り竿の竿とも掛かっているだろうか。
  竿は竿でも釣りには向かない、物干し竿。
 
  長物 (ちょうぶつ) も同義で、
  長さの長いものを意味する他、
  長すぎて用をなさないもの、必要以外のもの、むだなものを意味する。

  参考
  「Wikipedia」 (佐々木小次郎
  「広辞苑 第五版」 (長物)

 

 ・女神を閉じ込める 祇園様の力
 
  祇園様は祇園信仰の信仰対象。
  牛頭天王・スサノオを祭神とする。
  インドの祇園精舎の守護神・ゴーシールシャと
  中国の陰陽道とが集合した神が、
  日本でさらにスサノオと習合した神格が牛頭天王であるとされる。
  病気をはやらせる行疫神とされるが、
  祀り、慰和・遷却を行って防疫を願う。
  十世紀に始まる祇園御霊会が疫気ばらいの夏祭りとして人気を博し、
  祇園社 (現、八坂神社) の例祭として定着した。
  室町期には山車や山鉾に象徴される京都の町衆の祭りとなり、
  現在の祇園祭として引き継がれている。
 
  「女神を閉じ込める」 とは、スサノオにちなむだろうか。
  スサノオは日本初の和歌を詠んだとされる。
   八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
  (多くの雲が立っている。その雲が多くの垣根のように、わたしの家を
   取り巻いている。その中に、わたしは妻を取り籠める。ああ、雲が
   垣根をつくっている。多くの多くの垣根をつくっている

  スサノオが取り籠める 「妻」 とは、風神録の曲でもおなじみの
  稲田姫ことクシナダヒメである。
 
  同時に、依姫の長剣もスサノオの十拳剣 (とつかのつるぎ) にちなむか。
  拳10コ分の長さの剣、という意味合いの長剣である。
 
  対象を閉じ込め、身動きを封じる多量の刃は、祇園祭の山鉾、
  長刀鉾をはじめとする66の鉾にちなむだろうか。
  山鉾は祭礼に引く山車の一種で、
  台の上に山の形などの造物をし、
  その上に鉾、長刀などを立てたもの。
  京都の八坂神社の祇園祭の山鉾が特に有名で、
  その起源は869年の悪疫流行に際して
  全国の国数に応じて66本の鉾を立て、神輿を神泉苑に送って
  祭りを行ったことに始まるという。

  参考
  「【縮刷版】 神道事典」 (祇園・津島信仰、牛頭天王、祇園祭、山鉾) 弘文堂刊
  「古事記」 梅原猛著、学研M文庫
  「Wikipedia」 (十束剣牛頭天王

 

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