「東方儚月抄 〜Cage in Lunatic Runagate.」
第五話 『果てしなく低い地上から』

 
あらすじ

  新月のロケット完成記念パーティ、三日月の月ロケット打ち上げ、
  半月の紅魔館図書館への永琳侵入、そして、満月の第二次月面戦争。
  地上から月を見上げる紫の発言と思考を通して半月間の経緯が紡がれ、
  そして紫の本格的な月世界侵入行動が開始される。


誌上情報

  表紙アオリ 特別付録CD-ROM 東方地霊殿体験版+特製壁紙9種
          ZUN連載ノベル
  扉アオリ  ついに黒幕・紫が登場!
         第二次月面戦争の真意とは――!?
  紹介記事  キャラクター紹介 (八雲紫、八雲藍)
  特集記事  東方地霊殿体験版 (付録) の解説


パラグラフ編成

  1)(今回は八雲紫視点)
    地球に対して常に同じ面を向けている月。
    天体としての月の特性について。
  2)科学的理由と、幻想郷を保持する為の非常識。
  3)新月の夜、湖上で新月を見つめる紫。
    紫と藍の会話…「吸血鬼のロケット、完成パーティ、月の周期と暦の食い違い」
  4)三日月の夜、昇る流れ星を眺める紫と藍。
    紫と藍の会話…「発射されたロケット、月に行かせた目的、出発予定」
  5)半月の夜、雪雲に隠れた月を見る紫と藍。
    紫と藍の会話…「月の周期、式神、協力者」
  6)満月の前日、月を見る紫と藍。
    紫と藍の会話…「段取り、第一次月面戦争、決して敵わない」
    人間と妖怪、幻想郷に生きるということについて。
    紫と藍の会話…「人間側を選んだ永琳達、人間の義務、住民税」
  7)満月の夜、満月を見ている紫と合流した藍
    紫と藍の会話…「吸血鬼のロケット、囮」
    境界を操作する紫。吸血鬼たちの非効率と余裕の心について。
  8)引き続き、紫と藍の会話…「行動命令のヒント、例え話」
    境界を潜り月の海へと至った紫と藍。
  9)引き続き、紫の例え話…「月に侵入、都の結界、退路の寸断、賢者の罠」
  10)引き続き、紫と藍の会話…「罠と退路と策、吸血鬼のオンボロロケット」
    月と幻想郷の対比。
  11)月の静謐に幻想郷の喧騒を思い起こす。
    月面で騒いでいるであろう吸血鬼たちに好意的な感慨を向ける紫であった。
 
 
  補足
 
   本話の会話から、同じ月の新月の日に完成パーティ、
   三日月の日にロケット打ち上げが為されたことが推測される。
   半月の日に永琳達が紅魔館に潜入した事は儚月抄 SSB 第十一話で描写された。
 
   また、これまでに描かれた紫の登場する湖上のシーンは
   特に満月の日であれば月の海であった可能性が高いことが
   本話にて明らかとなった。

 

 
解説と雑学

 ・その理由は極めて科学的で非常にくだらない物である
 
  比較的近い距離である二つの天体の間で、
  一方の天体から他方に強い潮汐力が強い場合に、
  潮汐力を強く受ける側の天体で起こる、自転と公転の同期現象。
  潮汐力により天体はわずかに楕円に変形するが、
  その長軸は天体自体の自転の影響により
  引力の力の向きとはわずかにずれることになる。
  この向きのずれに起因し、天体にかかる潮汐力は
  天体の自転運動に対してブレーキの役割を果たし、
  やがては楕円の長軸と潮汐力の方向とが一致する形、
  すなわち、自転と公転の周期が同期し、
  天体が一方の面のみを相手方に向け続ける状態に落ち着く。
  (但し、自転周期が公転周期より遅い場合はブレーキではなく加速の効果)
 
  本文中にもこの原理が解説されている。
  月は地上の引力と自分の引力の兼ね合いにより、
  自らの天体の形を僅かに楕円形に変形させる。
  その変形が自らにかかる引力を歪ませ公転運動を
  ブレーキないし、加速させる。
  自転周期が公転周期より短いと自転の速度を落とし、
  逆に長ければ自転の速度を速めようとするのだ。

 
    参考
    「Wikipedia」 (自転と公転の同期

 

 ・新月
 
  地球から見て、月が太陽と同一方向にあり、
  月の姿が (日食を除けば) 見えない日。
  月の満ち欠けで言えば全て欠けた状態。
  陰暦では暦上の月の第一日にあたる。
  第一日を 「ついたち」 と言うのも
  ツキタチ (月立) の音便で、こもっていた月が出始める意
 
  (新月は、三日月あるいは満月を指すこともあるが、現在では非常に稀)
 
  本編でも紫による解説がある。
 
    参考
    「広辞苑 第五版」 (新月、ついたち)

 

 ・今夜も私は湖上で新月を眺めていた。当然、湖には何も映っていない。
 ・しかし、私には見えていた。眩い日の光に照らされている月の裏側が。
 
  新月なので、夜空に月の姿は無い。
  また、月の裏側はこのとき太陽の側を向いて昼で、
  地上に向けている表側は夜である。
  いずれも新月の月として正常であるが、
  地球の反対側に位置する新月の夜の月を、
  しかも、地上の紫から月の裏側を視認できている点が異常である。
  しかし、詳細は不明。

 

 ・十五日目の夜は完全な夜である筈なのに…
 
  この前に、紫による解説があり、
  旧暦の第一日は月が生まれ変わる意味で新月、
  第三日は三日月、十五夜は満月、と紹介される。
  「旧暦では日付と月齢は一致していた」 の文章からも、
  十五=満の対応が示されている。
 
  東方香霖堂の第一話において同様の言及がある。
  コンピュータで馴染み深い十六進法において、
  一桁の最大数はFで示される15である。
  一つの位が満ちた状態であるとも言える。
  完全を意味する15と満月の関係とこれが重なる。
 
  東方世界においてはコンピュータは式神の一種とも言え、
  式神・藍や式神を操る紫は脅威的な演算能力を誇る。
  東方香霖堂で為された解釈同様、コンピュータに密接な十六進法と
  完全なる15の結び付きである。

 

 ・外の世界では式神に帰依して抜け殻のような人間も多くなってしまった。
 
  ここでの式神とはコンピュータを指す。
  帰依は神や仏などすぐれた者に服従し、すがること
  ネット依存症で社会生活を営むに支障を来した人間だけでなく、
  より広汎に、コンピュータに頼る割合が高くなり
  思考の機会を減少させている多くの人々までも指すかもしれない。
 
    参考
    「広辞苑 第五版」 (帰依)

 

 ・三日月は月の剣とも呼ばれる。
 
  三日月の異称は特に多く、
  眉月、始生魄、哉生明、麿鉱、初月、若月、虚月、蛾眉、
  月の剣、偃月、三夜、初弦、初三の月、新月、月の眉、夕月、
  初月、初魄、彎月、鈎月、朏、などが知られる。
  剣や眉、引き絞られた弓にも例えられる。
 
  また、曲刀の類に対して月に例えた呼び名が付けられることもあり、
  三日月刀、新月刀、偃月刀などの呼称もある。
 
  一方、依姫の剣は直刀 (に近い)。
  が、彼女の衣装の一部にあしらわれた剣のデザインは曲刀をイメージさせる。
 
    参考
    「Wikipedia」 (シミターシャムシール
    「月の本」 角川書店
    「Moonlight −月世界からの報告−」>月の語源

 

 ・うふふ。だからそんなに近寄ってこなくても見えますわ
 
  英語の "close" には、「接近した、ごく近い」 意のほか、
  「(観察・注意などが) 綿密な、周到な、きめの細かい」 意が含まれる。
  ここでの、そんなに近寄らなくても見える、とは
  そんなに詳細な解説をしなくても判る、の意味合いだろうか。
 
    参考
    「ジーニアス英和辞典」 (close)

 

 ・剣の月を選んで弾丸 (ロケット) を撃ち込むなんて粋じゃない?
 
  信憑性はさることながら、日本刀に撃ち込まれた銃弾は
  刀身に傷すらつけられず真っ二つになるとか。
  ロケット組が依姫に太刀打ち出来ないことの暗示か。
 
  ちなみに、月に飛び立ったロケット組に対しては
  幻想郷の面々、特にパチェ・永琳・紫 (・てゐ) の頭脳派から
  揃って 「かなわない、痛い目を見る」 といった見解が出されている。
 
    参考
    「Wikipedia」 (日本刀#テレビ番組によるその検証

 

 ・月の都には神の剣を扱う者がいる。
 
  長剣を扱う綿月依姫。
  神の剣ということで、相当な業物と予想される。
  スサノオにちなんで十握の剣と予想してみる。

 

 ・地上には神の弾を撃つ者がいる。
 
  いちおうは巫女ですから。

 

 ・半月はその形を弓に例え、弓張月ともいう。
 
  弓張月、弦月の異称を持つ。
 
    参考
    「広辞苑 第五版」 (半月)

 

 ・弓を操る者は月には居ないのだろうか。
 ・もしかしたら弓張月は紅魔館の地下にいるのかも知れないけど
 
  紅魔館の地下で魔女に矢を突きつけていたり。
  永琳と弓については、儚月抄 SSB 第十一話の解説を参照。

 

 ・あら、お月見は月が見えない方が楽しめるのよ。
 
  雨月の解釈だが、あれは月が 「見えなくても」 楽しむ概念。
  見えるに越したことはないはず。妖怪だし。
  紫の誇張表現か、弓張月の行動を思わず意識したのか。

 

 ・そういう理由ですから、自転を極端に狂わせて
  公転を遅らせた者がいる可能性が高いです。
 
  自転と公転が同期する原理については語られたが、
  「そういう理由」 は直前には詳述されていない。
  「元々は天の道の通り、月は丁度二十八日で一周するもの」 だったが、
  自然現象として具体的な計算値で求められるよりも
  同期に至るまでの時間が極端に短く、
  何者かの手が加えられた可能性が考えられる、ということだろう。

 

 ・でも、協力者は沢山いるじゃない。ざっと数えても七、八……九人は
 
  7まではすんなり出て、その後カウントアップ。
  最後の9人目は確定までに僅かに時間を要した。
  紫が演算に時間をかけるくらいなので、読者側の予想も困難か。
  詳細不明、としておこう。

 

 ・記念すべき第二回目の月旅行
 
  記念しない月旅行は最近何度も行っていたらしい。
  後半で明らかに。

 

 ・そろそろ貴方に命令して検査 (デバッグ) しようかしら
 
  バグを取り除くこと。
  コンピュータで、プログラムの欠陥や誤りを除くこと
  本編中の用語で置き換えると、式神における命令の欠陥や誤りを除くこと。
 
    参考
    「広辞苑 第五版」 (デバッグ)

 

 ・大昔に月に攻め入った時とは大違いですね。
  昔は最強の妖怪軍団を集めて意気揚々と攻め込んだと言ったじゃないですか。
 
  藍はどうやら第一次月面戦争騒動時はまだ紫の式神ではなかったようだ。
  伝聞形式で (求聞史紀準拠) のこのセリフの他、儚月抄 SSB 第四話にて
  幽々子が前回の騒動を見た事があるということも伝聞であった。
 
  求聞史紀情報は、第一次月面戦争騒動について知るための
  唯一に近い手掛かりであり、それは
  さほど古くない他の妖怪たちにとっても同様である。
  紫はこれを狙って、求聞史紀漫画版での監査時に
  自信の敗北を明記した幻想月面戦争騒動の記事を
  敢えて残したか丸ごと書き下ろしたかしたのであろう。
  本話の 「例え話」 も踏まえると、
  月面戦争騒動の求聞史紀記事の方がフェイクの可能性もある。
  (求聞史紀漫画版で紫監査の描写→求聞史紀で月面戦争騒動を公表
   →儚月抄連載開始、の流れから、重要なポイントであることは疑い無い)
 
  紫が嘘情報をリークした意図としては、
  吸血鬼達には反発心 (紫に率いられる妖怪軍団に成り下がることに対し) と
  対抗心 (紫が敵わなかったという月世界を制覇する) とを煽るため、
  藍には敵を欺くにはまず味方からのノリで、計画の中核に関わる情報が
  多少なりともリークすることを防ぐため (いろいろ動いてもらわないと困るし)、
  永遠亭勢には一度犯したミスをまた愚かにも
  繰り返そうとしていると見せ掛けて欺くため、
  事情を知る幽々子には嘘情報のリーク自体が
  新たな完全なる計画の始動をそれとなく報せる、
  といったことが考えられるかな。

 

 ・言い方悪い悪いですが
 
  言い方 (は) 悪い (よう) ですが、の誤植。

 

 ・それを行えるようになったのはそれ程昔の話ではない。
  精々、千年前くらいだ。
 
  第一次月面戦争騒動の時期が、
  「千年以上前」 (東方求聞史紀)、
  「数百年前」 (儚月抄 SSB 第3話の藍のセリフ) よりも
  より確定情報に近い情報源からもたらされたと言える。

 

 ・地上の民は月の民には決して敵わないわ、特に月の都では
 
  ロケット一行の全滅フラグ。

 

 ・(幻想郷のルール)
 
  社会生活を営む上で、自由を確保するために欠かせない一部不自由。
  これは現実社会でも幻想郷でも同じ。
  自由を認めつつも、全体に適応されるルールも有する。
  幻想郷の崩壊を招かない為にも、人間と妖怪のバランスは基礎であり、
  人間は妖怪を無闇に退治せず、妖怪も人間を無闇に食べない。
  「妖怪は人間を襲うが無闇に食べたりはしない。
   里の人間は基本的には食べてはいけない約束なのだ。

  無闇には、とか、基本的には、というところが
  少しの暗部を垣間見せるのは気のせいか。
  まぁ、里の人間でなければGOサインも出るようだし。

 

 ・永遠亭あの者達は
 
  永遠亭のあの者達は、の誤植。

 

 ・貴方にはその役目を負って貰います
 
  デバッグ完了。
  珍しく自分が言った事が藍に理解されて満足気な紫。
  藍は月の都に忍び込み、幻想郷で人間側に立つ永琳達の住民税代わりに
  何か奪ってくるという役目を負う。

 

 ・ある意味、月は妖怪の生みの親とも言える。
 
  月光により生じた陰は夜の明かりの中で際立って暗く、
  人間の恐怖を生み出すに一役買った。
  一方、永夜抄・紅魔組ストーリーで輝夜が語ったところでは、
  魔物の類が生み出されるのに月側の介入があったと言う。

 

 ・あの吸血鬼は私が忘れた心を持っている。
 
  馬鹿馬鹿しいと言い放ちつつも、
  紫がレミリアを語るところは
  自身の昔を振り返るような懐かしみと
  少しの慈しみが含まれているのだった。
 
  月へ行くという点でレミリアと紫に見える対比。
  本編の締めにはレミリアに代表される幻想郷の賑やかさと
  月世界の静謐が対比される。

 

 ・例え話
 
  この手の話し方の場合、往々にして真実が語られていることが多い。
 
  妖怪の能力、月に侵入するための条件 (満月、湖) は紫と同じである。
  最初の侵入時に結界破りのルートは解いていたため
  今の紫がそれを知っていることの説明にもなるし、
  この時を境に月がその様相を変化させたならば
  「月面戦争を見たことがある」 とされる幽々子が
  永夜抄で、昔の月の現在と異なる姿について知っていたことにも符合する。
 
  冒頭にあった、幻想郷の非常識を維持するための
  非現実的な理由付けとも解釈出来る余地を残すが、
  科学的観測の裏をかく真実があったために現在の月の運行があり、
  紫の例え話は余す所なく真実、という余地もある。

 

 ・実はここの所、毎月、ここにやってきていたので
 
  満月の夜、水上の紫の描写は
  月の海での場面だった可能性が発生。
  月へ行くためには湖の上からゲートを開くため、
  すべて湖ではなく月の海だとまでは言い切れないが、
  (さもなくば、儚月抄 SSB 第一話のラストで藍は月に放置される)
  月世界で積極的に暗躍したことを可能性に考慮する必要が出てきた。

 

 ・言うまでもなく、月の民の真似事をしてみただけだ。
 
  月から地上に向けて式神憑きの鴉を飛ばす行為のこと。
  これが月の民の真似事ということは、
  月の民が鴉ないしは他の動物を偵察役として
  積極的に地上に寄越しているということか。
  月にいる生物となると、兎。
  さて、そんな兎が地上に来ているとすると、
  幽々子の 「スパイ」 発言も気になるところで、
  その場合、鈴仙またはてゐに疑惑を向ける事が出来るが…。

 

 ・月から帰る方法も同じように海に映った星から帰れるのだと
 
  地球から見て満月の時、月から見て地球は朔である。
  すなわち、月の海に地球は映らない。
  時間が歪んで、満月−朔地球の時から新月−満地球の時に飛ぶのか、
  空間が歪んで、地上から見える月から
  座標が異なる上に不可視の真実の月に飛ぶのか、
  あるいは、冒頭に記述された詳細不明の幻視能力の活用か。

 

 ・何度と折り曲げ
 
  何度も折り曲げ、または、何度となく折り曲げ、の誤植か。
 
  傘を折り曲げた行為については意図不明。

 

 ・今……私達はその月の賢者が仕掛けたという罠に
  まんまと嵌っている事になりませんか?
 
  また新たに罠が発動し、さらに自転周期・公転周期が狂う、
  ということではなく、
  普通に 「満月の夜の一晩」 と考えるよりも
  月が 「完全な」 満月である時間が短い、ということか。
  月の周期は既に狂わされているのだから。
  あまりもたもたとはしていられない。

 

 ・吸血鬼のロケットなんて、今頃海に打ち付けられて大破
 
  驚くほどにオンボロだったから、という藍の予想。
  正解。
  儚月抄 SSB 第十一話にて原型も留めないレベルで大破した。

 

 ・そんなに言うほどオンボロだったのなら、もしかしたら
  月に行く前に燃え尽きているかもしれないわね。
  何か仕掛けでも無い限り……
 
  永琳の仕掛けた、月の羽衣の切れ端が
  ロケットが燃え尽きてしまう事を防ぐ役目を果たすか。
  不測の事態や万が一を想定しての工作だった気がするが、
  いつの間にか必要不可欠な要素に。

 

 ・衰退か極楽浄土か
 
  文明の進んだ、月の都の実情とは…?と考えると、
  鈴仙スペルの栄華之夢 (ルナメガロポリス) も気になる所。

 

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