「東方儚月抄 〜Cage in Lunatic Runagate.」
第六話 『愚者の封書』

 
あらすじ

  永遠に続くルーチンワークである餅搗きに嫌気が指し、
  一度は新天地を目指した月の兎、レイセン。
  侵略者と不思議な戦闘を繰り広げる前線に身を置き、新たな命令に従って
  奔走し、知らぬ間に見覚えも無い不気味な森で酷い緊張を味わう。
  今に至る経緯を後悔交じりに振り返った彼女は、もう一人のレイセンを思う。


誌上情報

  表紙アオリ 人気沸騰中! ZUN連載ノベル
  扉アオリ   レイセン、依姫、豊姫……
          思惑が交錯する先に待ち受けるのは!?
  紹介記事  キャラクター紹介 (鈴仙)


パラグラフ編成

  1)(今回はレイセン視点)
    月の空と地上の空について。
  2)魔理沙と依姫の弾幕戦を観戦する兎達。
  3)元々のレイセンの仕事と逃げるまでの経緯について。
  4)依姫の勝利に盛り上がる兎達。
  5)勝利を収めた依姫と兎達の会話。
    依姫から 「やって欲しい事」 を言い渡されるレイセン。
  6)月を逃げ出してからの行動の回想。
    月の羽衣、かぐや姫、現在の都で流れる不穏な噂について。
    月に戻ってからの回想。綿月姉妹について。
  7)屋敷に戻ったレイセン。永琳宛ての手紙を代筆する。
  8)屋敷を出、目的地へ向かうレイセン。
    再び地上について回想。穢れ、妖怪と人間、あの巫女について。
  9)賢者の海に到着したものの、見覚えのない景色が広がる。
    そこに居た豊姫との会話…「現状、騒動の発端、手紙」
  10)不明な場所、強いられる緊張。
    昔の変わらなかった日常と、逃げ出した後に至った変化について。
  11)元々のレイセン、月の兎の特殊能力について。
  12)そして、現れたのは…。
 
 
  補足
 
   SSB 第十五話と前半の場所と時間が同一である
   直接的なリンク。
 
   後半の具体的な位置は不明。
   賢者の海に至ったはずのレイセンが
   「周りの景色に見覚えがない」 と感じたことから、
   豊姫が賢者の海を別の空間へと直結、または、
   別の空間との置換を行ったものだろう。
   「何故か酷く冷える」 ことから、少なくとも
   現在冬である地上のどこかに繋げられた事が確実視される。
   月は 「一年中春の暖かさ、夏の活気の良さ、秋の豊かさ、
   冬の侘しさ、全てを兼ね備えた気候
」 であるから (CLR 第三話より)、
   月で暮らしていたレイセンは、低い気温を体験したことが無いのである。

 

 
解説と雑学

 ・月の都の空は昼間でも暗い。
 
  SSB 第十五話において、月の都は大気が少ないと語られた。
  大気が少ないならば、昼でも暗い空になると想定される。

 

 ・人間は中に飛び上がり
 
  宙に飛び上がり、の誤植。

 

 ・多分、同時に出せる弾数に限界があるのよ。
 ・エネルギー保存の法則だか、エントロピー増大だかなんだか知らないけど
 
  やんごとない事情の表示弾数制限。
  原理を突き詰めるのは、弾が何で出来ているのか判らないことから
  あまり意味が無いので、なんだか知らないでOK。
  弾のエネルギーがどこから捻出されてるか不明ですから。
 
  エネルギー保存則は熱力学第一法則。
  閉じた系の中のエネルギー総量は変化しない。
  弾の質量を生み出しているならば、その分のエネルギーは
  どこかから調達されなければならない。
 
  エントロピー増大則は熱力学第二法則。
  エントロピーは乱雑さの度合いで、
  系のエントロピーは増大する方向に向かう。
  コップの水に砂糖と塩を溶かすと
  エントロピーの増大する方向、すなわち、
  砂糖も塩も均一に水全体に拡散する。
  コップの下側が甘く、上側がしょっぱいなんて事にはならない。
  そんな不自然な状態に移行するにはエネルギーが掛かり、
  エネルギーが掛かるならば不安定である。
  自然はエネルギーの低い、安定な方に向かう、ということ。
  仮にエネルギーを与えて不自然な状態を作り出したとしても、
  系全体で見ればエネルギーの捻出で差し引きのエントロピーが増大してくる。
  物質なりエネルギーなりを結晶化させて弾を作り出すには
  制限がありそうとか、そんなところか。

 

 ・依姫様はカラフルな銀河を何の問題もなくかわしていた。
 
  SSB 第十五話では謎の能力で星弾を空間に固定していたが、
  そんな謎能力については触れられず、
  身軽に機敏に華麗にかわしていた描写が為された。

 

 ・蓬莱の薬と呼ばれる不老不死の薬を作ろうとしているのだ。
 
  月の兎が薬を搗くことの解説。
  「玉兎搗薬」 の故事では、嫦娥が月に昇る際に連れていた兎が
  神薬山から摘んできた薬草を搗き続ける。
  月の兎が本来は薬を搗くということは
  大空魔術でも語られたし、CLR 第一話でも解説された。
  不老不死の薬、という記述はあったが、
  蓬莱の薬であることは新しい情報である。
  が、正しい情報かどうかは不明。
  嫦娥の贖罪の為だと教えられたようだが、真意は不明なようだ。

 

 ・私は典型的な愚か者だったのだろう
 
  タイトルの 「愚者」。
  環境や社会のせいにして、というあたりは
  CLR 第二話の輝夜も痛切に感じていたところに類似。
  環境や社会のせいと言い訳し、自己を正当化し、
  状況を好転させる努力を避けてただ逃げ出した罪人。
 
  月の兎の様子を見ると、現在の月環境では
  問題ある人物を生み出しやすいのかもしれない。
  戦争の後、平和を取り戻し、その平和にすっかり惚けた
  まるで我々の現代社会のような不具合を抱えているのかもしれない。

 

 ・依姫様は大きな神の鏡を提げ
 
  SSB 第十五話で発動の、「石凝姥命」 の八咫鏡。
  どこから出したのか。

 

 ・それは空を自由に飛べる様になる不思議な羽衣なのだが、
  付けると同時に心を失わせる力を持っている。
 ・その昔、地上に幽閉されたかぐやという姫がいた。
  その姫を月に呼び戻そうとした時にその月の羽衣が使用される……筈だった。
 
  月の羽衣の特性。
  これは文章にあるように、竹取物語に基づく性質である。
  (東方では実際に使用されなかったが)
 
  ふと天の羽衣うち着せたてまつれば、翁を、
  いとほし、かなし、と思しつることも
  失せぬ。この衣着つる人は、
  もの思ひなくなりにければ、
  車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
 
  (さっと天の羽衣を着せてさしあげたので、翁を、
   「いたいたしい、切ない」とお思いになっていたことも
   消え失せてしまった。この羽衣を着た人は、
   物思いがなくなってしまうのだったから、
   車に乗って、百人ほどの天人を連れて、昇ってしまった。

 
    参考
    「大伴茫人さんの古典への架け橋」>竹取物語 >九の七

 

 ・地上に辿り着くまでの数日間、記憶が曖昧である。
 
  月−地球間の行程は数日間。
  明確ではないものの、時間単位や週単位でないことは明らかに。

 

 ・詳細は判らないが何故かかぐや姫は月に戻る事を拒絶し、
  それと同時に月の賢者が一人地上に取り残される事となった。
 
  詳細は永夜抄のキャラ設定テキスト参照。
  といっても、永琳の使者殺害については
  レイセンや月の民が知らされていないだけか、
  設定が無かった事になったのかは定かではない。
  少なくとも儚月抄では、SSB 第二話の返り血永琳のイメージ以外、
  テキストで一切触れられていない。

 

 ・不穏な噂
 
  レイセンが逃げ出す少し前というから、
  儚月抄第一話の満月の数日前のさらに少し前。
  月に住む神々が何者かに不正な手順で呼び出されていることが発覚し、
  神様を自由に呼び出せる依姫が疑われる事となった。
  同時に、指名手配されているのに何故か捕まえられない、
  捜索隊のリーダーである綿月姉妹の教育係にして罪人の永琳にも
  疑いの目が向けられる様になった。
  これが謀反の噂の真相であるらしい。
 
  神様を不正に呼び出していたのは霊夢であるが、
  上記の時系列を考えると、儚月抄第一話が
  全く初めての神降ろしだったのではなく、
  その数日前に紫から不正な手順の神降ろし方法を
  修業と称して教えられていたのであろう。
  第一話の 「稽古」 は成果確認とか修業の更なる活性化を狙ってのもの
  といったところで、事の発端は第一話以前に遡るようだ。

 

 ・長旅の疲れか、それとも途中でスペースデブリに一撃を喰らったのか
 
  月の羽衣を使用したレイセンは、その最中の記憶を残しておらず、
  スペースデブリも想像であった。
  本人は目覚めたらピンピンしていたものだから、
  「長旅の疲れ」 までも気絶した原因に挙げられている。
  SSB 第二話や CLR 第一話で霊夢は 「怪我」 をした兎と言っており、
  何らかの外傷を負っていたことは確実であろう。

 

 ・さっきの戦いの場では巫女は私に気付く事は無かった。それはそうだろう。
 
  地上の兎に変装していたから、とレイセンは思うが、
  「見慣れない顔だった」 (CLR 第一話) との霊夢の発言からは
  妖怪兎の幾匹かの顔は把握できているくらいに
  人 (妖怪) の顔をよく見ている可能性がある。(ただの見栄でなければ)
  それ以前に、狐か狸の類かとの誤解が残っている可能性もあったり。

 

 ・今度は依姫様の元ではなく、正反対の方向へ向かった。
 
  向かう先は賢者の海である。
  賢者の海は月の裏側、月の都も月の裏側で静かの海の真裏、
  依姫達の居る豊かの海は静かの海の隣で月の表側。
  レイセンの経路は、豊かの海 → 月の都(綿月の屋敷) → 賢者の海だが、
  「正反対の方向」 ということは、この経路は直線状である。
  一方、結界破りのルートは晴れの海やら雨の海やらを通って
  月の裏側の賢者の海を通過し、都に至るものである。
  都に入るルートが都から賢者の海に入るルートと正反対ということは、
  レイセンは結界破りのルートを通っていない。
  月の都の結界は、選択透過性を有するハイテク結界なのだろうか。

 

 ・巫女の味方になれば簡単に地上に遊びに行ける、そう考えた。
 
  また行く気である。
  今度は逃亡ではなく旅行気分。

 

 ・…それも誰かの入れ知恵なのかな
 
  穢い手を使わない、ルール付きの決闘で美しさを求める。
  それを聞いての豊姫の台詞。
  「月の民みたいな事を言うようになったのね」 ともあり、
  月の民の信条・哲学に近似された、月の民が好みそうなコンセプト、
  といったニュアンスが含まれているだろうか。
 
  命名決闘法は巫女の発案とされているが、
  求聞史紀の未解決資料からは
  妖怪側の立案である可能性が非常に高いと知れる。
  その黒幕もあの妖怪しか居ない…?
 
  月の民の好みそうなルールを制定し、
  いくつかの異変を通して実践も重ねて準備万端。
  不正な神降ろしで月世界に疑惑を発生させて
  神降ろし犯である巫女や吸血鬼を送り込んで
  看過不可の囮とし、弾幕戦に持ち込んで時間を稼ぐ。
  その隙に紫は目的を達するか。

 

 ・誰かが間違った方法を教えたか、それとも悪意を持って……
 
  神降ろし疑惑の巫女という情報を得ての豊姫の考察。
  前者は過失、後者は故意に、間違った方法を教えたということ。
  前者なら偶然ということだが、後者であれば黒幕は別におり
  吸血鬼達は囮である陽動作戦である。
  その場合は悪いシナリオも描けるが故に警戒が必要である。

 

 ・まさか賢者の海に豊姫様がいらっしゃるとは
 
  「補足」 にも書いた通り、見慣れぬ領域と化した賢者の海で
  豊姫は木陰に隠れて何かを待ち構えていた様子。
  賢者の海というポイントを考えれば、
  結界破りのルートを辿る者を空間反転で地上へ強制送還、が狙いか。

 

 ・貴方の手で直接お渡ししなさい
 
  豊姫とレイセンが地上に来ていて、永琳に手紙を渡すとすれば、
  それは儚月抄 SSB 第一話で永琳が予言した 「使者と罪人」 に該当か。

 

 ・勿論、正確な会話が出来る訳ではなく、どちらかというと
  みんなが普段考えている事が風の噂で耳に入ってくる、というレベルであるが。
 
  月の兎の特殊能力について。
  求聞史紀の鈴仙目撃情報にあるような、ブツブツ言う必要は無いようだ。
  (考えを集中する助けになり、情報を適した強度で発信できるかもしれないが)
 
  「その風の噂では、レイセンは八意様に捕らえられて
   自由を失っているという事らしい。

  鈴仙の垂れ流した思考はこんなことになっていた。
  (てゐ黒幕説ならばてゐによる情報操作かもしれないが)

 

 ・そこには月では見慣れぬ一匹の獣の姿があった。
 
  CLRの前話で月の都への侵入を押し付けられた藍だろうか。
  結界破りのルートの終点、賢者の海。
  海だから待ち伏せに適した物陰もないので、
  海と山を繋いで、森に身を隠して待ち構える豊姫、とか。
  はてさて。

 

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