「東方儚月抄 〜Cage in Lunatic Runagate.」
最終話 『二つの望郷』 後編

 
あらすじ

  地上に生還した巫女。彼女を心待ちにした幻想郷の面々。
  集った先は紅魔館地下図書館に建造された海であった。
  そして、今回の騒動の関係者が一堂に会した宴会が始まる。


誌上情報

  表紙アオリ 連載ノベル ZUN書き下ろし 東方儚月抄最終回
  扉アオリ  第二次月面戦争完全終結! 明かされる紫の意図とは――。
  
  一迅社東方Project関連書籍情報 Grimoire of Marisa(仮)
  魔理沙フィギュア最新情報 霧雨魔理沙立体化完了!


パラグラフ編成

  1)(今回も客観)
    うっすら雪化粧の神社と、主が不在と呟く来訪者。
  2)海について。
  3)紅魔館図書館。海の建造と動機について。
    レミリアとパチュリーの会話…「本の移動」
  4)主の戻った神社。
    霊夢と魔理沙の会話…「海、留守」
  5)図書館に作られた海について。
    ツッコミを入れる霊夢と、来客。
  6)紫の登場と宴会のお誘い。
  7)紫の持ち込んだ酒とそれぞれのリアクション。
  8)月の都のお酒とそれがここにある至る今回の騒動の経緯
    または動機。
  9)レミリアと紫の会話…「月面侵攻」。
  10)さらなる来訪者。
  11)今回の騒動の仕組みと黒幕の企てに対する永琳の読み。
  12)逃亡兎と永琳の対処、そして、残った不安要素。
  13)霊夢と輝夜の会話…「月の都と地上の価値観、死生観」
  14)魔理沙とレミリアの会話…「ロケットと片道」
  15)紫と永琳の会話…「望郷の念」
    月の都の超超古酒と、正体の判らないモノ(死、八雲紫)への恐怖。

 

 
解説と雑学

 ・二つの望郷
 
  二つ目は後編、すなわち本話。
  「貴方も故郷を離れて千何百年か。そろそろ望郷の念に駆られる頃
  地上の幻想郷に暮らす、永琳の望郷。

 

 ・その光景が白粉婆が白粉を塗りたくる行為に似ていたので、
  いつの間にか雪白粉と呼ばれていた。
 
  白粉婆 (おしろいばばあ) は奈良県吉野郡十津川流域や
  石川県能登半島でいう妖怪。
  前者は鏡をじゃらじゃらと引きずってくる道の怪とされ、
  後者は大きな笠をかぶり、雪の夜に酒を買いにいく妖怪とされる。
  鳥山石燕は 「今昔百鬼拾遺」 にて後者の老婆を描き、
  紅おしろいの神の侍女と推定している。
  (後者の白粉婆は、鳥山石燕の白粉婆に着想を得た創作とも言われる)
 
  白粉婆という名だが、白粉を塗りたくる行為は聞かれない。
  白粉婆が顔面に白粉を厚く雑に塗っているとされることもあり、
  塗りたくらないことはないが。
  白粉婆が白粉を塗りたくる行為や、雪化粧を雪白粉と表現するのは
  どちらも幻想郷流、という解釈で良いか。
 
    参考
    「Wikipedia」 (白粉婆
    「日本妖怪大事典」 村上健司著、角川書店 (白粉婆)
    「鳥山石燕 画図百鬼夜行」 国書刊行会 (白粉婆)

 

 ・海とは塩化ナトリウムなどの塩分が溶け込んだ膨大な量の水を湛えた
 
  塩化ナトリウムは塩 (しお)。
  酸と塩基の中和反応などにより生じる化合物は塩 (えん) である。
  塩分とも言う。
  塩 (しお) は塩 (えん) の一種。
  海水中には塩分が3.5%ほど含まれ、
  そのうち約78%が塩化ナトリウムである。
  ちなみに、生体の塩分濃度は約0.9%。
  
    参考
    「Wikipedia」 (海水

 

 ・すぐに正月の準備をしないと
 
  つまり、霊夢の生還は師走の満月の日。

 

 ・種子島宇宙センターだってケネディ宇宙センターだって
 
  海は月より遠いという霊夢に対しての我々サイドからのツッコミ。
  海に近い位置にロケット発射施設。
  種子島宇宙センターからは月周回衛星 「かぐや(SELENE)」 が、
  ケネディ宇宙センターはケープカナベラルとして東方でもよく言及され、
  ここからはアポロが打ち上げられた。
  なお、ロケット打ち上げは赤道に近い低緯度で、東向きに行なわれる。
  ロケットの速度に地球の自転速度が少し足しになるため。
  日本では種子島、アメリカではフロリダ、ということ。
  また、多段ロケットの切り離し残骸が害をもたらさないためにも、
  海に近い土地が打ち上げ用地に選ばれる。

 

 ・地下の図書館は水浸しで、申し訳ない程度に置かれたシダ植物、
  カラフルなパラソル。
 
  ・申し訳
    「いいわけ、いいひらき。実質が伴わず体裁だけであること。
  (広辞苑より)
 
  後者の意味で、申し訳程度の○○、などの表現が為されるが、
  「申し訳ない程度」 は誤り。

 

 ・「失礼ね。毒は入っていないわよ」
 
  萃夢想の紫ストーリー、対幽々子戦、サブタイトル 「超古々酒」 にて
  酒の中の毒の有無についてやりとりがあった。
 
  「月の記憶」 や 「超古々酒」 が
  萃夢想時点から伏線であったと思われるが、
  これらに関連することを逆に元ネタにした、といったところか。

 

 ・たまたま月から兎が逃げてきたのでその兎を利用し、
  綿月姉妹に手紙を送った。
 ・もしその月の兎が居なければ、再び月を偽物と入れ替え、
  主犯だけを月に到達させないつもりでいた。
 
  月すり替えの裏技は 「主犯」 も知っているところなので、
  その手は読まれていると見るべきであった。
  「また幻想郷に不安をもたらす危険な方法」 を選ばずに済んだのは
  より無難な対策が描けたからだが、「渡りに舟」 と感じたそれも
  主犯の仕向けたエサっぽい。
  そんなことは語られていないし、手段も不明なので
  憶測の域を出ないけど。

 

 ・永琳にも不安要素があった。
 ・その黒幕の目的がいまいち不明だったのである。
 
  動機としての復讐と囮作戦のアンバランス。
  真っ向勝負の優劣は明らかであることから
  陽動に乗じても主犯は侵入と窃盗がせいぜいと読み、
  賢者の海に豊姫を配置したと思われる。
  しかし、主犯の目的が綿月姉妹に一泡吹かせる以外に
  永琳にも向けられていたとは読み切れなかった。

 

 ・一ヶ月前までここは幻想郷のケープカナベラルであったが、
  今は差し詰め図書館の伊豆と言った処か。
 
  ZUN氏は少なくとも風神録前に伊豆に行っており、
  ブログに河津七滝の写真をアップしていた。
  伊豆と言えば温泉や文学だが、
  太平洋に突き出した伊豆半島という観点では海のイメージか。
  儚月抄 SSB 中巻の著者近影も伊豆のどこかであろうか。
  また、儚月抄 SSB にて、伊豆能売が召喚されたが、
  穢れの無い月の海と伊豆能売の穢れ祓いが重ね、
  月の海をイメージした図書館の海を伊豆と称したものか。

 

 ・「?多少の毒は薬ですわ」
 
  薬学、毒性学の基本。
  とある化合物の投与量と作用の関係を追った場合、
  ゼロからある投与量までは無作用域、
  そこからある程度の量までは(有益な)作用域、
  それ以上では副作用も一種以上現れ、毒性域となる。
  物によって作用に必要な量は異なるし、
  薬効と毒性の濃度域がさほど乖離していなかったり、
  安全なものは余程の量に達しない限り危険が無い。
  これを踏まえた上で、毒物として知られているような化合物も
  安全な量に加減し、弱いその作用を薬として
  有効に活用している例もある。

 

 ・死ぬ事のない者へ与える、生きる事を意味する悩み。
  正体の判らない者への恐怖。
 
  ヒトにとっては一般的に 「」 がそのような恐怖に当たる。
  幽霊や妖怪に対する恐怖もそれである。
  恐れるものも何もない、「心が腐っても生き続ける事」 の無いように、
  正の刺激につながるような負のストレスを与える。
  そのような悩み、恐怖の享受こそが
  特に妖怪と人間の関係を見る上での人間という位置付けであり、
  幻想郷において人間側の立ち位置を選んだ永琳の負うべき
  「住民税」なのであった。

 

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