大空魔術
初回: 2006.09.27
最終更新: 2010.08.12.
(ジャケットイラストの項目に素材集への言及追加)
ジャケットイラスト
"Physicist is magician"
直訳で「物理学者は魔術師」
たいていのものを操れるよ。
そして、蓮子とメリーのスカートの裾には
"Physicist"、"Magician" の文字が。
蓮子の専門は物理学、メリーの専門は精神学。
というか、メリーは
「魔術師メリー」 (蓮台野夜行6曲目)
だ。
物理学と魔術、二人の協力作用により
指先でたやすく宇宙はフェイズシフト。
魔術的なトンネル効果で発生した微小宇宙は
インフレーションを経て膨大なエネルギーも落ち着き、
宇宙は晴れ上がり、原子や分子が形成され、(水の分子モデルのようなイラスト)
それらが重力作用で集まり星や銀河が生まれ、(パチンコ玉のような天体のイラスト)
やがて生命の誕生と相成る。(蓮子とメリーは一番上のサークルに位置する?)
宇宙の誕生から10のマイナス44乗秒
(プランク時間)
後、
超統一的な力から重力が分かれる。
(10のマイナス44乗ってのは、0.0000…0001の
小数点と1のあいだにゼロが43個ならぶ数)
誕生から10のマイナス36乗秒後、重力と電弱力と色の力の世界。
インフレーションが始まる。真空の相転移。宇宙の爆発的膨張。
誕生から10のマイナス34乗秒後、インフレーションが終わる。
宇宙のサイズは10のマイナス33乗cmから一気に1000万光年超に。
誕生から10のマイナス10乗秒後、電弱力が電磁気力と弱い力に分かれる。
誕生から10のマイナス6乗秒後、色の力が強い力に変化する。
誕生から1秒後、原子核の合成が始まる。
誕生から38万年後、原子が誕生する。宇宙の晴れ上がり。
(参考:「Wikipedia;宇宙の年表」)
イラストに示された数は見事に上記の数をかわしている。
「境界」
を敢えて避けたのだろうか…?
三つのサークルの中に見える、下から上に向けて尾を伸ばす彗星はヘールボップ彗星。
その奥の背景はCD裏面の方がわかりやすい。
こちらの彗星は百武彗星。
夜景と月と、部分日食の連続写真。
部分日食の連続写真は、中央付近が意図的に消されている。
月齢の変化に見せるマジック?
(画像については
「東方雑考」 の 「東方素材集」 を参照)
太陽と月と星、昼と夜、宇宙と地上、その同居、と言える。
目次
流れ星の写り込んだ星空の写真。
月面ツアーへようこそ
Welcome to Lunatic
City.
げつめんツアーへようこそ。
ウェルカム・トゥ・ルナティック・シティ。
Welcome
to Lunatic
City.
「狂気の都市へようこそ」
月には狂気が隠れている。
ルナティック・シティは月の都を意識したものか。
また、森博嗣の小説、「女王の百年密室 〜
God Save the Queen」
の舞台が
ルナティック・シティと呼ばれる架空の未来都市だが、関連は不明。
余談だが、ストーリーからは秘封倶楽部の世界から以下の要素が読み取れる。
前作のヒロシゲの例の様に、超高速鉄道が地下を走る時代だが、
地上の私鉄はまだ絶滅していない。
号外は物理的媒体である。
ジャケットイラストのものと同じであるならば、それは紙媒体と思われる。
鞄を持ち歩く風習も絶滅していない。
ニュースはスポーツ関連を除けば基本的に明るくない。
天空のグリニッジ
Royal Greenwich
Observatory
てんくうのグリニッジ。
ロイヤル・グリニッジ・オブザーヴァトリ。
・observatory
「天文台、観測所、気象台。屋上展望台、展望台」
・Royal
Greenwich Observatory
「王立グリニッジ天文台」
Royal
Greenwich Observatory.
「王立グリニッジ天文台」
(あるいは単に、グリニッジ天文台)
グリニッジ天文台は1675年設立されたが、戦時中に機能移転をしている。
1990年に、ケンブリッジに再度移転された。
経度0度にあり、経度と時刻の基準点となっている。
現在ではグリニッジ天文台を指して
"Royal Observatory, Greenwich" と呼び、
"Royal Greenwich Observatory"
は古称扱いとなっているようである。
(参考;「Wikipedia;Royal Observatory,
Greenwich」(英語))
地球の重力は脱却出来ても、
進化の過程で刻まれた体内時計は切り離せない人類は、
結局は宇宙空間でも地上と同じ基準の時刻を携えざるを得ない。
東の国の眠らない夜
Vampirish
Nightlife
ひがしのくにのねむらないよる。
ヴァンピリッシュ・ナイトライフ。
東方文花帖における撮影曲の一つ。
東方文花帖事典
「東の国の眠らない夜」
参照。
・vampire
「吸血鬼」
・-ish
【接尾】
「〜に属する、〜性の。〜の性質を持つ、〜のような。」
・nightlife
「夜の娯楽、夜遊び」
Vampirish
Nightlife.
「吸血鬼のように夜遊び」
英題は東方文花帖におけるレミリアのスペルに似るが、
ここでの訳は蓮子とメリーを意識して変化させた。
東方文花帖事典、紅蝙蝠
「ヴァンピリッシュナイト」
も参照。
月見の団子と中秋の名月。
地球と月の結ばれる宇宙。
東の国の、満月の夜の素敵な過ごし方。
車椅子の未来宇宙
History of
Time
くるまいすのみらいうちゅう。
ヒストリー・オブ・タイム。
History
of
Time.
「時間の歴史」、あるいは、「宇宙を語る」
曲のタイトルならびにストーリー中での言及は、
車椅子の天才理論物理学者、スティーヴン・ホーキング。
車椅子なのは筋萎縮性側索硬化症 (あるいはそれに類する疾病)
のため。
20代前半で発症するも、ハンディキャップに屈することなく
数々の理論構築で知られる。
相対性理論と量子力学を結びつけるなど、
宇宙論の発展に多大な寄与をしている。
ブラックホールの蒸発は、相対論的に巨視的な環境のブラックホールに
超微視的な量子効果を適応し、予測されるホーキング輻射から導かれる現象。
10の数十〜百乗年という途方も無い時間を経て
ブラックホールはエネルギーをじわじわと失い、蒸発するらしい。
英題は、ホーキングの著書、「A
Brief(er) History of Time」 から。
「A Brief History of Time」
は1988年に発行された。
その後、2005年にLeonard Mlodinow と共著という形で
似た名の著書 「A
Briefer History of Time」 が成されている。
Briefer (より簡潔な)
の語の通り、新規に追加された項目もあるが、
全体としてより平易な内容、理解をより得やすい表現に改められている。
日本では、前者は
「ホーキング、宇宙を語る」
後者は 「ホーキング、宇宙のすべてを語る」
という邦題で出版されている。
ちなみに、同じくストーリーで名が挙げられているプランクとは、
ドイツの理論物理学者にして量子論の父、マックス・プランク。
光子のエネルギーと振動数の間の比例定数、プランク定数を導き出したことで
後の量子力学の基礎の発展に多大な貢献をし、1918年、ノーベル物理学賞を受賞した。
自然単位系を提唱したことでも物理学者にとっては重要である。
これは5つの基本的な物理定数のみに基づいて定義され、
多くの物理方程式の簡略化だけでなく、5つの基本単位の定義にも結びつく。
プランク質量、プランク長、プランク時間などがそれである。
これら基本プランク単位に基づき、プランクエネルギーなどが派生する。
一部の物理学者からは半ば冗談めかして
「神の単位」 と言われたり
地球外の知的生命体も同じ単位系に行き着くに違いないと信じられたりしている。
Demystify
Feast
神秘のベールの向こう側
デミスティファイ・フィースト。
しんぴのベールのむこうがわ。
東方萃夢想における、宴会直前ステージに流れる曲。
東方萃夢想事典
「Demystify Feast」
参照。
Demystify
Feast.
「祝宴から神秘性を除く」
限界に達した物理学を踏まえれば、「粗宴の終焉」か。
魅力的な表面を覆う霧状の水滴。
曇りを払拭すると、透き通った向こうに真実が見えてくる。
庶民には高額すぎる月旅行と同様に、
現在の物理学にとって越えるには高すぎるポテンシャルの壁。
ひもに関する研究をしている
(していた?) 蓮子。
ひもとは、超弦理論でいうところの物理的な基底の単位。
10のマイナス35乗mサイズの一次元粒子であるひもが
11次元時空を運動しているとする。
原子が10のマイナス10乗mサイズ。
陽子などの核子が10のマイナス15乗m。
クォーク (陽子などを構成する素粒子)
は10のマイナス18乗m以下と言われる。
極めて微小なサイズの分解能を得るには膨大なエネルギーが必要、
極めて微小な変化の影響を観測するには超精密の測定装置が必要。
理論に観測技術が追いつかないという理論物理学者の嘆きか、
限界まで辿り着いてしまった理論の終焉を嘆いているのか…
神秘のベールを剥ぎ取り続けるうちに
とうとうどんなに手を尽くしても剥ぎ取れないベールに行き着いてしまった。
その向こう側は、どんなに手を尽くしても神秘である。
プランクエネルギーについては前項参照。
GeV
はギガエレクトロンボルト。
エレクトロンボルト、すなわち電子ボルトとは、
1ボルトの電位差の自由空間で電子1つが得るエネルギーである。
1 eV
はとても小さい。
G (ギガ) は10の9乗倍を意味する。
10の19乗 GeV はつまり、10の28乗 eV
とイコール。
合成卵と合成苺。
合成品ばかりといって鳥類や苺が絶滅したとは限らない。
多少は絶滅が危惧されるなりして
(むしろ生産家の方が絶滅危惧?)
本物は贅沢品となり、庶民は合成食糧をもっぱら食するとか。
我々の周りにも人工イクラとか、安価な合成品もいくつか知られているし。
衛星カフェテラス
Satellite
Cafe
えいせいカフェテラス。
サテライト・カフェ。
Satellite
Cafe.
「人工衛星喫茶店」
気圧が低くなると沸点が低下する。
真空状態では水も常温で沸騰する。
予めマイナス数十度の低温下で凍結したものを
減圧環境下に置くと、氷として含まれる水分は次第に昇華していく。
こうして水分を除去するのが凍結乾燥、フリーズドライである。
気化熱を奪われ凍結した氷も、そのままにしておくと、無くなる。
山口百恵の歌に
「銀河カフェテラス」 がある。
関連は不明。
G Free
Zero
Gravity
ジー・フリー。
ゼロ・グラヴィティ。
Zero
Gravity.
「無重力」
"g" は物理学で重力加速度を表す。
地表面でだいたい 9.8
m/s^2
重力と質量の間の比例定数。
物理単位系では通常小文字で表し、
大文字のGで表す万有引力定数と区別する。
しかし、加速度の単位として重力加速度を用いる時は大文字のGである。
地球の重力加速度
1 Gに対して月は 1/6
G、と言う場合である。
戦闘機やジェットコースターで人間に掛かる加速度を言う場合にも用いられる。
重力が無いとはいえ、重力加速度は運動の加速度で代用出来る。
等価原理で両加速度は区別できないためだ。
したがって、人工衛星内であっても、
人工衛星が回転すれば、発生する遠心力が人工重力となる。
まぁ、せっかくの宇宙旅行客の期待に応えるために
敢えて無重力環境にしているとかはあるかもしれない。
重力が必須のドリップ式は利用できないため、
コーヒーの抽出はサイフォン式、それも無重力仕様に改良したものらしい。
サイフォン式は、下層の水を加熱し、発生した蒸気で下層空間を昇圧、
その圧で水は上層へと昇り、上層のコーヒーの粉に到る。
火を外せば下層の温度は下がり、圧も減り、
上層の水がコーヒーとして下降してくる。もちろん、粉はフィルタリングされる。
手技による差が生じにくく、再現性が良い。抽出時の香りも良いらしい。
しかし、サイフォン式そのままでは無重力環境で使えない…。
どのような改良を施したものかは不明。
宇宙の超統一的な力から最初に分かれたのは重力。
他の力と重力を統一する超統一理論の確立は至難であり、
現代物理学では超統一理論は未達成である。
秘封倶楽部の世界は、そんな大偉業が成し遂げられたばかりの世界である。
大空魔術 〜 Magical
Astronomy
おおぞらまじゅつ 〜
マジカル・アストロノミー
・astronomy
「天文学」
Magical
Astronomy.
「魔術的天文学」
CDタイトル曲。
物理学者と精神学者 (魔術師)
が語る宇宙。
それは、壁にぶつかった物理学の発散する方向と
無限のフィールドを持つ精神学の収束する方向、その掛け合わせ。
・大空
(おおぞら)
「広々とした空。いいかげんで頼りないさま。ぼんやりとしているさま」
・大空
(たいくう)
「おおぞら。(仏教用語;だいくうとも読む)
まったく何もないこと。
人も物も実体がなく十方世界が空であること」
月人達の住まう月の都は結界に閉ざされている。
幻想郷のようにね。と、東方永夜抄で八意永琳も結界の存在を述べていた。
兎が不老不死の薬を搗くのは
「卯酉東海道」 でも言及有り。
太陽の三本足の烏は金烏 (きんう)、火烏 (かう) あるいは八咫烏
(やたがらす)。
アニメ 「大空魔竜ガイキング」(だいくうまりゅうガイキング) があるが、
関連は不明。
ネクロファンタジア
Necrophantasia
ネクロファンタジア。
ネクロファンタジア。
Necrophantasia.
「死の幻想」
ストーリー中では、「顕界でも冥界でもある世界」
の語に
ネクロファンタジアのルビが振られている。
東方妖々夢での八雲紫のテーマ曲。
東方妖々夢事典 「ネクロファンタジア」
参照。
生と死の合一は生前と死後を現実世界でもたらすという幻想世界。
少子化が進み緩やかに死へと向かう社会も
出生率を元に戻す努力をする方針ではなく
死ととらえていた人口減少を受け入れた上でシステムを改築し
生と死が混交することで新たな相へと転移した、
そんな未来日本。
ちなみに、妖々夢の曲解説では
「Necro-Fantasia」 とされていた。
向こう側の月
Megalopolis of
Moon
むこうがわのつき。
メガロポリス・オブ・ムーン。
Megalopolis
of Moon.
「月の巨大都市」
鈴仙のスペル、「栄華之夢(ルナメガロポリス)」
を踏まえると
「栄華之幻想」
といったところか。
月世界、荒涼たる月のさらに結界の裂け目の向こう、
栄華に満ちる月世界、ルナメガロポリス。
「蓮台野夜行」
でも 「少女幻想 〜Necro-Fantasy」
にあわせて
結界の向こう、秋の彼岸に桜吹雪を目にしていたが、
今回もネクロファンタジアに沿うかたちで結界の向こうを目にする。
「月の向こう側」
という曲は実際にいくつか知られる。
関連は不明。
あとがき
背景の楽譜は、「亡き王女のためのパヴァーヌ」
の後半の一部分。
東方紅魔郷でのレミリアのテーマ 「亡き王女の為のセプテット」
の元ネタ。
永遠に紅い幼き月。
ブックレットを閉じれば、紅き月。