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彼の世に嬢の亡骸
 
 [タイトル]
 
 Stage6のタイトル。かのよにじょうのなきがら
 「Stage6」とは表示されず、「Perfect Cherry Blossom」とある。
 冥界の白玉楼の非常に広大な庭には数多くの満開の桜が植わっていた。
 桜の森の満開の下を駆け抜けた先に、
 妖怪桜・西行妖と、白玉楼の主である亡霊少女があった。
 
 ・彼の世あのよ、かのよ…「死後の世界、あの世、冥途」
 ・ …「未婚女性、むすめ」
 ・亡骸 …「死んで魂の抜けてしまった身体。死体。屍。遺体」
 
 西行寺家の妖怪桜・西行妖は、幽々子が冥界に現れて以降、開花することが無かった。
 ある日、幽々子は白玉楼にある文献から西行妖に関する記述を見出す。
 それによると、西行妖の花を封印し、その封印をもって「富士見の娘」の魂を
 白玉楼中に安らけくあるよう輪廻転生から解離させたとのこと。
 桜の根元にはその娘の亡骸があることも、霊体だらけの冥界においては異質なことで
 幽々子は、その封印を解くことで復活する何者かと西行妖の満開に興味を抱いた。
 そして、幻想郷中からの春集めが始まったのである。
 
 というわけで、「彼の世に嬢の亡骸」のタイトルは、
 死後の世界なのに、実体(非霊体)としての遺体がある、という謎を表している。
 
 タイトルが現れる前に、以下の言葉が出現する。
 
 「厭離穢土」「欣求浄土」
 
 ・厭離えんり、おんり)…「けがれた現世を嫌い離れること」
 ・穢土えど)…「けがれた国土。迷いから抜けられない衆生の住むこの世。現世」
 ・厭離穢土えんりえど)…「煩悩にけがれた現世を嫌い離れること」
 ・欣求ごんぐ)…「喜んで仏の道を願い求めること」
 ・浄土 …「一切の煩悩やけがれを離れた、清浄な国土。仏の住む世界。極楽浄土」
 ・欣求浄土ごんぐじょうど)…「極楽浄土に往生することを心から願い求めること」
 
 時には「厭離穢土欣求浄土」と連ねて使われる言葉で、
 源信の「往生要集」にある言葉。
 苦悩の多い穢れたこの世を厭(いと)い、離れたいと願い、
 心から欣(よろこ)んで平和な極楽浄土をこいねがうこと。
 また、徳川家康の旗印。
 これは戦国の世を穢土とし、平和な世を浄土と捉えた考え。

 【改訂用の備忘録】
 ★会話
 音速が遅い … 森博嗣の 「今はもうない」 作中の
 「ここの空気は音の伝播速度がずいぶん遅いようだ」 からか。
 (「今はもうない 〜 switch back」 森博嗣著、講談社文庫、より)
 
 桜の下の死体と西行の関係は、荒俣宏の 「帝都物語」 からか。
 「帝都物語」 で中心となる要素の一つに、東京に眠る平将門が挙げられる。
 将門を討ったのは藤原秀郷であるが、その九代目の子孫が佐藤義清、
 つまり西行であった。世の不穏に呼応し目覚めようとする将門を、
 西行は、自身が桜の山野に見出した魂鎮めの力により、封印した。
 魔力ある桜の大樹を植え、将門の遺骨を抱かせた。
 それが将門の首塚の真相であった。
 (「帝都物語 第伍番」 荒俣宏著、角川文庫、より)
 
 「いや、西行とて必死だったのでしょう。彼は各地で魔性の樹桜を植えて
  怨霊の遺骨を抱かせる仕事をしながら、自分の生命も徐々に
  吸い取られていった。もしかしたら、怨霊の骨をしゃぶりたくて飢えに飢えた
  桜の化身が、西行を操っていたのかもしれない」
 (「帝都物語 第伍番」 より)

 
 
アルティメットトゥルース
 
 [音楽]
 
 Stage6のテーマ曲。
 〜究極の真実。すなわち真理。
  というほど大層な曲ではありませんが・・・〜

 (曲解説より)
 
 ・ultimate …「究極の、最終の、根本の、最高の、最大の」
 ・truth …「真実、事実、真相、真理、神」
 
 Ultimate Truth.
 「究極の真実」
 妖々夢の謎が、遂に明かされる!
 …ではなく、ここでは同じく曲解説にある様に「真理」
 仏教用語で「真実で永遠不変の理法。真如」
 真理に目覚めることが悟りである。
 「悟入幻想」の項にも記したので参照されたい。

 
 
ほとけには桜の花をたてまつれ 我が後の世を人とぶらはば
 
 [歌]
 
 Stage6のタイトルと共に現れる和歌。
 Stage5の歌と同様、西行の歌で、共に弘川寺の歌碑に刻まれている。
 弘川寺は、西行が晩年を過ごし、また、入滅した、西行ゆかりの地。
 この歌は、またも西行がこよなく愛した「桜の花」を題材とした歌で、
 千載和歌集に収載されている。
 
 私の死後にどなたかが弔って下さると言うならば、
 仏前にはどうか私の愛する桜の花を差し上げて下さい。

 
 
西行寺 幽々子
 
 [キャラクター]
 
 Stage6のボス。さいぎょうじゆゆこ
 「幽冥楼閣の亡霊少女」
 西行寺家のお嬢様で、亡霊の姫。
 生前は死霊を操る程度の人間であったが、のちには
 人を簡単に死に誘えるまでの能力を持つ様になった。
 自身の能力を疎い、結局自尽してしまった彼女だが、
 亡霊になって以降は生前のこともさっぱりと忘れてしまっている。
 西行妖に封印されている「富士見の娘」とは彼女自身である。
 主に死を操る程度の能力を持つ。
 
 西行寺の姓は、西行にちなむだけか。
 西行寺という寺院があるが、関連は不明。
 千葉・福井・福岡・埼玉・島根など各地に西行寺が実在する
 あるいは実在していた(現在は廃寺とか)。
 西行は各地を旅した歌人であるため、
 ゆかりある寺や、一時的に結んだ庵は数多い。
 例えば、千葉県の浄土宗寺院に光勝山 西行寺(慧心院)がある。
 古くは源信(地獄や六道に関わる項で頻出の「往生要集」の作者)が庵を結び、
 後には西行法師の西行庵が結ばれ、これを修復して西行寺とされた。
 
 幽々子の由来は不明。
 ・幽幽(幽々)…「奥深く暗いさま」
 
 ついでに「富士見の娘」について。
 桜を題材とした歌を数多く詠んだ西行の歌に、富士の山を詠んだものがある。
 風になびく 富士の煙の 空に消えて ゆくへも知らぬ 我がおもひかな
 はっきりとした姿の富士の煙(当時は噴火しており、その噴煙)が
 やがては空中に希釈され消え行く様に、
 私の思いや歌も時間や多くの人類の流れに希釈されてゆくものだろうか。
 仏教観念的な無常観。

 【改訂用の備忘録】
 「弘川寺は西行終焉の地であり、西行寺とも称されることもある」
 (槇野尚一著 「西行を歩く ―さすらいの歌僧を追う旅」 PHP研究所刊、より)
 
 やうやう、ゆうゆう、ようよう…。
 やうやうは、枕草子のやうやう白くなりゆく山ぎは。
 ゆうゆうは、西行寺幽々子。
 ようようは、東方妖々夢。
 なんちゃって。

 
 
幽雅に咲かせ、墨染の桜 〜 Border of Life
 
 [音楽]
 
 幽々子のテーマ。
 〜日本語の曲名はわかりやすくて良い。
  もっともストレートな曲名です。
  何も言うことはない。
  これも、桜の魅力か・・・〜
 (曲解説より)
 
 ・幽雅 …「上品で深い趣があること。また、そのさま」
 
 墨染の桜は、西行法師ゆかりの墨染桜の逸話に関連するものか。
 千葉県東金市の山田に西行が立ち寄った際、
 生まれ故郷と同じ名の地名が懐かしく思われ、
 杖にして持ち歩いていた墨染桜の枝を大地に差し込み、
 深草の 野辺の桜木 心あらぱ またこの里に 墨染に咲け
 の歌を添えて、杖を差したまま立ち去った。
 やがてこの枝は芽を生じ、花を咲かせ、
 里人たちは西行の墨染桜と呼び、大切に守り育てたそうな。
 西行が杖とした元の墨染桜は、京都・深草の墨染寺の墨染桜。
 昔、左大臣(堀川左大臣 藤原基経)が亡くなったときに悲しんだ臣下が
 深草の 野辺の桜し 心有らば 今年ばかりは 墨染に咲け
 と歌を詠み、以来その桜は墨染(喪の色)に咲いたという。
 西行はこれを踏まえて先述の歌を詠んだ。
 
 う〜ん、桜の魅力ですなぁ…。
 "Border of Life" は「生死の境」。
 後述の「ボーダーオブライフ」の項を参照。

 
 
六道剣 「一念無量劫」
 
 [スペル]
 
 妖夢のスペルの一つ。いちねんむりょうごう
 お嬢様の元へは行かせまいと、妖夢渾身のスペル。
 画面中央に位置する妖夢の周囲を取り囲む様に
 八本の剣閃が走り、剣閃上複数箇所を弾源に多方向に楔弾が放たれる。
 
 ・一念 …(仏教用語)「非常に短い時間。60または90刹那。一つの心の働き。一瞬の意識。
             一度の念仏。迷い無く仏を信ずること」
 ・無量劫 …(仏教用語)「限りなく長い時間。永劫」
 
 源信の「往生要集」には、「臨終の一念は百年の業に勝る」とある。
 ここでの一念は、一度の念仏、「南無阿弥陀仏」などのフレーズである。
 浄土信仰が民間で大いに広まった頃には、長く難しい経よりも
 一念を重要視し、一般に受け入れられやすい教義を取ることが多かった。
 先鋭化とも表現されるが、良く知られた例では、日蓮の登場で一気に広まった法華経がある。
 「南無妙法蓮華経」の題目を唱えることだけで、凡夫の身にも仏性が目覚めてゆき
 ひいては成仏できる、極楽浄土へ至れる、という教えがそうである。
 「往生要集」中にも繰り返し「一念」の単語が現れ、
 常日頃の念仏が重要であることが強調されていた。
 
 六道を巡る、無量劫に匹敵する限りなく長い時間の業から
 迷い無く深く強く仏を信じての心の底からの念仏で救済される、とかそういうイメージか。

 
 
亡郷 「亡我郷 -さまよえる魂-」
亡郷 「亡我郷 -宿罪-」
亡郷 「亡我郷 -道無き道-」
亡郷 「亡我郷 -自尽-」

 
 [スペル]
 
 幽々子のスペルの一つ(四つ)。
 上記は難易度順。
 一方のサイドには波状に配置された楔弾群を9層降らせ、
 もう一方のサイドは5本のレーザーで薙ぎ払う。
 「道無き道」では楔弾群を左右3層ずつ降らせ、
 「自尽」では5層と3層を左右に分け、3層のサイドにレーザーを薙ぐ。
 
 ・宿罪 …(仏教用語)「前世で犯した罪」
 ・自尽 …「自殺すること。自害」
 
 幽々子は転生を封じられているため、宿罪の指す「前世」と言えば一つ前の生、
 つまりは生前の幽々子を指す。
 難易度に応じ経時変化があるとするならば、生前史を含むスペル名ということになる。
 幽々子は生前、最終的に己が能力を疎んじ自尽しており、
 それに至るストーリーということだろうか。
 「さまよえる魂」は能力の一人歩き、能力の強大さに対し思慮の足りない自我、という喩えか。
 「宿罪」は前世(生前)の罪、能力で人を安易に死に誘い続けた行為をさすか。
 「道無き道」、己が過ちを悟り、能力の強大さを畏れ疎んじ、
 それでも生きる、あるいは償いの道を模索するか。
 「自尽」、死を操る能力だけで、どんな償いができようか。
 結局は自身の死こそが、現世の安寧につながる道であると悟る。
 勝手なストーリー立て終了。
 
 亡郷亡我はともに辞書に記載無し。
 それぞれ望郷、忘我を幽々子の能力風に「(死ぬ事)」でアレンジしたものだろうか。
 ・望郷 …「故郷を懐かしく思いやること。懐郷。思郷」
 ・忘我 …「夢中になって、我を忘れる事。心を奪われうっとりすること」
 
 亡郷は、幽々子の人間としての生が終わった事で二度と触れ得ぬ地となった、
 生まれた世界であり生を送った現世である顕界を思う気持ちを指すか。
 亡我は、幽々子が自尽することと、
 死を経て生前の記憶をすっぱり忘れ去っている忘我を指すだろうか。
 亡我郷は、亡我(幽々子の死)の地を指すのだろうか。

 
 
亡舞 「生者必滅の理 -眩惑-」
亡舞 「生者必滅の理 -死蝶-」
亡舞 「生者必滅の理 -毒蛾-」
亡舞 「生者必滅の理 -魔境-」

 
 [スペル]
 
 幽々子のスペルの一つ(四つ)。しょうじゃひつめつのことわり
 これも難易度順。
 幽々子から全方位に、異なる曲線で飛来する蝶弾が放たれる。
 さらに自機照準の大玉が飛来。
 大玉をかいくぐる隙に、蝶弾の弾道を読み誤って被弾したり、
 蝶弾の弾道に集中するあまりいつのまにか複数の大玉群に囲まれていたり。
 
 ・生者必滅 …「無常なこの世では、生命あるものは必ず死ぬときが来るということ」
 ・眩惑 …「目がくらんで正しい判断が出来ないこと。目をくらまして惑わすこと。」
 ・毒蛾 …「ドクガ科の昆虫。幼虫は桜・梅などの樹木の葉を食害。
       幼虫、成虫とも、触れると皮膚炎を起こす。夜行性。」
 ・魔境 …「悪魔や魔物の住む世界。魔界。何がいるか分からない神秘的な未踏の地。
       人を誘惑して逃れられなくさせる場所(遊里、賭博場など)」
 
 生者必滅の類義語が会者定離(えしゃじょうり)で、たまに連ねて用いられる。
 会者定離は「会う者は必ず離れる運命にあるということ」。人生の無常を言う。
 必ず、絶対、100%のことと定められている。
 「生者必滅の理」の言い回しは、
 平家物語の「沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことはりを表す」からか。
 死を操る幽々子に「生者必滅」と言われても、無常観どころか
 「遅かれ早かれどの道死ぬのだから、今すぐでもいいでしょう?」と
 妖しく囁かれている様にしか聞こえない恐怖。
 
 花の美しさと儚さを引き合いに無常観と浄土の素晴らしさを出されようが、
 死は死である、という、対比の構図が成り立つか。
 舞・眩惑・蝶・魔境といったところが、美や魅力や夢中の虚像、
 亡・必滅・死・毒蛾・魔といったところが、死や危機や障害の実像を思わせる。
 死へと誘う失われた舞は、
 視覚を侵し、中枢を侵し、身体を侵し、フィールドを侵すか。
 先の亡郷同様、亡舞が失われた舞を意味するか、亡霊の舞を意味するか…う〜ん。
 
 死蝶は、ファンタジーやミステリーに登場する。
 単に「死蝶」は珍しい方で、「黒死蝶」などが代表格か。
 色や模様、死体や血にたかるなどの、死を思わせる蝶、死の象徴、というだけの場合や、
 幻覚作用や中枢撹乱作用のある鱗粉を介して人を危機や死に至らしめる場合、
 死体にたかり養分をすする場合など様々な描かれ方をする。
 ただ、そのような「死蝶」として描かれる蝶が特殊なわけではなく、
 野山の奥深くで、タテハチョウなど数種の蝶が動物の死体に群がっている
 (もちろん、蝶以外にも腐肉の好きな虫も群がっているが)
 なんて光景は実際に目撃されたりしているし、
 風葬の慣習があった頃や飢饉や疫病で死体を処理しきれない折には
 そういった死体に群がる蝶も目撃されていたと思われる。
 また、昔に人にとっては卵 →幼虫 →蛹 →成虫の完全変態も不気味なものがあり、
 結果として蝶は不吉なものあるいは霊的なものとして避けられていた節がある。
 (万葉集には蝶の歌は一つも無いらしい)
 ヨーロッパなどでは霊・魂のシンボルと考えられ、
 この世のものではない属性の生き物とされてきた点も興味深い。
 
 ちなみに、蝶は鱗翅目(チョウ目、ガ目とも)に分類される昆虫で、
 チョウとガは同じ分類群である。
 顕著な昼行性を示すアゲハチョウ上科などいくつかの分類群の総称がチョウであるが、
 チョウとガの定義や境界は曖昧で、系統分類学的に根拠ある区別は無く、
 系統分類学的にはチョウはガの一部である。
 言語・文化によっては両者を区別しないものもある。

 
 
華霊 「ゴーストバタフライ」
華霊 「スワローテイルバタフライ」
華霊 「ディープルーティドバタフライ」
華霊 「バタフライディルージョン」

 
 [スペル]
 
 幽々子のスペルの一つ(四つ)。難易度順。
 幽々子から全方位に中玉が放射され、へにょりレーザー様の霊が飛来する。
 霊は自機狙いで収束し、色とりどりの弾丸群が華開く。
 華が収束すると再び霊様体となり自機狙いで収束…を繰り返す。
 
 ・butterfly …「チョウ」(英語では優雅さよりもむしろせわしなさを連想させる語)
 ・swallowtail (butterfly) …「アゲハチョウ」
 ・deep-rooted …「深く根ざした、根深い」
 ・delusion …「惑わすこと、間違った信念、思い違い、錯覚、妄想」
 
 スペル開始直後に、幽々子から花の萼片に見立てたかのような小弾群が放たれる。
 幽々子から全方位に放たれる中玉を花弁あるいは花の香と見立て、
 収束・散開を繰り返す弾群は群がる蝶を意味するか。
 
 Ghost Butterfly.
 直訳で「幽霊蝶」
 東方萃夢想を踏まえて「幽胡蝶」と意訳してみる。
 胡蝶は蝶のこと。
 
 Swallowtail Butterfly.
 "butterfly" があってもなくても「揚羽蝶」を意味する。
 英語圏ではツバメの尾を見立て、スワロウテイル、
 中国では鳳凰に見立てて鳳蝶。
 蝶について詳しくは前項に詳述した。
 
 Deep-rooted Butterfly.
 直訳で「根深い蝶」。…難解。
 "butterfly" には「快楽主義者」の意味もある。
 「根深い快楽主義」、幽々子が自分本位に死の能力を行使するのは
 根深いところに快楽を感じている部分があるということだろうか。
 また、"root" は、"root out" のかたちで、「根こそぎにする、根絶する」の意味もある。
 Deep Rooted Butterfly.
 直訳で「根絶された蝶」か?
 う〜ん、難解(deep)。
 
 Butterfly Delusion.
 「蝶の妄想」
 妄想(delusion)は心理学用語。
 「現実検討能力が障害されることで、現実的にはありえないことを
  強い確信を持って信じてしまうこと。他の人によって訂正できないほどの信念。」
 こう見ると、"deep-rooted"(根深い、強く定着した)と関連しているようにも思える。
 "delusion" を、思い違い、錯覚、の意味で取ると
 今度は「胡蝶の夢」と解釈できるだろうか。
 「荘子が、蝶となり百年を花上に遊んだと夢に見て目覚めたが、自分が夢で蝶となったのか、
  それとも、蝶が夢見て今自分になっているのか、と疑ったという故事」
 その故事から転じて
 「夢と現実との境が判然としないたとえ。この世の生のはかないたとえ。」

 
 
幽曲 「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -偽霊-」
幽曲 「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -亡霊-」
幽曲 「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -幻霊-」
幽曲 「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -神霊-」

 
 [スペル]
 
 幽々子のスペルの一つ(四つ)。難易度順。
 画面上部数箇所で蝶弾群が散開し、菱形網目を形成する。
 規定パターンなので、被弾しない位置を記憶して突破する弾幕。
 網目展開後、大量の蝶弾群が4群、それぞれ自機照準で飛来する。
 
 ・亡霊 …「死者の魂。亡魂。幽霊。過去にはあったが、現在では存在していないものの例え」
 ・神霊 …「神。神の御魂。霊妙な神の徳。神の霊験。人が死んで神となったもの」
 ・repository …「容器、収納庫、貯蔵所、倉庫、集積所、宝庫、埋葬所、納骨堂」
 
 Repository of Hirokawa.
 「弘川の埋葬地」
 西行が晩年を過ごし、また、入滅した地と伝えられる弘川寺を指すと考えられる。
 西行ゆかりの地は全国に点在し、埋葬地や終焉の地も、
 文献等を細かく追えばいくつか現れると思われるが、
 現在、墓所として知られるのは、
 弘川寺(大阪府河南町弘川)
 西行塚(岐阜県恵那市長島町)
 雙林寺の供養塔(京都府京都市東山区下河原鷲尾町)といったところ。
 文献&一般的にも有名で、複数の歌碑や西行塚、
 西行堂や西行記念館を敷地内に備える弘川寺がやはり筆頭か。
 
 偽霊は何だろう…幽体離脱?生霊?
 偽霊<亡霊<幻霊<神霊 で、なんとなく格の昇順となっているような気がするが、
 辞書記載の単語とそうでないものが交互なので確証持てず。
 幻霊をレアな幽霊と解釈すれば、レア度昇順?
 
 幽曲は、五音(ごおん)の一つ。
 五音とは、世阿弥が用いた能の用語で、謡(うたい)の内容による5つの謡い方。
 祝言・幽曲・恋慕・哀傷・闌曲。

 
 
桜符 「完全なる墨染の桜 -封印-」
桜符 「完全なる墨染の桜 -亡我-」
桜符 「完全なる墨染の桜 -春眠-」
桜符 「完全なる墨染の桜 -開花-」

 
 [スペル]
 
 幽々子のスペルの一つ(四つ)。難易度順。
 全方向に大玉が放たれ、開幕。
 蝶弾群が自機に狙いをつけつつ、少しの間小さく旋回し、
 線状に分裂しながら先ほど狙いをつけた位置に飛来する。
 また、画面上部各所に粒弾が出現し、直下あるいは微妙に斜めに降り注ぎ続ける。
 Hard 以降では開幕時以外にも大玉が放たれる。
 
 墨染の桜については、「幽雅に咲かせ、墨染の桜 〜Border of Life」の項を参照。
 西行の墨染桜は、京都の墨染桜の枝を千葉の東金に差したところ生長し開花したもの。
 親株の墨染桜は故人を偲んで詠まれた歌に呼応するかのように
 墨染の色の花が咲いたことから名付けられた。
 「完全なる」とは、現在我々が目に出来る墨染桜ではなく、
 従来の伝説のとおりに墨染の色(喪の色)に咲き誇る桜、ということか。
 願い(哀しみ)の込められた歌を詠み、それに呼応して開花することも「完全」には不可欠か。
 Perfect Cherry Blossom.(東方妖々夢・英題)
 
 折れた桜の枝を遠い別の場所に差し、そこで再び生を得る構図を、
 死後、冥界にて亡霊のお嬢様として幽雅に生活(?)を送る幽々子へと見立てているだろうか。
 「完全なる墨染の桜」の「開花」は、西行妖の開花、
 娘株としての亡霊の幽々子に対する親株としての遺骸の幽々子復活を指すか。
 本スペル後、幽々子をついに撃破し西行妖の開花を食い止めたかに思えるが、
 願いの込められた歌が詠まれ、呼応する様に西行妖の開花の進行と
 反魂の儀式が始まる…。
 
 封印亡我(自尽)はそれぞれ西行妖の封印と、幽々子の自害を指し、
 春眠は、春度が十分集まってきているがまだ開花には到らない眠りを意味し、
 開花は、春度の集中で遂に西行妖の桜も開花を始めた(満開ではない)ということか。

 
 
身のうさを思ひしらでややみなまし そむくならひのなき世なりせば
 
 [歌]
 
 幽々子撃破後の静寂の中 現れる和歌。
 山家集、新古今和歌集に収められている、西行の歌。
 西行の出家の後に詠まれたとされる。
 静賢の恋の歌、
 身のうさを 思ひしらでや やみなまし 逢ひみぬ先の つらさなりせば
 の派生歌として知られる。
 
 ・身の憂さ …自分の境遇に対する憂悶の思い。歌のテーマによって苦悩は異なる。
 ・やみなまし …終わっていただろう。現実に反する仮定に基づいて予想する心を表す。
 
 仏の道という、背くことのないものが無い世の中であったならば、
 自分の業を知らないで、死んでしまっていたことだろう。
 
 幽々子(生前)に置き換えると、
 生者必滅の避けようのない理が無い世界であったならば、
 自分の(能力の)業を知らないままで生を終えたことだろう。
 生命のかけがえの無さに気付き、自身の業を痛感し、
 結果、自身の能力を疎んじ自尽した、その気持ちが込められていると解釈できないだろうか。

  
 
ボーダーオブライフ
 
 [音楽]
 
 ???のテーマ。
 「反魂蝶」時に流れることから、
 西行妖のテーマ、反魂蝶のテーマ、あるいは幽々子(生前)のテーマといったところか。
 〜生死の境。
  生きていることを説明するには、死んでいるものが必要である。
  だから、死なない生き物は存在し得ない。
  生きていなければ死ねないし、
  死なない生き物は生きてもいない。
  私は生命の実態を、この厚さ0の生死の境であると考える。〜

 (曲解説より)
 
 未だ生を知らず、焉んぞ死を知らんや。と孔子様も仰っている。(論語) 
 生あるものに死は訪れ、生の無いものに死は訪れない。
 生に対する死、死に対する生を踏まえて「生」と「死」を定義付ける以上、
 死なない生き物は存在し得ないのは自明とも考えられる。生者必滅の理。
 ゆえに生を知らずして死を知り得ず、死を知らずして生を知り得ない。
 対極に位置する以上は境があり、太さゼロの線が引かれる。
 しかし、生命体の死がどの瞬間を指すかの厳密な定義付けは不可能である。
 生と死の境がいずこかに引かれることは理解できるが、
 その境自体を認識することは不可能である。

 
 
反魂蝶 -一分咲-」
「反魂蝶 -参分咲-」
「反魂蝶 -伍分咲-」
「反魂蝶 -八分咲-」
 
 [スペル]
 
 和歌の詠唱の後、シルエットのみの幽々子が出現し、
 ボーダーオブライフの狂おしい旋律と共に展開される。はんごんちょう
 幽々子シルエットに被弾判定は無く、
 制限時間すべてを使って弾幕を避け切る、回避専念弾幕。
 線状に並んだ蝶弾群が放射され、続いて円環状4層の蝶弾群が
 時計回り・反時計回りと交互に回転しつつ散開、手元で各蝶弾が分裂し線状に並んで直進する。
 この時、放射状にレーザーも張り巡らされる。
 桜の大樹から桜花が多量に舞散るイメージで時折アイテム群が降ってくる。
 時間経過と共に弾数が増え、レーザーで区切られる空間が狭くなる。
 伍分咲以降は合間に大玉の投射もある。
 
 ・反魂 …「死者の魂をこの世に呼び返すこと。死者をよみがえらせること」
 
 「反魂」は「撰集抄」の「作人形事・於高野山」に記される語で、
 西行法師が人骨を集めて人造人間を作る際に用いた秘術、反魂法である。
 野ざらしの人骨を収集し、人の形に並べ、ある種の薬を塗り、いく種かの葉を乗せ、
 藤の若葉から作った糸で骨を繋ぎ、水で洗った後に別種の葉を焼いた灰を頭部に擦り、
 全体をござで包み、十数日放置後に沈香と共に反魂の真言を唱える。
 しかし、出来上がったものは、
 人に似ているが色は悪く感情がない。声は琴や笛のようであったという。
 結局は気持ちが悪いだけなので、高野山奥地に不法投棄しちゃったらしい。
 後日、反魂法の大家・源師仲にこの話をすると、
 「大筋のやり方は正しいが、反魂の術が未熟」と言われたらしい。
 
 〜幽々子が転生も消滅もせずに楼中に留まっているのも、
  西行妖の封印があるためである。
  この結界が解けたとたん、
  止まっていた時間は止め処なく流れることになり、
  それは、再び幽々子の死に繋がる。
  自分を復活させることも白玉楼にいる自分の消滅にも繋がる為、
  復活は寸前で失敗するのは当然である。
  やはり幽々子は死を操ることしか出来ないのだ。〜
 (キャラ設定より)
 西行の反魂法が不完全であったことも踏まえてのことだと思うが、
 反魂蝶は「満開=反魂法の成功」に到ることは無いのである。
 
 余談ではあるが、
 西行の反魂は、広義で死者復活の儀式とも取れるが、
 おそらくは複数人の人骨がまぎれており、単なる人造人間作製であろう。
 また、安倍晴明の関わる、陰陽道の祭祀「泰山府君祭」も
 延命長寿や消災、死んだ人間をよみがえらせる、という効果から
 反魂として知られる秘祭である。因果律の操作。
 レミリアの運命(因果律)操作能力があれば反魂も成功するか。


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