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紅い月と瀟洒な従者

 
 〜10〜20年程人間をやっています。
  彼女はその能力により人間から煙たがられてしまいます。
  すでに普通の人間と仲良くやっていくのをあきらめています。
  これといった名誉欲や支配欲などはなく、
  飯さえ食えればそれでいいと思い、紅魔館でメイドをやっています。〜

 (おまけ.txt より)
 
 というわけで、ここでは主に十六夜咲夜に注目して書いてゆく。
 妄想成分は特濃です要注意
 
 吸血鬼を筆頭に、魔女や妖精ばかりが住まう紅魔館において、
 おおよそ全てを切り盛りし、吸血鬼に直接付き従うメイド長。
 その役割を担っているのが、人間の、それも十代の少女の十六夜咲夜である。
 若くして能力ゆえに他の人間からは倦厭され、
 人間との付き合いは最早諦めているが、かといって厭世的なのではなく
 妖怪達の世界で自身の役割を務め上げる日々である。
 
 人間にしてその精神性、そして時空を操るという強力な能力、
 これらを具えている点が殊に目を引く。
 
 通例、妖怪よりも人間は脆く儚い存在である。
 肉体も頑強ではなく、能力も劣り、寿命も吹けば消えるほど短い。
 妖怪達が自らの生物的優位性を誇り、人間を下位に見るとしても
 それは極めて自然な思考であろう。
 特に、妖怪の中でも上位種族に位置する吸血鬼ともなれば
 そのプライドや威厳、下位種族に示す体裁も含めて
 際立った態度が予想されるところである。
 となれば、人間を邸内に住まわせ仕事に従事させる、
 それも奴隷的な扱いではなく、直属の従者として
 人間に自身の身の回りを世話させるというのは
 極めて特殊で珍奇なことと言えよう。
 
 これは単にレミリアが気まぐれで風変わりだったからだろうか。
 いや、レミリアが種族としての人間を下に見ている事は
 会話の端々から見て取れる。食糧だし。(パフォーマンス的な部分もあるが)
 もちろん多少は気まぐれや面白いから、といった点も
 完全に無かった訳ではないかもしれないが、
 これはやはり咲夜自身、その特殊性が重要なポイントなのだろう。
 
 では、その十六夜咲夜を、以下さらに掘り下げてみる。
 
 
 
 咲夜の特技と言えば、ナイフ、時止めが基本である。
 東方紅魔郷から東方文花帖に至るまで、
 咲夜のスペル名の系統としては、大雑把に纏めれば、
 ナイフを起点とした殺傷系、
 時を操る能力を起点とした時空系、
 それらの複合的な特技であるタネなし手品に基づく奇術系、
 に分ける事が出来る。
 従者系というか、職に基づくもの
 (パーフェクトメイド、エターナルミーク)も少数ながらあるが、
 目立つのは上記3グループであろう。
 中でも元ネタを挙げることができるのは、
 その昔ロンドンを騒がせた殺人鬼、ジャック・ザ・リッパー
 漫画 「ジョジョの奇妙な冒険」 の時止め能力、ザ・ワールドである。
 咲夜の各項で紹介済みだが、
 特に 「ジョジョの奇妙な冒険」 は、咲夜の能力とナイフ弾幕、
 そして吸血鬼との関連から着目される。
 
 「ジョジョの奇妙な冒険」 に関する東方紅魔郷でのネタは、
 まずその第三部からのものが挙げられる。
 筆頭が第三部のラスボス、吸血鬼DIO
 そのスタンド能力 「世界(ザ・ワールド)」 である。
 スタンド能力を簡単に著すと超能力であるが、
 多くは人型のビジュアル体として背後霊の様に現出するのが
 漫画表現の長所を活かした特筆すべき特徴であり、
 これらが殴りあったり、それぞれが有する能力を発揮した頭脳戦を展開する。
 DIOの有するスタンドの名が 「世界(ザ・ワールド)」 であり、
 「世界(ザ・ワールド)」 の発揮出来る能力が数秒分の時間停止である。
 スタンド 「世界(ザ・ワールド)」 と時間停止がDIOの能力だが、
 厳密に言えば、DIOの操る 「世界(ザ・ワールド)」 の能力が時間停止である、
 といったような表現になっている。
 また、咲夜のスペル 「ザ・ワールド」 の項にも紹介したが、
 時間停止の間に次々に放った無数のナイフが、
 停止解除と同時に一斉に目標を貫くというナイフ弾幕は印象的である。
 
 「ジョジョ」 第三部ラスボスで吸血鬼のDIOは、
 スタンド・世界(ザ・ワールド) を操り、
 世界(ザ・ワールド) はその能力で時間を止めたり
 時間停止を応用したナイフ弾幕を展開する。
 この、操る・操られるの関係は、
 そっくりレミリアと咲夜の主従関係に符合する。
 すなわち、
 「紅魔郷」 ラスボスで吸血鬼のレミリアは、
 メイド長・十六夜咲夜を従え、
 十六夜咲夜はその能力で時間を止めたり
 時間停止を伴ったナイフ弾幕を展開する。
 
 さて、吸血鬼のDIOだが、彼は 「ジョジョ」 第一部でもラスボスであった。
 その頃はスタンド能力も身につけておらず、また、当初は人間ディオであった。
 ディオが自らの意思で人間をやめ、吸血鬼化するなどのエピソードが
 印象深い物語であるが、この第一部では、吸血鬼化した後のディオと
 切り裂きジャックが関係する。
 ディオはジャックの精神を気に入り (この場合は悪のエリートとしての精神)、
 自身に服従するよう勧誘し、吸血鬼の並外れたパワーを与える。
 こちらもまた、吸血鬼ディオと切り裂きジャックの主従関係であり、
 吸血鬼レミリアと十六夜咲夜の主従関係に符合する。
 何より、咲夜の殺傷系スペル名、特にジャックの名が用いられている事から
 ザ・ワールド同様、「ジョジョの奇妙な冒険」 が意識されていると考えられる。
 また、吸血鬼ディオとレミリアについても、「ジョジョ」 第一部のセリフに
 レミリアと魔理沙の会話 (パンの枚数) の元ネタがあり、関連性は強い。
 
 これらを踏まえてレミリアと咲夜の主従関係を見ると、
 レミリアは咲夜の能力よりはその精神の方をより強く認めたのではないかと思えてくる。
 その能力が珍しくて面白いと思う要素もあったかとは思うが、
 それよりも咲夜の精神の方が目を引いた、
 妖怪相手にも物怖じせず紅魔館での仕事が務まるとかそんなレベルではなく、
 精神中心の文化に生きる妖怪達をして
 価値ある上質な魂と見る何かがあったのではなかろうか。
 肉体的、物質的な性質は人妖で大きくかけ離れるが、
 身体能力や超越的な能力、容姿や仕事をこなす能力といった表面的なところよりも
 人妖に共通している中で特に妖怪社会の中心である精神面が素晴らしいならば着目に値する。
 物質文化に近い人間達には分からない所で、
 人間はとかく突出した者を疎んじたり軽んじたりさえしがちだが、
 妖怪達の観点では大きく様相が変わる。
 と言っても、生半なものではないだろう。
 500年も生きてきた吸血鬼が、劣等な存在の人間に対して傍らに仕える事を認める、
 しかも、妖怪の中で上級種族である吸血鬼の振る舞いとして
 他の妖怪から見ても、風変わりだが認めるのには十分な、
 そんな精神の価値が期待される。
 
 そのような精神としてはどのようなものが考えられるだろう?
 ここまで考えを進めると不確定極まり無いが、これもまた一興…
 例えば、人間に煙たがられ疎んじられるがそれをものともしない点。
 これは同種族の中での事だし、人間の所作の克服程度で
 妖怪に気に入られるとも思えない。
 あるいは、ディオに気に入られた切り裂きジャックの悪の精神。
 これは本編で悪としての描写が無いことからこの線でもなさそう。
 確かに、咲夜のおかげで首が転がっていないとか
 人間を捌いているのはお姉様ではない (おそらく咲夜) とか有り、
 紅魔館で吸血鬼に提供される人間の血に
 咲夜の行なう殺傷 (殺または傷) が関与していそうではあるが、
 吸血鬼の食糧事情としては悪がどうのこうのの話ではなくなる。
 「ジョジョ」 作中の切り裂きジャックは幸せそうな女に対する怒り、
 異常性、残虐性をもって凶行に及んでいたと描写される。
 このような精神よりもさらに昇華されたものは考えられるだろうか。
 例えば、その昔、周囲の人々や社会から煙たがられ疎んじられ、
 謗りや中傷、理不尽な扱いを受け、遂にはジャックの様な
 怒りを原動力とした殺人、または、自身の死を回避するためやむなく行なった殺人、
 このような深く暗い、闇のような過去の事実やその心を、その後、

 なんだかカル〜ク乗り越えたような、そんな精神とか。
 エネルギー障壁を正攻法で乗り越える、克服とか改善とかではなく、
 トンネル効果で障壁を意に介さずにすり抜けるような乗り越え方。
 このシナリオの場合は、時間跳躍も組み合わせれば
 咲夜=ジャック説も語れそうなところである。
 咲夜は里ではなく外の世界の人間らしい点 (東方求聞史紀より)
 その割にはアポロが月に到達した事に疎い点 (東方永夜抄・紅魔組EDより)
 時間跳躍さえできれば、これらもカバー出来そうではある。
 時間跳躍が可能という記述は今のところ無いが。
 (求聞史紀や紅魔郷EDで記された時間加速を、永夜抄バリに世界規模に適用すれば可能か)
 
 
 
 求聞史紀の話題が出たところで、ついでに勢いに任せてさらにつっこんでみよう。
 
 一つは吸血鬼ハンター説、
 一つはレミリアが咲夜の名付け主であること、である。
 
 前者は、求聞史紀で阿求が展開した説の通りである。
 反発要素は少なく、また、銀のナイフとレミリアによる改名、
 東方妖々夢以降で見られる妖怪退治の手腕が関連付けられるのが
 本説の特徴である。
 弱点は時系列だが、上で書いたジャックの場合と同様、
 時間操作の可能性があるので完全否定には至らない。
 この説の面白いところは、その昔 大ヒットしたゲーム
 「悪魔城ドラキュラ」 ネタを引き寄せる点である。
 主人公のシモンのメイン武器はムチだが、短剣も扱える他、
 アイテムの一つ、懐中時計の使用で時間停止も可能となる。
 さて、この説はこれ以上は拡張し難いため置いておくとして、
 後者のレミリアによる改名、
 Stage5の 「十六夜咲夜」 の項にも仄めかしたが、その名について。
 咲夜が元吸血鬼ハンターであり、レミリアが象徴的な紅い満月に例えられる
 と仮定するならば、咲夜の元の名として相応しいのは
 満月に対する新月ということで、朔または朔夜といったところだろうか。
 レミリアによる改名、新たな名の持つ呪、言霊により運命が転換し、
 十六夜の苗字で満月の1つ後に控え、
 朔が上書きされ新月の反発要素が消去される。
 夜を名に含む事から夜や闇に生きる性質は存続され、
 花咲くニュアンスから瀟洒にもなる。
 とか何とか、そんなこじつけも展開できそうな話題である。
 
 
 さて、主従の話題はまだ続く…。
 
 東方紅魔郷で運命を操る吸血鬼は敗れる。
 紅魔の異変は潰えることとなったが、結局は紅い館に新しい風が吹き込み、
 澱み滞った空気が新たな世界に旅立つことと同義となった。
 古く冥いその一群は新鮮な毎日を送るうちに
 それまで自身を取り巻いていた外の澄んだ空気と同調し混然となっていることに気付く。
 それは巫女の能力で構築された幻想か、黒い風が吹き荒れた後に自然と落ち着いた現象か、
 あるいは、然る様に刻まれた轍に運命の車輪が転がり込んだだけなのか。
 ひょっとしたら、運命の車輪が走るレールのどこかに転轍機が仕掛けられていたのかもしれない。
 スカーレットの悪魔がポイントを適宜切り替えるのだ。
 
 時にはガス抜きが必要なのだ。
 妖気に満ちる妖怪中心の館で、夜中心の陽の当たり難い所での生活、
 そして、血の匂い――。
 人間離れしているとは言え、あくまで人間。
 如何に精神が強靭であろうとも人間の身体にはその生活が健康的とは言えず、
 心身の密接さから身体が蝕まれれば心もやがて不調を来しかねない。
 強靭な精神もいずれは狂人な精神に逆戻りしかねない。
 なんて事があったのかなかったのか、
 主従の絆は当初よりも随分深まっていたとかそんな要素もあったりして
 自身の敗北込みで咲夜の運命をより良い方向へ運んだとかそんなイメージ。
 主従の絆はそのまま (二度目の改名は無し) で、
 紅魔館にありながらの咲夜の運命を変えるには
 レミリア自身や紅魔館全体の運命をまるごと変える必要があった。
 それだけ大規模な運命操作は幻想郷を巻き込まないわけもなく、
 また、巫女の作用が関わる事も必須であったのかもしれない。
 かくして、幻想郷に広まってやがて薄れて行った紅い霧の様に、
 紅魔館の澱んだガスは外界に吐き出されたのだった。…とかなんとか。
 
 紅霧異変を経て、レミリアは自らが率先して神社を訪れる様になり
 それに伴い咲夜の行動範囲や交友関係も拡大していった。
 主従の関係はそのまま維持であるし、
 人間との付き合いで多少権威は落ちるかもしれないが、
 今後も更に巫女の株が上がって行けば問題となる事はない。
 
 東方妖々夢では咲夜の実力をレミリアが信頼している様子があり、(マニュアル)
 東方萃夢想ではレミリアは覚えたての手品なんぞを披露している。(霊夢BAD ED)
 東方永夜抄エクストラでの会話からは主従関係の強固な様を見て取れるだろう。
 東方文花帖でのレミリアのスペル名にスクウェアがあることも見逃せない。
 経時的な変化は、まだ始まったばかりだろうか。
 
 きっと、主従の話題はまだ続く…。

 
 参考
 「ジョジョの奇妙な冒険」 集英社文庫
 「Wikipedia」 (悪魔城ドラキュラ

 Special Thanks!
 「ほんのひなんじょ」>東方私見 >レミリアの運命を操る力とは?

 



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