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補遺:「永夜考」 / 補遺:「東方竹取考」 / 補遺:「ルナリアン考」

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補遺:永夜考

東方シリーズは毎回まったく同じシステムを取らず、
かといって単純な改善・改良と言う手法でもないシステム変化が行われる。
それらの全てはストーリーならびにその作品に特化した、
ある種、物語の演出上の一片を担っている重要なものとも取れる。
例えば東方妖々夢では春を求めるストーリーを辿る中で
次々と春の象徴としての桜点を集めていく。
反魂蝶を突破した直後には、幽々子の蓄積した春が画面一杯に溢れ返り、
物語の終局と春の解放が見事に演出されている。
今回の永夜抄において同様の物語演出を担う新システムが刻符システムである。
ここではこのあたりを少しばかり掘り下げてみることにする。

本作の異変は月の異変であり、
ストーリーに関わりのない妖怪から見ると永夜異変も抱き合わせで発生し、
妖怪にとってはエネルギーの源たる月が欠け、それが永続するという
とんでもない大災厄であったものと思われる。(東方文花帖(書籍)参照)
それは、自機として異変解決に赴いた妖怪たちにとっても同様で、
夜を止めるというリスクを冒してまでもそうしなければならない利があったと思われる。
その理由とは何であろうか。
一つは時間制限である。
夜が明ければ月は沈み、異変は何事も無く消え去る。
翌日の月は十六夜で、妖怪たちが満月に待ち望む月光とは質も異なる。
次の異変は一月後かも知れないし、もう起こらないかも知れない。
大規模で妖怪たちをなめきった異変を起こすような
強大で大それた犯人は長期間に渡り秘匿され野放しとなるわけである。
あても手掛かりも無い状態で一晩のうちに異変を解決しなければならないわけで、
弄ることができるならば多少の危険は伴っても制限時間を延長したいというのが理由だ。
もう一つは満月のため、とも考えられる。
妖怪たちにとっては満月は特に待ち望まれたものであり、
待宵や十六夜といったほんの少しの不完全さも容認され得ない重要性があるのだ。
その望月が失われる事は、少なくともひと月間は満月をお預け、
トータルでふた月間も満月光線を浴びることができないわけである。
異変を解決できたとしても、それが夜明け頃の解決となると結局は満月のお預けである。
ならば、取り戻された満月を一晩分不足なく解決後に楽しむために、
異変解決に向けて鋭意活動している間は夜を停止させ、
解決後に永夜を解除すれば、一晩分の満月を補充できるわけである。
おそらくは、それらの理由から
数々のリスクや報いを被りながらも夜を止めたかったのではないかと思われる。

永夜の行使は4組の自機キャラすべてが行えている。
次はこれに着目する。
まず、幻想の結界チーム。
紫   「で、迷惑な妖怪って?
魔理沙 「お前の事だよ。また、夜と昼の境界をいじっただろ?

「また」というのは東方萃夢想を指してのことと思われるが、
昼と夜を同居させた萃夢想ステージとは異なり、
今回は夜を優位100%としたものと思われる。
次いで、禁呪の詠唱チーム。
霊夢  「何だ、何時までも夜が明けないからおかしいと思ったら、
     魔理沙の仕業ね。」
魔理沙 「おい、誤解だ。悪いのはこいつ一人だぜ。」
アリス 「何よ。あんたも同罪でしょ?
というわけで、アリスがグリモワールの禁呪でも使って
永夜の術を行使しているものと思われる。
魔理沙はそれを知りつつ共に異変解決に向けて行動しているので共犯=「同罪」。
そして、夢幻の紅魔チーム。
霊夢  「やっぱりあんたね。どうりで、時間の流れがおかしいと思ったよ。」
レミィ 「ほら、普段からおかしな事してるんでしょ?咲夜って、そうだもんねぇ。」
霊夢  「まぁ、いつもおかしな事はしてるけど。今日は一段と大きな事をしてるわね。」
レミィ 「おかしな事をしているのは咲夜だけど、大きな事をしているのは私達じゃないわ。」

おかしな事は永夜で、大きな事は月の異変である。
まぁ、当然のことながら、このチームで夜を止めているのは咲夜で、
生物と弾幕以外の世界の時間の流れを停止させている。
最後に、幽冥の住人チーム。
魔理沙 「そりゃ判るぜ。こんな所に妖気集めた奴が飛んでいればな。」
幽々子 「あら、判って無さそうね。夜を止めているのは私達。」
魔理沙 「お前達だろ?だからやっつけに来たんじゃないか。」
こちらはどうやら、妖々夢での春集めと同じノリで、
周囲から時間を(文字通り刻符を?)集めている模様。
妖夢も幽々子もどちらにとってもかつて知ったるノウハウで、
二人協力して夜を止めているものと思われる。

要するに永遠の夜を作っているのは、
紫、アリス、咲夜、妖夢、幽々子、であり、
夜を停止させずに異変解決に専念しているのは
霊夢、魔理沙、レミリアである。
この中で、前作までに自機キャラを勤めたのは霊夢、魔理沙、咲夜の3名であり、
本作では咲夜のみが弱体化著しい点がプレイヤー間で取り沙汰されるが、
それもそのはず、咲夜はストーリーの最初から最後まで
世界の時を止め続けているのである。
それは攻撃に回せる力も鈍るというもの。
他の時止め役4名は前作までの自機経験は無く、
本来の力よりは弱っているのかもしれないが、不明である。

夜を止めるには妖力(霊力)を消費続け、
苦戦が続けば攻撃に力を回さざるを得ず、時間が進行してしまう。
それを明確に表したのが刻符システムである。
妖怪退治が本質たる人間は、妖怪退治すなわち攻撃が刻符の源となり、
長い寿命に裏打ちされた遊び・戯れが本分である妖怪は、
弾幕を掻い潜る事が刻符の源である。
それらの本分に力を回す余裕が無く、
または被弾したり決死結界に力を回したりと苦戦すると
刻符ノルマが達せられず時間が進行してしまうのは
時間停止に力を回しきれないことの現れである。

何とも上手い具合に各事象がリンクしたシステムである。



補遺:東方竹取考

東方永夜抄には、敢えて挙げるまでもなく
竹取物語の関わりが深い。
ただでさえ長寿命の月人の中で
本作のラスボスである蓬莱山輝夜は永遠を操り永遠に生きる存在である。
輝夜のその永い永い歴史を簡単に纏めるならば、
月世界 → 竹取物語 → 幻想郷、の変遷を辿ることになる。
ここでは、その中間点を担う竹取物語に対して
本作の設定がどの様にフィットするか、
あるいはそれらの因果がどのように東方永夜抄のストーリーに絡んでいるかを
事典中に散在しているものもあるが、ちょっとばかり取り纏めてみる。
といいつつ永い夜の様に長い文章。
赤字は竹取物語に基づく部分、青字は永夜抄設定に関する部分、その他は私の妄想。

まずは輝夜の月世界での出来事を見てみよう。

輝夜は月の姫として大切に育てられており、
やはり我侭な性格を形成してしまったようである。
同じく月の民である天才薬師・永琳に興味本位で禁薬を作らせる。
ただでさえ長寿の月人にして、生来に永遠と須臾を操る能力を持ち、
その存在は永遠である輝夜
にとって、大きな意味を成すものではない不死の薬。
天才・永琳の創薬術と、輝夜の永遠の能力の組合せで創製される薬である。
輝夜が禁に触れた事は直ちに露見してしまい、
姫という身分であるとは言え、容赦なく処刑されてしまう。
輝夜は永遠の存在であると言っても、身体は永遠ではない。
記憶を留めて転生し、魂が不滅である、それが輝夜の存在が永遠であるということ。
死んでもすぐに生まれ変わり、事実上死ぬことがない。

死が意味をもたらさないといっても良い。
単に身体が失われ、別の新しい肉体で生まれ変わるだけだ。
だからこそ、肉体を不死とし永遠に留めしむる不死薬に興味を覚えたのかもしれない。
そう、身体が永遠であろうと有限であろうと輝夜には些末な事である。
単純に生物学的な興味あるいは永遠である自身に身体を伴わせる事に
哲学的あるいは心理学的な何かがあったのかもしれない。
もしくは、人間がその終局としての死を恐れる様に
輝夜もその極限(lim [t→∞])にある孤独を恐れ、
「永遠」の仲間作りに蓬莱の薬を作り、まずは試飲でもしたのかもしれない。

話は戻るが、死は輝夜の罰たり得ない。
月人達は輝夜に対し、
地上の穢き世界、卑しき民の中で一時的に暮らすという罰を与えた。

竹の中に見出された、3寸ばかりの小さくかわいらしい女の子は、
最初の頃は籠の中で養われる。

Kagome-Kagome.
少女は三ヶ月の間に速やかに成長し、輝かんばかりに美しく育った。
永遠と須臾の能力を持つ輝夜には、造作もないことだ。
きらきらと美しい輝夜は、実際光っていた。
部屋に居ても、室内に暗い所が出来る事は無かったとされる。輝いてたから。

輝夜のスペルは全て光か色で煌びやかである。
そんなわけで、輝夜の名を付けられる。
輝夜の美しさは瞬く間に地域一体の評判になり、
家の近所にはストーカーが溢れかえった。
噂の輝夜姫見たさに家の周囲は取り囲まれるは、
正面から直球に求婚したり夜中に侵入を試みようとあの手この手で
日がな一日、年がら年中の猛攻は続いたが、
輝夜を見つけて以来、どういうわけか竹から黄金を見出す才能に恵まれた竹取の翁は
すっかりセレブになっており、鉄壁の防衛網を敷いていたのだった。
(輝夜を養ってくれている地上人にせめてもの礼と月人からの贈り物が黄金)
しかし、その守りの堅さにもめげずに、嵐にも灼熱にも寒冷にも耐えて日参を続ける五人の貴族が居た。
例の無理難題をふっかけられる5人だ。
とっとと身を固めては、と翁が無理やりにでも5人と輝夜を会わせるが、
5つの難題で輝夜は対抗、5人はしっかり身を滅ぼしてしまった。

この中で特に恥をかかされた人物が、Extra ボスの藤原妹紅の父とされる。
同じ藤原姓の藤原不比等が車持皇子にあたるとする説があるので、彼がそうなのだろう。

どこぞの名匠に蓬莱の玉の枝(優曇華の花)を偽造させ、
それを持参し輝夜の目も誤魔化すが、
なんと、匠は輝夜の家にまで報酬の請求に来たのです!
というわけでもう一息というところで
車持皇子は恥をかいて行方をくらませてしまう。

しかし、輝夜は自分と永琳がかつて創出した蓬莱の薬を難題に含めていたわけで、
難題の中で輝夜自らがその姿形を細かく描写したのは蓬莱の玉の枝のみである。
蓬莱の玉の枝=不死薬、優曇華の花=不死薬などとする説もよくある方なので、
これに則れば、蓬莱の玉の枝=蓬莱の薬である。
そう考えると、蓬莱の玉の枝を輝夜が所有しているとするスペル解説コメントにも合致する。
輝夜は車持皇子が持参した物を贋物と知っていながら、
しかし、「実は実物を知っているから」、なんて根拠では
地上人の前でそれが贋物であると証明することも出来ず
匠たちの来訪に助けられたのは竹取物語の通りであろう。
(まさか永遠と須臾の能力で、匠たちが報酬請求に動く時間を早めてはいないよね……)

5人の貴族が身を滅ぼすほどの美女、輝夜姫の噂は帝の耳にも入り、
帝は是非ともと側仕えを申し込むが輝夜はかたくなに拒否。
しかし何故か文通が始まる。
それから数年後、輝夜は月を見ては物思いにふけるようになり、
満月の夜に至ってはたださめざめと涙を流す。
「月の顔見るは忌むこと」とたしなめられるのはこの頃である。
中秋の名月が近づく頃に輝夜が告白することには、
輝夜は月の人間で、月で犯した罪に対する罰で一時的に地上に降りている身であり
このたび罪は晴れ、中秋の名月には月からの使者が迎えに来るため
輝夜は地上を離れなければならない、それが悲しいのだという。

月で罪を犯した罰で地上へ、という輝夜の設定はもともと竹取物語に基づく設定である。
この話は帝の耳にも入る。
帝は速やかに近隣の兵を召集、翁の家人も含め2000人に昇る防衛体制を整える。

中秋の名月の夜、子の時(PM 11:00 〜 AM 1:00 頃)、
天上より月からの使者達が降りてくる。
輝夜姫を護らんと勇んでいた兵や翁も、その姿を見止めてすっかり戦意が損なわれてしまう。
気力を振り絞って弓を射る者もあったが、矢はあらぬ方向へ飛び去ってしまった。
抵抗も殆ど無く、戦いは終わってしまった。
「いざ、かぐや姫。穢き所にいかでか久しくおはせん。」
天人が言うと、何の力か、戸や格子はことごとく開き、
輝夜を護る物は何も無い。

午前0時の夜明けの晩に、
シンデレラにかけられた魔法、篭目の守護は消えてしまったのだ。
輝夜は地上人に別れを告げ、手紙をしたためる。
穢い地上に我慢がならないのか、「早く」とせかす使者もいるが、
輝夜はそれを無視して書き綴る。
と、使者の一人が輝夜に歩み寄り、持参した宝物を示す。
天の羽衣と不死の薬の二点。

そう、この使者が永琳だ。
竹取物語のこの場面で唐突に登場する不死の薬だが、
東方永夜抄のバックストーリーとしては、
蓬莱の薬を月時代に既に作っていることと永琳が使者団に加わっている
ことが
竹取物語にうまい具合に整合するのだ。
輝夜は帝にも手紙を記し、不死の薬を贈り物として残したところで
使者の一人が輝夜に天の羽衣をさっと着せ、そのまま月へ向け飛び立つ。
天の羽衣の効力で、輝夜の翁に対する気遣いや別れの辛さといった気持ちが全く消えてしまう。

月に連れ戻しやすくするための月人の策略だろうか、
輝夜の悩みは消え去ってしまう。
が、
それまで「月には帰りたくない、しかし、地上は生活しにくい部分もある」と
悩んでいた輝夜
に対して感情操作は思わぬ事態を招く。
我侭な性格に裏打ちされた癇癪を起こし、
しかも帰る・帰らないの悩みの選択肢を消し去ってしまったものだから
輝夜は両者からの逃亡を選択する。
相変わらず姫様はわがままを…と聞き流す使者達の中で、
永琳だけは輝夜の無茶苦茶な命令を実行するのだった。
不死の薬を作りながら自分だけが無罪となったことに
申し訳なさで一杯だった永琳は
、輝夜との再会でたがが外れ、
盲目的な忠誠に身を任せるのだった。
そして、月への道程で、使者は皆殺しにされる
(このあたり、輝夜の狂気については後述の月人考にて)

輝夜がいなくなった後、竹取の翁残された面々は悲しみに暮れる。
輝夜のいない世で永遠の命を手に入れて何になろうか、と
帝は最も天に近い場所で不死の薬を焼くよう命じる。
調岩笠(つきのいはかさ)がこの命に従う。

が、その旅半ばにしてその人間は何者かに殺害され、
不死の薬は奪われてしまう。
輝夜に恨みを抱く藤原妹紅の仕業である。
輝夜が去ってしまい、行き場を失った感情の矛先が、
輝夜の残した形見に向かったのだ。

と、竹取物語に基づくのはここまでだが、
キャラ設定テキストで見るところの竹取物語終盤では、少し様相が異なる。
迎えに来た使者達が輝夜を連れて飛び立つ前に
永琳が使者達を皆殺しにし、それを見た地上人(竹取の翁)に口止め料として
蓬莱の薬を渡した
というようにも解釈できる文章となっている。
その地上人は薬を飲まず、ほどなく死亡するが、
殺害されていたことが
(おそらく妹紅が自ら話したのであろう)
後に明らかとなる。
薬を捨てようとしていた地上人に妹紅は襲いかかり、殺害、薬を奪ったのである。

翁が老体に鞭打ってフジヤマヴォルケイノというのも
殺されたのが翁では、月のいはかさの呪いに直結しないのも少々よろしくない。
というわけで、多少強引にこねくってみる。
  
永琳は、輝夜を月に連れ戻しに来た使者の一人。
  当時輝夜と一緒に住んでいた賤しき地上人には、口止め料として
  永琳特製の「蓬莱の薬」の入った薬の壺を手渡した。

  輝夜のことを歴史に残さないための口止めと不死化が目的。
  その後、永琳は輝夜と共謀し、月の使者を全員殺害してしまう。
  それは月への帰路、誰にも知られずにひそかに。
  
関係した地上人は全て、輝夜は月へ帰ってしまったと思っており、嘆く。
  翁もその一人で、
その地上人は、蓬莱の薬を使わなかったらしく間も無く死亡した。
  後で分かった事だが、地上人は何者かに殺されていたのである。

  妹紅はまず竹取の翁を殺害するが、すでに(最初から)薬は帝の手に渡っていると知る。
  しかし壷を手に入れた人間(帝)は何故か、その壺を山に捨てようとしていた。
  帝は薬を天に一番近いところで燃やすよう、調岩笠(月のいはかさ)に命じた。
  妹紅はそこを狙い壺を奪う事に成功した。
う〜ん、ツギハギ…まぁ、行間を幻視したということで。

輝夜と永琳は、人里離れた、妖怪も出るような山奥でひっそりと隠れて暮らす様になった。
そこからさらに時が流れ、月から使者が訪れる事はなくなっており
二人も千ン百年も昔(竹取物語)のことなどすっかり忘れて平和に暮らし続けた。
いつしか
幻想郷は人間界と遮断され、永遠亭もそこにあった。
幻想郷が遮断されておよそ百年という頃に鈴仙が月から逃れて来る。
輝夜は自身が月人であること、竹取物語のことを思い出す。
が、それはそれとして平和に三人で暮らす。

そして永夜抄本編の前。
鈴仙に月から通信が入り、鈴仙を戦争の戦力に連れに来る旨が伝えられる。
鈴仙は帰るつもりであったが、輝夜と永琳は決断を迫られる。

すなわち、鈴仙を帰さないか、それとも口止めに消すか…。
もちろんかどうかは分からないが、二人は鈴仙を帰さない方を選択する。
それは解決困難な難題に思えた。
月の使者を殺せば、またも逃亡生活が始まることになり、
かと言って手練れ揃いの月人から鈴仙を護り、輝夜を秘匿するのは
相当な策と術とエネルギーが必要であることだった。
が、
天才永琳は即座に作戦を立案する。
密室の術。
月から地上へのルートを、それぞれ互いに偽の世界につなぐという系の分断。
月からは穢れない偽の地上へ、穢い地上からはちょっと欠けさせた古の月の記憶へ。

月からの使者が偽の地上へ降り立ち、仮にまやかしであることに気付いたとしても、
引き返して術を突破し、正常なルートを形成しなおすには一晩ではとても時間が足りない。
一晩に限られる、と言うのは、満月が天にある時間である。
おそらくは月と地上の間のルートが形成される条件が満月に限られるのと
穢れた地上を満月光線で浄化して月人が降り立つのにせめて少しだけでも居易くするためだろうと推測。
制限時間に拘束される月人は鈴仙を見つけ出せないのである。
永琳は逃げ切れることを確信する。

しかし、子の刻に指しかかる頃、突如として夜が停止する。
欠けた月は歩みを止め、星々の運行は膠着する。
中秋の名月の子の刻と言えば、竹取物語の折に月人が降臨した時刻である。
どう考えても、この永夜の術は月人の仕業である。
ルートのすり替えが早くも看破され、術の突破に時間を費やせるよう
夜を止めたのだろうか。なるほど、ネックの制限時間を克服するのに最適の術だ。
月人にしてはよくやる。
だが、時間に余裕が生じたのはこちらも同様。
至急、幻影の廊下と無限の扉を形成し、迷いの竹林も含めて二重の迷宮を敷く。
竹取物語では一瞬に全ての空間を解放する能力を月人が行使したのを
永琳は目の当たりにしている。
その対策に、全ての扉に術式封印を強固に施してゆく。
さらに、帝の軍勢を無力化した狂気の月の瞳による催眠術への対策も怠らない。
狂気と荒事の担当に(いつの間にか)
鈴仙が割り当てられ、
前線には紅い瞳の兎軍を配備する。

姫を完全に秘匿するためには自分自身が陽動に出る事も考え、
無限の廊下の先には永琳に有利な天文フィールドも用意され、
万が一のために姫の隠れる通路上には幻影の永琳も配置。
姫を隠す多重封印の完成である。が、ちょっと封印が間に合わなかった。

かごめ 籠目 竹の中の龍は 何時いつ出やる?
世明けの晩に 鳥と薬師がつうぺった…
うしろの正面 満月光線!(字余り)。



補遺:ルナリアン考

本作のラスボス・輝夜とその片腕・永琳は共に月人であり宇宙人である
というのが公式の設定である。
そのキャラクターの本質を見極める上で、
種族を読み解くのは極めて重要である。
では、月に住まい独自の社会を非常に永い間築いてきた月人とは一体何者であろうか?
この情報はキャラ設定テキスト含め、ほとんど語られていない。
太古の地上人が月に住みついた?外宇宙からの流れ者?月面上で自然発生?
この点を分析し、輝夜・永琳の正体を見出すことを本項の目的としたい。

輝夜の能力は、永遠と須臾を操る程度の能力であり、
永琳の能力は、あらゆる薬を作る程度の能力である。
が、それらの能力はゲーム本編ではあまり伺えない。
それはまぁ、レミリアや幽々子など前作までのラスボスも同様で、
運命を操る能力や死を操る能力をスペルに駆使してはいないのだが…。
では、レミリアや幽々子のスペルを思いだしてみると、
レミリアは、吸血鬼・悪魔・紅色に関するスペルを、
幽々子は、死霊・幽霊・魂に関するスペルを放ってくるわけで、
それらは能力よりも彼女らの本質、吸血鬼や亡霊といったところに根ざしている。
話を戻して、輝夜のスペルの場合は、
永夜返しは永遠と須臾の能力と思われる、夜を止めたエネルギーをそっくり返すスペルを使う。
その他に用いられるスペルは、竹取物語に基づく5つの難題とその上位版である。
輝夜は月世界で一度処刑され、すぐに生まれ変わって間もなく
地上に落とされ生活をしているため、魂の本質は月人だが、身体の本質は竹取物語といえよう。
では、永琳はどうであろうか。
薬に関する能力は、実際の所、蓬莱の薬で発揮される程度である。
(壺中系は、名前は薬師の関わる故事に基づきますが、実際は宇宙を弄っているということで)
他のスペルはどうかと言うと…
 壺中、天文密葬 …宇宙いじり・天文学・占星術
 ライフ、ライジング …医術・生命いじり
 オモイカネ …八意思兼神・日本神話
 神代、天人 …日本神話・天上界(月世界)
薬学と言うよりも、古代のシャーマンに直結するような学術知識と
日本神話に関わるスペルがメインで、言うなれば太古の力である。
永琳が自身で言うように、魔理沙・アリスの魔術の起源も認識しているし、
レミリアの500年の歴史も永琳の歴史から見ればゼロに近似と言っている。
要するに、月人と言う種族は、輝夜の様に永遠が具わっているわけでは無いが、
それでも天人(六道の一つ、天上界の住人)の様に有限ながら非常に長寿で、
現代から遡れば太古の時代にまで辿れる歴史を持つものと言える。
仮に永琳の歴史が10万年としても、500年は0.5%、ゼロとは言えず、
100万年としても、0.05%である。
本作のスペルプラクティスで表示されるスペル取得率の表示がxx.xx%と
小数点第二位まで表示されているところを見ると、0.05%でもゼロとは言えないと思える。
永琳の歴史は優に1000万年以上と考えられる。
(ZUN氏が数億年と言われたという情報もあるが不確定)
慧音の語る歴史(日本史)に基づくならば、
神武天皇の誕生が紀元前711年、今から大雑把に三千年前が人の世のせいぜいで、
それ以前は神代、神話の時代である。
ホモサピエンスも30万年前に分化したにすぎない。
すなわち、永琳は人類史以前の日本神話の神に属し、
実際上、八意思兼神そのものと見立てられているのではないだろうか?
そして、そう考えるならば、月人はいつしか月に移り住んだ、
八百万の神の一部ではないだろうか?

月人が神およびその子孫と仮定するならば、
公式設定に符合する点はどれほど見出されるだろうか?
長寿であり、地上から見た天上に住むというのは言わずもがな。
さらに、地上を穢れた世界と見るが、それも
神々の住まう清浄な地とは異なるあるいは下に位置するという視点であろうか。
また、その能力も看過できない。
ただ一声でかぐや姫の匿われた建物の全ての閉ざされた扉を開いた能力だけでなく、
実のところ、キャラ設定テキストには月人の驚異とも取れる能力が隠されている。
 
カグヤは月の民の一族であり、月の姫として大切に育てられていた。
 その為、我侭し放題に育てられていたのだ。
 しかし、ある事件を気にカグヤの生活は大きく変わる。
 興味本位で永琳に、禁断の秘薬である蓬莱の薬を作らせてしまい、
 それに手を出してしまったのだ。
 その事はすぐにばれてしまい、カグヤは処刑された。
 だが、永遠の力を持ったカグヤは死んでもすぐに生まれ変わり、
 事実上死ぬ事は出来なかった。
改行位置は変更したが、そのままコピーさせて頂いた。
お判り頂けるだろうか…
輝夜は蓬莱の薬を作らせた上に、手を出している。
すなわち、もともと魂は永遠の存在であるが、身体は月人のそれで有限である輝夜が、
蓬莱の薬を服用し(手を出し)、身体も蓬莱人形、藤原妹紅と同じ様になったのだ。
その輝夜を、月人達はたやすく(かどうかは不明だが)処刑している。
最後の文から、実際に処刑されたがすぐに生まれ変わったものと解釈できるが、
それよりも、蓬莱人たる輝夜をいったんは死に追いやっているところに驚きを禁じえない。
つまりは、名も無き月人の誰かは、蓬莱人すら死滅させることができる能力を持つことが分かる。
強大な力を持つ輝夜や永琳が月人の使者をひどく気にするのはそのためかもしれない。
人間や妖怪など及びもつかない強力な能力、それは太古の神々の力なのであろう。
そんな月人達の手を振り切るためには、身動きできない程度に痛めつけるどころでは
その何らかの強力な能力によりすぐさま捕らえられる恐れがあるし
もともと相応の強さであるため、手心を加えている余裕などあるべくもなく、
永琳が月の使者を皆殺しにしたのも、そうせざるを得なかったのだろう。

では、そんな月世界の姫である輝夜は何者であろうか?
日本神話の神の中で考えるならば、やはり月の神たる月読命(つくよみのみこと)だろう。
ツクヨミはイザナギの禊の際に、アマテラスやスサノオと共に生まれた神と古事記で示され、
太陽神・アマテラスの対とされる月あるいは夜を統べる神。
万葉集の中でツクヨミは若返りの霊水である「ヲチミヅ(変若水)」を持つ者として現れる。
また、日本書紀の記述では以下のエピソードがある。
 アマテラスと共に天を治めるよう定められたツクヨミ。
 のちにアマテラスの命で保食神(ウケモチ)と対面するため地上に降臨する。
 ウケモチはもてなしとして、山を向いて山の幸を口から生み出し、
 海を向いて海の幸を口から生み出した。
 これにツクヨミは「汚らわしい」と立腹し、ウケモチを殺してしまう。
 ウケモチの死体は穀物の起源となるが、アマテラスはツクヨミの凶行を知り
 「汝、悪しき神なり」と怒り、それ以来、日と月とは隔離される。
いわゆる「日月分離」の神話である。
変若水は蓬莱の薬に、日月分離の神話は輝夜の狂気にそれぞれ結びつくと考えられる。

輝夜の狂気は永夜抄中に散見される。
 Lunatic Princess (狂気のお姫様) [竹取飛翔を参照]
 「でもこの姫は結構悪い事してんのよ。」 [竹取飛翔を参照]
 「輝夜と共謀し、月の使者を全員殺害してしまう。」 [キャラ設定.txt 永琳の項]
 
「何遊んでるのよ!永琳、私の力でもう一度だけチャンスをあげる。
  これで負けたらその時は……。」 
[Final A、『蓬莱の薬』発動前]
 
「あと、夜を止めていたのは貴方達でしょう?
  そんなことして、姫の逆鱗に触れてなければいいけど……。」 
[Final A、紅魔組との会話]
姫の「狂気」を私はその気性の荒さ、というか
怒りに駆られた時の恐ろしさに見ている。
輝夜よりも強いはずの永琳も、輝夜の逆鱗に触れたら大変なことになると
これから自身が戦う相手なのにちょっと心配したりする。
永琳であっても穢き地上人に敗れる失態を演じれば処罰に値するし、
月の使者もウケモチも、逆鱗に触れる者は躊躇いなく死に追いやるわけだ。

そんなわけで、私の説としては、
月人=八百万の神の一部およびその子孫
永琳=八意思兼神
輝夜=月読命&かぐや姫
という見立てと考える。
八意思兼神は、造化の三神の一、高御産巣日神の子とされ、
月読命は、伊邪那岐から生まれた神である。
前者は世界あるいは宇宙の創世に関わる神で、後者は日本国土の創生に関わる神である。
輝夜よりも永琳の方が圧倒的に力を持つという設定にも矛盾しない。
月人達は、日月分離の際に、ツクヨミの側について月に移り住んだ神々、ならびにその子孫で、
太陽神・アマテラスの側についた神々はアマテラスの治める高天原にとどまり、
高天原は光に満ちていた …[未来『高天原』、参照])
アマテラスの嫡流が、神性を持つ天皇の筋である。

さて、そんな仮説を引っさげて、最後にもう一つ考察したい。
 「また、咲夜を見て大変驚くのだが、何故なのかは永琳にしか判らない。」
キャラ設定テキストに一文だけ書かれて、咲夜の謎が解かれるどころか
さらに謎をつきつけたこの文章。
咲夜は月人か?
 →10〜20年生きている人間、と紅魔郷テキストにある。
   また、咲夜は常に「人間」と紹介されているので月人ではなく、
   人間ならば月に居ることも出来ないので永琳との接点は無い。
永琳の地上時代千年間に接点が?
 →仮に出会っていたとしよう。
  永琳は、咲夜の時止めの能力から、咲夜が永夜の術を行使していることをたやすく見抜いた。
  したがって、時を操る能力から人間であっても
  千年の時を越えて存在する事も出来るだろうと納得できる。
  つまり、永琳は大変驚く事にはならないので、この仮定は矛盾する。
永琳と咲夜は初対面と結論できる。
では、永琳は何に驚いたのか?
私は、永琳が咲夜の転生前、すなわち前世を透視して
大変驚いたのではないかと推測する。
透視でなくても、魂を感じ取ったのでもいい。
人間にしては強大な能力を持ち、時と空間を操る咲夜、
その前世は日本神話の神なのではないだろうか。
神であれば、造化の三神の子にして八百万の神々の参謀である永琳に知られていても不思議ではない。
神であっても有限であれば死を迎え、転生するものと思われる。
非常に懐かしい魂に触れ、永琳は大変驚いたのだろう。
それでは、その神とは何が考えられるだろうか。
考えやすいところでは、木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)。
咲夜の名との共通点から、永夜抄以前からプレイヤー間で指摘のあった神だ。
天津神のニニギは、イワナガヒメとサクヤビメの二人の娘のうち
美しいサクヤビメとだけ結婚した。
イワナガヒメは岩の様に永遠の命の象徴、サクヤビメは繁栄と儚い命の象徴、
したがって、天皇の寿命は短命(エフェメラリティ)となったとされる。
サクヤビメは富士山の浅間大社に祀られる神であり、
また、酒造の神ともされている。
さらに、奈良・平安時代の竹に関わる民俗に結びつきが深いとされる吉野のあたりに
阿多比売神社というものがあり、コノハナノサクヤビメを祀っている。
このことと富士山と浅間神社のコノハナノサクヤビメとの符合から、
竹取物語のかぐや姫としてコノハナノサクヤビメを考察する者もある。
総括するならば、コノハナノサクヤビメは、
 サクヤの名
 富士山(藤原妹紅)との関わり
 エフェメラリティ(慧音スペル)との関わり
 竹取物語との関わり
 ZUN氏の大好きなお酒との関わり
といった複数の手掛かりから、東方シリーズとは関わりが強いと考えられ、
従って、その名が符合する咲夜はコノハナサクヤビメの生まれ変わりなのでは!?と考えられる。
が、永琳が大変驚くには値しないと私は感じる。
イザナギとイザナミの間に生まれた多くの神の中の一神のその娘がコノハナノサクヤビメで、
神々の系譜の中で永琳が出会って驚くほど特殊な位置では無いと思えるからだ。
大掛かりなミスディレクションなのか、
ミスリードを防ぐための一言が永琳ビックリの文だったのか
それは判別し兼ねるが、
永琳が驚くほどなので、相当な神の生まれ変わりなのではなかろうか。
私は、宇宙の創世に関わった造化の三神のいずれか一神なのではないかと考える。
そのうち一神(あるいは二神)は永琳の親である。
時と空間を操る咲夜だが、
東方文花帖における使用スペルには「トンネルエフェクト」「インフレーションスクウェア」と
どちらも宇宙の誕生の最初の極めて短い時間に深く関わる現象、
トンネル効果とインフレーション宇宙に基づくスペルがあるのだ。

まぁ、随分と大胆な仮説を展開した感がありますが、
大きな矛盾が無ければいいや、とかそんな感じで書いてますので
あまり信用なさらぬように…。



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